この半導体ニュースのまとめ

・AMDが「Advancing AI 2026」でInstinct MI455X、EPYC Veniceなど次世代AI基盤を発表
・AI推論需要やエージェンティックAIの拡大を背景に、GPUだけでなくCPU市場の成長も強調
・ROCm.AI、MI430X、MI350P、Gorgon Halo、Ryzen AI Embedded X100など幅広いAI製品群を公開

AMDが米国時間の7月22日および23日に米サンフランシスコで「AMD Advancing AI 2026」を開催した。基調講演は2日目に開催され、同社のLisa Su CEO以下による2時間を超える講演が行われた。この期間、AMDは14本ものリリースを発表しており、これらを全部1本にまとめてお届けするのはちょっと無理がある。そこでまずは基調講演の内容をダイジェストでお届けし、個別の詳細に関しては別記事でお届けしたいと思う。

AI推論需要の拡大でデータセンター向けTAMは急成長へ

まず市場概観について。AIのデマンドが急速に増えており(Photo01)、学習に要する計算能力は相変わらず毎年5倍といった勢いで伸びているが(Photo02)、現在はそうした学習よりも推論の比重の方が高まっているとする(Photo03)。

  • 縦軸はトークン数

    Photo01:縦軸はトークン数(単位は兆個)。2年で158倍というのは2024年からなので、2025年からで換算すればもう少し少ない気はするが

  • 縦軸の単位が酷い

    Photo02:縦軸の単位が酷い。10E24というのは1 Yotta Flopsである

  • この先もどんどん推論の比重が増えるとみられる

    Photo03:左側はPhoto02そのまま。右が比重で、2025年は学習と推論が50:50だったが、2026年はこれが60:40で推論が多くなっている。この先もどんどん推論の比重が増えるとみられる

学習は毎年5倍のCompute Powerを必要とするとPhoto02で示したわけだが、Photo03が示すのは推論向けはこれを上回るCompute Powerが必要とされるという話である。結果、データセンター向けのAIアクセラレータのTAMは、CAGR(年平均成長率)45%とかいう狂気じみた伸び率になると予測されるとする(Photo04)。

  • 2030年に推論向けが1兆ドルを超える可能性がある

    Photo04:圧倒的に多いのは推論向けであり、恐らく2030年では学習向けは4000億ドルになるかならないか位で、推論向けが1兆ドルを超えるとか言う話になるわけだ

そして昨今のエージェンティックAIではGPUのみならずCPU性能も重要、という話は以前の記事でも示された話だが、このデータセンター向けCPUのTAMは、CAGRが50%を超えると予測されるというとんでもない話になっている(Photo05)。

  • 金額の絶対値で言えばもちろんGPUというかAIアクセラレーターの方が大きい

    Photo05:金額の絶対値で言えばもちろんGPUというかAIアクセラレーターの方が大きい

結果としてAMDのTotal Compute TAMは2025年が3650億ドルだったのに対し、2030年には2兆ドルに達するという予測が示された(Photo06)。

  • データセンターのTAMの方は伸びしろがあるという話ではある

    Photo06:要するにまだデータセンターのTAMの方は伸びしろがあるという話ではあるのだが、どこまで狙えるのかというのはまた別の話である

ちなみに2025年度の売上高は3464億ドルで、内訳はデータセンターが1664億ドル、クライアント&エンベデッドが180億ドルというあたりだったが、今後はこのデータセンターが急増すると予測されている訳だ。

Instinct MI455Xを搭載する次世代AI基盤「Helios Rack System」を発表

さて今回の発表の1つ目のトピックスは「Instinct MI455X」と、これを搭載する「Helios Rack System」である(Photo07)。

  • 展示用パネル

    Photo07:手に持っているのはInstinct MI455XとVenice、それとSalina DPU/Volcano AI NUCというネットワークチップ2種類を載せた展示用パネルである

  • EPYCを載せたカードと800G Ethernet、それとUALink I/Fカードが並ぶ

    Photo08:昔だとOAM(OCP Accelerator Module)に準拠したカードだったが、もう到底それでは収まらないらしい。右の台には、同じくEPYCを載せたカードと800G Ethernet、それとUALink I/Fカードが並ぶ

今回はInstinct MI455X(Photo08)のスペック(Photo09)が示されたほか、カタログスペックでのVera RubinとHelios(Venice+Instinct MI455X)(Photo10)の性能比較も行われた(Photo11)。

  • ほとんどのスペックはすでに部分的にだが開示されている

    Photo09:ほとんどのスペックはすでに部分的にだが開示されており、これはあくまで再確認

  • HeliosのCompute Blade

    Photo10:HeliosのCompute Blade。横のSu CEOと比較するといかにデカいかが実感できる

  • あくまでカタログスペックでの比較

    Photo11:あくまでカタログスペックでの比較なのであまり意味があるとは思えないが

こちらについての詳細は別記事でもう少し細かく解説するが、実機ベースでの性能比較として、Instinct MI355Xと比較した場合にトークンのスループットが最大34倍(Photo12)となり、トークン生成のコストは最大18倍節約できる(Photo13)とする。

  • 当然ユーザーあたりのトークン数で曲線は変わってくる

    Photo12:当然ユーザーあたりのトークン数で曲線は変わってくる訳だが、ある程度多くなるとMI355Xではダウンするような負荷でもMI455Xはそれなりのスループットが期待できるとする

  • Mediumあたりで言えば丁度18倍近くになる計算

    Photo13:これはPhoto12の逆数みたいなもので、Mediumあたりで言えば丁度18倍近くになる計算

EPYC Veniceを中心にエージェンティックAI向けCPUを拡充

2つ目のトピックスがCPUである。今回リリースでは「EPYC 9006 SP7/SP8、9006X SP7、9006 LP」の4種類がアナウンスされたが、実際には「6種類」がリリースされたようだ(Photo14)。

  • 少なくともSP7とSP8の2種類のパッケージがある

    Photo14:少なくともSP7とSP8の2種類のパッケージがある。次の写真で、右端のVenice SP8 128cのみパッケージが小さいのが判る

このうち今回Veranoは壇上では示されず、Veniceベースの5種類が示された(Photo15)。

  • 左からVenice HF、Venice SP7 256c、Venice SP7 176c、Venice SP7 128c、Venice SP8 128cと思われる

    Photo15:左からVenice HF、Venice SP7 256c、Venice SP7 176c、Venice SP7 128c、Venice SP8 128cと思われる

このうち「Venice HF(Photo16)と「Venice SP7 256c」(Photo17)をアップで紹介したが、Venice HF側は何かCPUチップレットの脇に追加のダイがあるのが判る。ところで6種類というのは、これの派生型で176coreの製品が存在する事がMicrosoftによりすでに明らかにされているためだ。この辺の細かい話は別記事でご紹介したいと思う。

  • CPUチップレット(つまりCCD)は、Venice SP7 256cとは異なる構造に見える

    Photo16:輝度をちょっと引き上げてみた。このCPUチップレット(つまりCCD)は、次に示すVenice SP7 256cとは異なる構造に見える

  • こちらは余分なダイがCCDの脇に無い

    Photo17:同じく輝度を引き上げたもの。こちらは余分なダイがCCDの脇に無い。IODはVenice HFと共通に見える

こんな風に多数の派生型が生まれた理由は、エージェンティックAI向けにはターゲットの異なるCPUが必要であり、それぞれに最適なCPUを用意した(Photo18)からという話である。

  • それぞれ異なるCPUが提供される

    Photo18:Host Node/Sandboxes/General Purpose向けにそれぞれ異なるCPUが提供される訳だ

基本はどれもZen 6ベース(VeranoのみZen 6c)だが、コア構成とかキャッシュ容量、動作周波数、外部メモリI/Fなどが細かく変更されている。代表例としてVenice SP7 256cとTurinを比較したものがこちら(Photo19)。

  • SPECint 2026の数字(推定値)で言うと1.8倍の性能

    Photo19:SPECint 2026の数字(推定値)で言うと1.8倍の性能というのはなかなかである

ちなみにIntelとの比較(Photo20)や、Vera/AGIまで混ぜての比較(Photo21)も示された。

  • 比較基準はTurin(EPYC 9575F)

    Photo20:比較基準はTurin(EPYC 9575F)で、IntelはXeon 6960Pの数値との事

  • VeraとかAGIとの比較はいずれ実機を使ってどこかがきちんと比較してくれることを祈りたい

    Photo21:VeraとかAGIとの比較はいずれ実機を使ってどこかがきちんと比較してくれることを祈りたい(あまりこの数値に信頼性があるとも思いにくい)

特にVeraは非常に有力な競合と見做しているためか、わざわざ1:1の比較も示された(Photo22)ほか、1ラックに収められるコアの数比較なども紹介された(Photo23)。

  • SPECintが適切なベンチマークなのかは疑問が残る

    Photo22:SPECintが適切なベンチマークなのか? というのはVeraの使い方を見るとちょっと怪しい気もしなくはない

  • コア密度はVeniceの圧勝

    Photo23:実際には冷却システムの規模とかも考慮する必要があるので、これだけ比較しても…という気もするが、まぁコア密度はVeniceの圧勝である

VeniceはすでにAWS/Google/Meta/Microsoft/OracleのHyperscalerに向けて量産を開始しており、またDell/HPE/Lenovo/Supermicroの各OEMが製品展開を予定している。出荷およびCloud Instanceの提供開始は今年第4四半期という話であった。

Cerebrasとの協業でHeliosのコスト効率を高める

話がHeliosに戻るが、今回発表されたのがCelebrasとの協業である。Celebrasといえば既報の通り、WSE(Wafer Scale Engine)を利用した色々極北の製品だが、これとHelios(というかInstinct MI455X)を組み合わせる(Photo24)事で、コスト効率を大幅に改善できるという説明があった(Photo25)。

  • PrefillをMI455X、DecodeをCelebrasという形に思える

    Photo24:要するにPrefillをMI455X、DecodeをCelebrasという形に思える

  • 消費電力あたりのトークン生成能力を最大5倍引き上げられる、としている

    Photo25:消費電力あたりのトークン生成能力を最大5倍引き上げられる、としている

ROCm.AIで推論・学習性能を引き上げ

これを支えるソフトウェアの方だが、今回「ROCm.AI」が発表になった。説明によればROCm 7と比較して推論で平均3.3倍(Photo26)、学習で2.4倍(Photo27)の性能が発揮されるとする。

  • キャッシュ周りの改善の影響が大きそう

    Photo26:ここまで上がるのはキャッシュ周りの改善の影響が大きそうに思える

  • FP8以下の精度のハンドリングと、あとはスケジューリングや並列化の最適化というあたりだろう

    Photo27:こちらはFP8以下の精度のハンドリングと、あとはスケジューリングや並列化の最適化というあたりだろうか?

HPC向けInstinct MI430Xは2027年前半に出荷へ

そしてHPC向けとされる「Instinct MI430X」(Photo28)。FP64で288TFlopsという数値は以前も公開されていたと思うが、これが2027年前半に出荷されることが発表された。搭載システムとしてはORNLのスーパーコンピュータ(スパコン)「Discovery」と、フランスのスパコン「Alice Recoque」が最初のものになるそうだ(Photo29)。

  • 具体的にどうMI455Xと違うのかいまだに情報は未公開

    Photo28:こちらは具体的にどうMI455Xと違うのかいまだに情報は未公開である

  • Discovery、Alice Recoqueともにピーク性能などはまだ未開示

    Photo29:Discovery、Alice Recoqueともにピーク性能などはまだ未開示である。Discoveryは2028年、Alice Recoqueは稼働予定時期は未開示ながら、2027年ないし2028年と推定されている

ローカルAI向けにMI350PとGorgon Haloを投入

ローカル向けのソリューションとしては、まず「Instinct MI350P」が発表された(Photo30)。260Bのモデルを稼働可能で、RTX Pro 6000と比較して4倍価格性能比が良く(Photo31)、性能も2~5倍上回る(Photo32)とする。

  • Instinct MI350Pを振り回すDan McNamara氏

    Photo30:Instinct MI350Pを振り回すDan McNamara氏(SVP&GM, Compute&Enterprise AI)

  • 450~600WのTBPを空冷が可能というのはちょっとどうかとは思う

    Photo31:とはいえ450~600WのTBPを空冷が可能というのはちょっとどうかとは思う

  • ローカルのワークステーションなど向けと考えると妥当な比較といえるかも

    Photo32:ローカルのワークステーションなど向けと考えるとまぁ妥当な比較といえるかも

またAMDは今年5月にRyzen AI Haloを発表したが、これの搭載メモリを強化した「Gorgon Halo」も発表された(Photo33)。

  • 違いはメモリ搭載量

    Photo33:違いはメモリ搭載量のみの模様

Ryzen AI Embedded X100でロボティクス市場も注力

Embedded向けでは、すでにRyzen AI Embedded P100シリーズは発表済だが、今回「Ryzen AI Embedded X100」を発表すると共に、これをCOM-HPCモジュールの形で「KRIA AIブランド」で提供する事が明らかにされた(Photo34)。

  • KRIAではあるが別にFPGAは搭載されていない

    Photo34:KRIAではあるが別にFPGAは搭載されていない

AMDはこれをロボティクス向けプラットフォームとして強く推してゆく模様だ(Photo35,36)。

  • 性能の比較対象がJetson Thor

    Photo35:性能の比較対象がJetson Thorというのが判りやすい

  • Jack Huynh氏

    Photo36:KRIA AI SOMを搭載するRoboics Developer Platformを示すJack Huynh氏(SVP&GM, Computing&Graphics)

Zen 7/Zen 8とMI500世代までロードマップを提示

最後にSu CEOから今後のプレビューがいくつか示された。まずCPUに関しては次のZen 7世代に加えてZen 8世代の開発も進行しているとされ(Photo37)、2028年にはこのZen 7ベースのFlorence(開発コード名)を核としたソリューションが提供される予定だ(Photo38)。

  • 2年おきでの投入

    Photo37:こちらは2年おきでの投入である

  • ラックソリューションがFerrara、別にSandbox向けのFidenzaも用意される

    Photo38:ラックソリューションがFerraraになり、これとは別にSandbox向けのFidenzaも用意される

GPUの方は、これは毎年新製品が投入される予定とされる(Photo39)。

  • MI500世代でHBM4eが搭載になる模様

    Photo39:MI500世代でHBM4eが搭載になる模様。そしてCopper&Optical Interconnetというあたり、この辺でOCI MSA準拠のI/Fになるのかも

このMI500世代はMI300世代と比較して2000倍以上の性能向上になる、とした(Photo40)。

  • MI455Xと比較してもかなりの性能向上

    Photo40:MI455Xと比較してもかなりの性能向上だが、どうやってこれを実現するのかはまだ未公開

面白いのはHeliosという名称(というかブランド)は今後も使い続けられる予定の事だ。とりあえずMI500と組み合わされるのは、Zen 7世代のFlorenceではなく、Zen 6cベースのVeranoというのはちょっと興味深いところだ。

  • Heliosのロードマップ

    Photo41:Heliosのロードマップ。Veniceの次はVeranoで、その後にFerraraとくる

ということで基調講演の概略をお届けした。概略だけでこれである。個別の話は順次記事化する予定であるので少々お時間を戴きたい。