モーターショーのコンセプトカーは未来のデザインを先取りしたようなものが多いが、ダイナミクスやボリューム感など「かっこよさ」を表に出したコンセプトカーとは別にもう一つ、人への優しさをテーマにした「癒し系」モデルも多数出品される。ここでは人や街に溶け込んで共存することをテーマにした、そんなモデルを紹介する。

スズキ PIXY

ぷよぷよした素材でできたホンダ「PUYO」

ホンダブースで目立ったのはシャープなデザインのコンセプトカー「CR-Z」だが、もうひとつ、対照的な軟らかいデザインの「PUYO」も注目を受けていた。プレスブリーフィング時には、福井社長がこれに乗って登場した。外観は丸みを帯び、ボディ外装は柔らかいシリコン系素材でできており、内部にジェルが入っているため、触ると"ぷよぷよ"している。会場では車体には触れないが、シリコン素材には触って確かめることもできるようになっている。

ボディは柔らかく発光するなど、見た目に優しい作りとなっている。外観デザインはできるだけシンプルに、しかし残ったデザイン要素がクルマだと分かるように、車体前部を膨らませているほか、ボディとウィンドウの境界部を前方に向けて傾けることで、方向がわかるようにしているという。上部全てを開放感のある透明素材とすることで見晴らしをよくし、ドアの内側に盛り上がる部分を作ることで、開放感と安心感が演出されている。

その外観ばかりが取り上げられる「PUYO」だが、動力は燃料電池。「FCX CONCEPT」に使われているFCスタックを使っているのも隠れた魅力(?)だ。

PUYO。ドアはガルウイング

横から見ると窓とボディのラインが微妙に傾き、赤いブレーキランプがあることから右が前であることがわかる

緑色に光っているところが実際に触れるボディ素材。どこかで触ったことのある感触だ

ひとり乗りのコミューターがモーターショーの流行?

電動の1人乗りシティコミューターがトヨタ、スズキの2社から出品されていたほか、日産自動車も以前に発表したPIVOを進化させた「PIVO2」を出品している。トヨタの「i-REAL」は次世代のパーソナルモビリティを目指したもの。歩行時には立った姿勢のまま、走行モード時には低い姿勢に変化し、コーナリング時にはバイクのように車体がバンクする仕組みも持っている。

トヨタ「i-REAL」。モデルによる走行デモが行われていた

外装色は白のほかに黒も用意されていた。共に実走が可能

スズキの「PIXY」も「i-REAL」と同様に一人乗りだが、こちらはキャノピーがついた密閉型で、人の歩く速度に合わせ、それ以上の速度が出せないようになっている。操作は室内にあるマウスのような装置で行なう仕組み。PIXYは、ほかのユニットに収納して高速移動を行ったり、ボート形状のユニットと合体して水上走行なども可能にする。合体したときにはPIXY内にハンドルが別途現れて、そちらを使って操縦する。会場にはPIXYを2台収納できる軽自動車移動ユニット「SSC」が展示されていた。そのほか、スポーツカーユニット「SSF」、ボートユニット「SSJ」なども構想されている。また、SSCのボディにはソーラーパネルが搭載され、太陽光で充電を行えるという。

右の一人乗りユニットがPIXY、奥の箱状のものがSSC

PIXY応用例。モータースポーツやボートなどもPIXY経由で操縦できる

スモールコミューターはどこへ行くのか?

トヨタは箱形のコミューター「RiN」も出品している。"快適性の向上"と"心美しく健やかな生き方"をテーマに、ドライバーの心理状態に応じたイメージ映像を作り出す「調心ステアリング」や、「酸素濃度コンディショナー」「スポット加湿」などの機能を搭載する。外観は屋久杉がイメージされ、ドアは障子と、全体的に和のテイストが盛り込まれているという。

屋久杉をイメージしたボディカラーは白と緑で構成されている

こちらはリア。ウィンドウは大きく天井も高い

日産の「PIVO2」は、リチウムイオン電池を使った電動シティコミューター。小さく見えるが3名乗車が可能だ。前回のモーターショーで出品された「PIVO」はキャビンのみが回転していたが、PIVO2ではキャビンに加え、4輪全てにインホイールモーターを搭載し、車軸がなくなったことで全てのタイヤを独立して動かすことが可能な「メタモ・システム」を採用した。タイヤもキャビンも自由に動かせるため、縦列駐車をするようなケースでも好きな向きでスペースにクルマを納め、降りたい向きにキャビンを回転して乗降が可能となる。

PIVOはクルマとしての完成度は高かったので、今回のPIVO2ではかわいらしさを出すために「ピーボくん」と呼ばれるロボティックエージェントをインパネに搭載した。エージェントに搭載するカメラでドライバーの感情や披露具合を読み取り、やさしくドライバーに注意を促す。こうしたエージェントを使うことで、ドライバーは感情を損ねずに注意を聞き入れてくれるという効果を狙っているという。

3名乗車が可能なPIVO2。バイワイヤ技術により、ステアリングを4輪独立制御している

ドアはキャビンのフロント側に備え、「行きたい方向にまっすぐいける」という

フォルクスワーゲンが世界初公開した「space up!」は、9月にフランクフルトモーターショーで発表されたコンセプトカー「up!」に続くスモールカー第2弾。上のコンセプトモデルに比べるとはるかに現実的だ。初代「ビートル」や「マイクロバス」と同じように、リアに動力ユニットを搭載するという。動力ユニットは、ガソリン、ディーゼルに加え、電気も用意される予定。特徴的なのはその観音開きとなるドアで、広々とした開口部となる。前後ドアの間にピラーがないため、前席のシートベルトはリア側ドアに装備。インテリアも優しい色調になっている。

色使いは優しいのだが、ライトがちょっと吊り目っぽい印象

外観のサイズのわりには、室内は広い