少し前まで、カーナビといえば贅沢品だった。しかし今やカーナビはほとんどのクルマに純正オプションとして用意され、街中でカーナビを装着しているクルマを見ることも珍しくない。また、クルマの高級グレードにはカーナビを標準装備としているものも少なくない。なかでも安価で機動力の高い「メモリーナビ」を集めてみた。

カーナビのメディアはHDDやメモリーへ

カーナビは地図データを収録することから大容量記録媒体が必須だ。古くはCD-ROMにデータを収納したものから始まり、やがてより大容量のDVD-ROMを記録媒体として使用するいわゆる"DVDナビ"に移行した。そしてさらにデータ容量が大きく読み出しも高速な"HDD(ハードディスク)ナビ"へと主流は移り、現在では各社のフラッグシップモデルはもちろん、普及機でもHDDナビが主流となりつつある。

もう一方で、サンヨーの「ゴリラ(GORILLA)」など、車体から取り外しが可能な「ポータブルナビ」が別の市場を確保しつつある。クルマを降りる時も一緒に取り外して持ち歩け、複数のクルマにも付け替えできるのがメリット。ポータブルナビには一般的なカーナビを小型のボディに詰め込んだタイプもあるが、今回注目したのは最近増えてきた「メモリーナビ」だ。

メモリーナビはカーナビの記録媒体にフラッシュメモリーを使用したもの。半導体であるフラッシュメモリーには可動部分がないため振動に強く、消費電力も抑えられ、小型化も可能といった特長がある。つまり車載用途に向いているのだ。また、半導体メモリーはCD-ROMやDVD-ROMよりもはるかに高速で、データを読み込むまでの待ち時間はないに等しい。HDDを使う20~30万円台クラスの製品と比べても、速度が高速な場合もある。これがあまり使われなかったのはメモリーのコストが高かったため。それが昨今の半導体の価格下落により、十分な競争力を備えて登場したというわけだ。

メモリーナビ最大のメリットは価格

メモリーナビの魅力は、まずその価格だろう。一般的なカーナビは安価なモデルでも10万円台中盤、高価なモデルは30万円を超えるものまであるが、メモリーナビは5万円程度のものが主流。メモリーが安くなったというだけでなく、可動部分がないことや、小型にできることなどもコストに関係しているようだ。

また、高価なナビゲーションは盗難の対象ともなっている。愛車の窓ガラスやドアを壊され、挙げ句の果てにカーナビを盗まれるという事例が少なくない。メモリーナビなら盗まれても平気というわけではないが、安ければあまり泥棒の興味も引かないだろう。なにより、メモリーナビは着脱できるから、クルマを離れるときに一緒に持っていくなり、ダッシュボードに隠してしまうこともできる。

またメモリーナビの多くはバッテリー駆動が可能なため、旅行中にホテルで次のドライブプランを練ったり、レストランで食事をしながら次の目的地を考えたりといったこともできる。これは固定式のカーナビにはマネのできない便利な使い方だ。

もちろんメモリーナビには弱点もある。小型化を重視してか、総じて液晶画面サイズが小さいことだ。7型液晶が一般的な固定型のカーナビに比べて、メモリーナビでは4型程度の液晶サイズが中心。面積でいえば1/3程度の情報しか表示できないことになる。また、メモリーが安くなったとはいえ、HDDに比べればまだメモリー容量が少なく、粗い地図になってしまうのは仕方のないところ。また、後述するが一般的なカーナビには標準搭載されている自車位置検出のためのジャイロが搭載されていなかったり、クルマのコンピュータへの接続もできないのが一般的だ。

ポータブルナビのラインナップ

では、代表的なメモリーナビを紹介していこう。まだHDDナビほど種類は多くないが、バイク搭載、PDA機能など、それぞれ特長を備えている。

サンヨー ゴリラ

サンヨーは早くからポータブルナビ専用ブランドとして「ゴリラ」シリーズを提供している。ポータブルナビは数が少なかったこともあり、いまでも愛用者が多い。現在では固定式カーナビと同じくHDDに8型の大型液晶を組み合わせた多機能モデルも登場している。メモリーナビ市場に国内メーカーで最も早く参入した。現在は地上デジタルチューナーを搭載したモデルと、TV機能のない2モデルをラインナップしている。いずれもHDDナビよりもかなり小型だ。HDDやDVDナビにはオプションでVICS受信ユニットやジャイロユニットが用意されるが、メモリーナビには対応していないのが残念。ぜひメモリータイプでも使えるようにしてほしい。リモコンや車載取り付けキットなど、複数台のクルマへの設置を前提としたオプションが用意されているのはポータブルナビの老舗メーカーならでは。

サンヨー ミニゴリラ「NV-SB250DT」。ワンセグチューナーを内蔵し、テレビも見られるメモリーナビ

マイタックジャパン Mio

台湾マイタックの「MIO」シリーズは、早くから日本国内で販売されていた。クルマやバイクに加え歩行者での使用も考慮されているメモリーナビだ。カー用品店やバイク用品店などでも販売されている。以前はWindows CEを搭載したPDAとGPSアンテナを一体にした製品だったが、現在ではPDA機能を省いたタイプも追加されており、ラインナップが豊富なのも特徴のひとつ。VICS受信やジャイロなどには対応しておらず、自車位置検出にはGPSのみを利用する。オプションとして外部GPSアンテナが用意されている。

マイタックジャパン「Mio DigiWalker C325」。カーナビだけでなく、自転車や徒歩でも使用できメモリーナビ マイタックジャパン「Mio DigiWalker C323」。こちらはカーナビ専用のメモリーナビ

クラリオン DrivTrax

旧ADDZESTブランドでカーナビやカーオーディオを発売していたクラリオンは、2007年4月に「DrivTrax P5」でメモリーナビ市場へ参入した。測位はGPSのみだが、メモリーナビとしては唯一メーカー純正でバイク取り付け用キットが用意されている。PDAなどのように本体後部に操作用のスタイラスペンが収納されている。

クラリオン「DrivTrax P5」。バイク取り付け用キットが純正で販売されているのがユニーク

ソニー nav-u

国内でカーナビやカーオーディオを発売していたソニーだが、2005年に一時撤退。カーナビ市場への再参入の第1弾がこの「nav-u」(NV-U1)だ。測位にはGPSのほか、内蔵の加速度センサーと気圧センサーを利用し、電波の受信できないトンネル内などでもある程度はナビゲーションが可能としている。オプションでVICS受信ユニットも用意されているなど、これまでのメモリーナビの常識を打ち破った充実した機能が特長だ。

ソニー「nav-u」。メモリーナビながらVICSに対応し、自律航法のための加速度センサーや気圧センサーも備えている

VICSや自律航法に対応したメモリーナビ「nav-u」

ポータブルナビは、設置や持ち運びが可能など、その手軽さが魅力のひとつだが、それゆえに通常のカーナビで一般的な機能のいくつかは搭載されていない。クルマのコンピュータからの車速情報やジャイロによる自律航法、渋滞情報を受信するVICS機能などだ。自律航法はビルやトンネルや、高架道路などが乱立した電波の受信しにくい都心部などで有効だが、機器設置の難易度が高かったり、一度設置した後に不用意に動かしてしまうと精度が落ちたりというデメリットもあるため、メモリーナビでは一般的には対応していない。

しかし、ソニーの「nav-u」では自車位置検出に加速度センサーと気圧計を利用することで自車位置の検出を可能にしている。これが最大のポイントだ。また、オプションとはいえ、VICS受信ユニットも用意される。これまでメモリーナビでは利用できなかった渋滞情報を考慮したルート検索も可能になるなど、これまでのメモリーナビの常識を打ち破った製品ともいえる。加速度センサーと気圧計による自律航法の精度はどうなのか、とても興味深い。nav-uを試してみることにした。

ダッシュボードへの設置は非常に簡単

nav-uの取り付けは、付属のクレードル一体スタンドを吸盤でダッシュボード上に固定するだけ。この吸盤はガラスなどに取り付けるようなものではなく、非常に粘度が高く柔らかい素材でできており、「シボ加工」と呼ばれる細かな凹凸が施されたダッシュボードでもしっかりと固定できる。ただ、スタンド部がプラスチック製なのはいいとして、固定用ネジもプラスチックで作りも安っぽいのが気になった。また吸盤部分は柔らかい素材でできているのだが、夏場の炎天下ではゴムが柔らかくなりすぎるようだ。使っていた1週間がほとんど真夏日だったこともあるが、クルマを駐めている間に吸盤が外れて脱落しているケースが何度かあった。やはりクルマを降りるときは本体を外しておいたほうがよさそうだ。

吸盤でクレードルをダッシュボードに固定。思っていたよりずっとしっかりと固定できる ダッシュボード表面にシボ加工が施されていても問題なく固定できる

ジャイロ非搭載の弱点はあるが十分実用になる

気になるnav-uの測位精度だが、開けた場所ではほぼ正確な位置を表示した。ただ、ジャイロを搭載していないためか、自車の絶対的な方角がわからず、進行方向を上に設定していると交差点で止まっている最中に数秒ごとに自車の向きがクルクル回ってしまう現象が見られた。これは測位をGPSに頼っている以上、仕方のないことといえる。しかし、内蔵している加速度センサーのおかげで、GPSのみでは完全に自車が停止してしまうようなトンネル内でも、きちんと道路上をトレースしてくれる点はやはり便利。高速道路と一般道が並行しているようなケースで、一般道に降りてもナビはまだ高速に乗っているものと認識しているケースが何度か見受けられた。気圧センサーの効果は判断できなかった。

便利に思ったのはVICSによる渋滞情報の受信。VICSにはFM放送で送出されるものと、光ビーコン、電波ビーコンの3種類がある。このうちnav-uが対応しているのは光ビーコンと電波ビーコンの2種類。道路上にビーコンの設置された場所を通過すると文字や簡易図形による交通情報が表示され、最新データを受信したことがわかる仕組み。VICSデータを受信すると最後に受信した時間が表示されるので、地図上の渋滞情報がいつのものかちゃんとわかる。

VICSデータを受信すると、画面に簡易地図や文字情報が表示される 走行中は細かい道は表示されないが(左)、停車して数秒経つと全て表示される(右)。細い道路を走っているときは、全て表示される

メモリーナビの発展に期待

昔のカーナビでは、ナビゲーション中にルートを間違えても元のルートから外れたことをなかなか認識しないケースも見られたが、nav-uはルートガイドにかかわらず正しい自車位置が表示されるので、道を誤ったことはすぐわかる。また、そのまま走行を続けると5~10秒程度ですぐに正しいルートに切り替わるのはとても便利だった。地図そのものの情報量は少なく、若干不安を感じるケースもなくはなかったが、コンビニエンスストアやメジャーなファミリーレストランなど、必要最低限の情報は掲載されている。このあたりはメモリーナビ全般で似たような状況なので、メモリーナビを使う以上は割り切って考えるしかないだろう。

とはいえ、今までメモリーナビでは利用できなかった渋滞情報が得られるし、ある程度の自律航法ができるのはやはり便利。なにより値段が安いので、これまでは価格でカーナビを諦めていた人でも購入しやすくなった点は大きい。あとから機能を追加できる点もいい。VICSだけでなく、ジャイロや車速検知なども追加できれば、さらに魅力がアップすると思う。高機能でゴージャスなカーナビは確かに魅力だが、今後はこうした手軽に購入できるメモリーナビ市場も伸びていくに違いない。

ルート検索が完了してから経由地を追加や削除できるルート編集機能も備える 昼と夜では自動的に色を変更して視認性を上げることも可能

平 雅彦(WINDY Co.)