この連載では、『シリコンバレー式最強の育て方 - 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング-』(かんき出版)の著者で、1on1の第一人者である世古詞一さんより、「部下との距離の縮め方」についてお答えいただきます。

  • 年上の部下と会話できず困りませんか?(写真:マイナビニュース)

    年上の部下と会話できず困りませんか?

Q.部下が自分より年上のため、会話に困る

年下上司、年上部下が近年増えています。背景には、年功序列から成果主義・実力主義への移行や、バブル時代の大量採用によって起こったポスト不足。その後の長引く不況、ITを中心とした新しい産業の台頭など様々です。今後もこの傾向は続くでしょう。

こういった状況の中、ご質問にあるように、「年上の部下に、何を話ししていいか分からない」という年下上司が増えてきました。しかし、実は今の時代だからこそ、年上部下との対話はとても簡単なのです。

その説明をするために、「なぜ年下上司は年上部下と話すのが苦手な傾向があるのか?」考えてきましょう。

上司の仕事は教えるという固定概念

まず、上司の役割とは何か? 上司と呼ばれる人は管理職であることが多いと思います。管理職の責任とは「管理・監督・指導・育成」です。

つまり管理者と呼ばれたり、監督者と呼ばれたり、時に指導者とも呼ばれます。指導して「教える」という役割ですから、「話し手」のイメージがあります。

もちろん、上司になった人というのは、それまで結果を残してきた人でしょうから、自分なりの仕事のやり方や考え方があります。

それを部下に話して聞かせて、同じようにやってもらいたい。そうすれば成果につながるはず。と、多くの上司は部下に教えることをしてきました。

つまり、我々のどこかに、上司の仕事とは「教えること」だという固定観念があるのです。その考えのもとで上司が一番話しやすいのは、年下で自分より仕事ができない部下です。

なぜなら、たくさん教えることができるからです。一方、年上部下や優秀過ぎる部下とは、何を話ししていいか分からなくなってしまうのです。

上司に必要な「教えてもらう」コミュニケーション

この教えるコミュニケーションが、昨今、社会の変化で難しくなってきています。

一つは、今まで成功したやり方が通用しなくなり、上司が必ずしも正解を持っているわけではなくなったこと。二つ目は、パワハラ問題などで、教えた後に「やらせる」ことが困難になったことです。

つまり、一方通行で指導することが厳しい時代になってきた。

では、どうすればいいのか? それは「教えてもらう」=「聴く」コミュニケーションを行うことです。聴くことに重きを置くマネジメントスタイルは、10年以上前から大切だと言われてはいましたが、昨今その重要さが増しています。

「上意下達」から「フラット化」の世界にマネジメントの潮流が移行しているのです。

この、教えてもらう、聴く、コミュニケーションが年上部下にはやりやすい。なぜなら、年上の人が育ってきた時代や経験してきた業務、さらに彼らが将来のキャリアをどう考えているかなどのイメージが年下上司には湧きづらく、「知らない」「分からない」という前提を持ちやすいからです。

その結果、年上部下に対して、教えてと尋ねたり、返ってくる言葉を自然に聴いたりできます。また、私たちは文化的にも上が下に教えるという固定観念を持っていますので、年上の人には「教えて」が言いやすいのです。

では、具体的にどうすればいいのでしょうか?

上司はインタビュアーになるべき

上司は年上部下に対してインタビュアーになるべきです。インタビュアーは、相手に興味や関心を寄せて、しっかりと話を聞いて、いろんな切り口の「問い」を投げかけます。

そうすると、相手は深く内省することができて、新たなアイデアや発見を見出すことができるのです。

このような傾聴や様々な切り口の質問は、「教えてほしい」という前提があってこそ相手に機能するもの。インタビュアーはその前提を持っているからこそ、相手の本音や面白い話を引き出せるのです。

ですから、年上部下に対しても、あたかもインタビューのように本音の話を引き出す対話を心掛けるべき。じっくりと対話をする機会の前には、インタビュアーのように質問項目を準備して、気持ちを高めていきましょう。

教えてもらいたいこと

・過去において行ってきたこと、考えたこと、価値観について
・今のチームの現状についてどう考えているのか? 将来について考えていること

相談したいこと

・今自分が考えている施策、部門の上位方針、チーム状態について

最後に、年上部下に教えるではなく、興味関心を持って教えてもらいたいと思っている自分がいるかどうか? 振り返ってみてください。教えてもらいたいという姿勢(あり方)こそが、コミュニケーションに効果をもたらすものなのです。