『機動戦士ガンダム 劇場版メモリアルボックス』は2008年6月30日までの期間限定生産で、価格は18,900円。BOXのイラストは安彦良和氏の描き下ろしだ |
日本のアニメを語る上で、けっして無視できない不朽の名作『機動戦士ガンダム』。最初の放送からすでに28年の月日を経ているが、いまだに色褪せない魅力を保っている。そんな『機動戦士ガンダム』の劇場版3部作『機動戦士ガンダムI』『機動戦士ガンダムII 哀・戦士編』『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』をまとめたDVD-BOXが、バンダイビジュアルから12月21日に発売される。これらの作品は、2000年に完全新アフレコ仕様として一度DVD化がなされているが、今回は、劇場公開時のオリジナル音声がそのまま使用されている。
そこで今回、『機動戦士ガンダム』の主人公であるアムロ・レイ役の古谷徹さんに、当時の思い出を振り返りつつ、アムロ・レイ、そして『機動戦士ガンダム』の魅力についてお話を伺ってみた。
オリジナル音声による劇場版『機動戦士ガンダム』の登場意義
――劇場版の『機動戦士ガンダム』が、DVD-BOXとしてここでふたたびリリースされることについて、何か感慨のようなものはありますか
「正直に言うとですね、2000年にも特別版といって、音声をすべて録り直してリリースされているんです。そのときは、SEも全部新しく作り直しましたし、セリフも当時よりさらに煮詰めて。富野監督がすべてアフレコに参加して、セリフの一部分を変更したりもしてるんですよ。こっちのほうがいいだろう、って。で、その際に富野監督からは、『昔のことはなぞる必要はありません。みなさんが思うようにやってくださればいいです』って言っていただいて。ただ、僕はやっぱり昔のアムロがいいと思っていたんで、昔とまったく同じように演じたつもりなんですよ。で、満を持して、これがベストだろう、って出したんですけど、昔のガンダムにこだわるファンの方たちから"音が違う"って」
――まったく同じようにやったはずなのに、違う?
「特に効果音やBGMが変わったのが良くなかった様です。とにかく、オリジナルが聴きたいというラブコールが多く、今回のリリースにいたったわけなんですよ。だから、僕にしてみたら、"何でなの?"って思うわけですよ(笑)」
――古谷さんにとってみれば、2000年の特別版がベストだったと
「そうなんですよ。そういう印象があったわけですよ。”あのときもみんなちゃんと買ってくれて喜んでくれたじゃない"、"5.1chだし"って(笑)」
――古谷さんご自身は、当時を振り返って、「アムロは少し若くやりすぎた」といった発言をなさっていますが、前回のアフレコの際は、そのあたりは修正したんですか?
「うーん。それについては考えなかったですね。前回のアフレコ時は、収録前にちゃんとオリジナルを観て、現場に臨んだんですよ。きっちりとインプットして」
――同じアムロを演じるために?
「はい。だから近づいているはずなんですけどね。ただ、後日、というか最近になって、もう一回改めて観ると、やっぱり当時のアムロのほうが、現在僕が演じるアムロよりもずっといいんですよ。ファースト(TVシリーズ)からは28年が経ちますけど、その間に、僕が得たものというか、その代わりに失ったものというか、やっぱり僕自身が変わっているわけですよ、全然。それがセリフのアチコチに出るんです。どうしても出てしまう。若くて世間知らずだったゆえの"純粋さ"であるとか、そういったものに関しては、やっぱり戻れないんですよ。昔はやっぱり"白"に限りなく近かったんじゃないですかね。今はもう、いろんな色が混ざっちゃってますけど(笑)。大人になって、いろんなことを知っちゃってますし。そればっかりはどうにもならないんですよね」
――つまり、2000年の特別版と今回リリースされるものを比べてみると、古谷さんの歴史がわかるわけですね
「そうですね。もちろん良くなっているところもあると思うんですけど、ナイーブで純粋な少年アムロを演じるうえでは、当時の僕がやっぱりベストだったんですね。何か"ワザ"を覚えてしまったがゆえの変化でしょうか。感性自体は変わってないと思っているんですけどね」
古谷徹とアムロ・レイの出会い
――それでは、当時を振りかえる意味で、古谷さんとアムロとの出会いについて、教えていただけますでしょうか
「最初はオーディションだったんですけど、当時の音響監督だった松浦さんという方に、すごくかわいがっていただいていたんです。『おれは鉄兵』という作品からご一緒させていただいて、水島新二さん原作の『一球さん』というアニメなどにも出させていただいていて。その音響監督の松浦さんは、声優たちの普段の姿を大事になさる方で、作品を通じて一緒に旅行に行ったりだとかするんですけど、そういったときの、スタジオ以外で見せる声優の姿を観察していらっしゃるんですよ。それで、『古谷にアムロをやらせたらいいんじゃないか』と思ってくださったみたいです」
――それで、オーディションを受けたわけですね
「実際にオーディションを受けて、まず最初はビックリしたんですよ。"戦いたくない主人公"って。"戦いたくないんです"とか"暗いんです"とか言われて……。でも、待てよと。これって、自分がちょうど当時悩んでいたことへの回答なんじゃないかと。当時はまだ『巨人の星』の"星飛雄馬"っていう、大きなレッテルが自分にはあって、周りの人も"古谷徹=星飛雄馬"って見てましたから。僕自身も、ヒーロー役を演じると、どうしても飛雄馬になってしまう。なんとかそこから抜け出したい、というジレンマがあったんですよ。抜け出さないとプロになれない、と思ったので。そんなときに巡りあったのが、まったく違うタイプのキャラクターじゃないですか。これで認められれば、僕はプロの声優としてやっていけるんじゃないかって思ったので、アムロに懸けてみる気になったんです」
――アムロに出会うまでは、古谷さん自身にも大きな不安があったということですか?
「そうです。ワンパターンではプロとしてやっていけないだろうと思ってましたから」
――それでアムロをやり遂げて、自分の中に大きな自信ができたというわけですね
「おかげさまで作品はヒットしましたし、ファンの方もたくさんついてくれました。もちろん、自分自身もやり遂げたなあ、っていう感触もありました。そして、それによって業界の人たちも、僕のことを認めてくれたんじゃないかと思います」
――どんな役でもこなせるんだということが認められたわけですね
「そうですね。アムロ以降は、さまざまなキャラクターを演じる機会を与えられたと思います」