「機動戦士ガンダム」の続編として期待されながら、難解なストーリと複雑な舞台背景、やるせない戦争への想いと全体に漂う重苦しい雰囲気から、当時賛否両論を巻き起こした「機動戦士Zガンダム」(以下「Zガンダム」)。しかし、TV放映から23年が経過した現在でも根強い人気を得ており、ガンダムシリーズの最高傑作ともいわれている。一作年から昨年にかけて劇場版が公開されたのは記憶に新しく、TV時代のファンだけではなく、女性をはじめとした新たな層を取り込みながら、「Zガンダム」は進化し続けている。
そのTV版「Zガンダム」の前期オープニングソング「Z・刻をこえて」やエンディングソング「星空のBelieve」を歌った鮎川麻弥さんが、歴代のガンダムソングを集めたニューアルバム「ガンダム!
ヒストリー・ヒット・ソング」を5月2日にリリースした。今回のアルバムには、自分のカバー曲以外のガンダムソングも収録されており、まさしく"刻をこえた"作品である。23年に渡る鮎川麻弥さんのガンダムへの想い、ニューアルバムの苦労話、そして、知られざる当時の収録秘話を語ってもらった。
すてきな読者プレゼントもご用意! 詳しくはインタビューの最後にて。
幻のオープニングソング?
--リアルロボットアニメの代名詞でもある「機動戦士ガンダム」の続編「Zガンダム」は、視聴者から大きな期待を持って迎えられました。そのスタートで衝撃的だったのが、鮎川さんが歌ったオープニングソング「Z・刻をこえて」です。女性ボーカルが歌うロック調のこの曲は、従来のガンダムの持つイメージだけではなく、アニメソングそのもののイメージがガラリと変わるほど斬新でした。現在でもこの曲が強く印象に残っているという方が多いようです。
鮎川「そうですね…そう言ってくださる方って多いですね」
--「Z・刻をこえて」を作曲したNeil・Sedaka(ニール・セダカ)さんとはお会いしたことはありますか?
鮎川「私はお会いしてないんですが、富野由悠季監督がニール・セダカさんの家があるロサンゼルスまで行って、楽曲を提供してほしいと頼まれたそうです」
--この曲の収録は、TV放映の直前に行なわれたとお聞きしていますが、本当ですか?
鮎川「そうです。本当に(放映の)ぎりぎりでした。あの時のレコーディングは、よく覚えています。富野監督もスタジオにいらっしゃって。ヴォーカルのディレクションをしてくださいました」
--「Z・刻をこえて」の作詞者は「井荻麟」さんですが、その正体が、富野監督だったいうのを当時ご存知でしたか?
鮎川「はい。私は、「Zガンダム」の前に放映された「重戦機エルガイム(1984年2月~1985年2月TV放映)」の主題歌でデビューしたんですが、そのカップリングの曲の作詞が富野監督だったので、ご自身が作詞をされるというのはすでに知っていました」
--富野監督の最初の印象はいかがでしたか?
鮎川「すごく深いんですよ。深過ぎてよくわからないんです。だから、曲をもらって最初の時は、「ん? 」と思いながら歌いました……。実は「Z・刻をこえて」は、最初カップリングとして書かれていて、レコーディングが始まった時は、オープニングソングではなかったんです。エンディングテーマとなった「星空のBelieve」が、当初はオープニングになるはずだったんですね。でもレコーディングをしているときに監督が「うーん、こっちの曲のほうがさあ……いいんじゃなーい? 」と言い出したんです。まさに"鶴の一声"でした。ディレクションをしていただいていて、自分が歌った結果そうなったというのは、シンガーにとってはとても嬉しいことです。命を吹き込んでいる最中にこっちがいいじゃないと変わっていくのは、何か伝わったんだなという実感がありますね。監督の深さというのは、時間が経つと次第に理解できてくるんです。だから今は、よくわかるかなあ」
--お仕事をご一緒されてからはいかがですか?
鮎川「う~~ん、一筋縄にはいかない方ですからね(笑)(監督!失礼いたしました!)。でもすごくユニークな方です。常に向こう側を見ていて、現状ではなく先を考えている。すごく研究熱心で、想像力豊かで、すごくパワーがおありになる。常に、こうじゃないか、こうじゃないかと、色んなものを探し求める気持ちをずっと持っていらっしゃいます。この前、お会いした時も変わっていらっしゃらなかったですね。また、若い人の意見を聞いて僕はやるよ、というぐらいにすごく柔らかい面もお持ちです。今の自分を頑固に守っていくのではなく、何でもやろうよ、というベクトルがあるのを感じました。とても魅力的な方です」
--監督は鮎川さんにとって、どういう存在ですか。
鮎川「監督は、「エルガイム」の主題歌を私に歌わせる最終決断をして、デビューのきっかけを与えてくださいました。その時、サンライズの監督の仕事部屋までお伺いしたんですが、監督が「ん? いいんじゃない」とおっしゃてくれたのです。それで私は、デビューというスタートラインを切れたんです。だから、私の人生にとってとても大事な方ですね」