この半導体ニュースのまとめ

・名古屋大学発ベンチャーのUJ-Crystalが第三者割当増資により総額4.3億円を調達
・AI時代の電力インフラ向けに、超高耐圧p型SiC基板用ウェハの開発を加速
・AIデジタルツインと溶液成長法を活用し、大電力用パワー半導体向けSiCウェハの社会実装を目指す

第三者割当増資で4.3億円を調達

名古屋大学(名大)発ベンチャーのUJ-Crystalは7月31日、SBIインベストメント、京都大学イノベーションキャピタル、地域と人と未来、その他機関投資家および個人投資家を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額4.3億円の資金調達を行ったことを発表した。

同社は今回調達した資金を用いて、現在開発を進めている溶液成長法による超高耐圧p型SiC基板用ウェハの開発を加速する。なお、年末にかけて一定のマイルストンを達成した場合、一部初回投資家による追加投資の可能性も含め、総額5.7億円の追加調達も検討していくとしている。

UJ-Crystalは、名大 宇治原研究室で長年研究・開発されてきたSiCウェハの溶液成長技術をコア技術とするスタートアップ。事業内容は、パワー半導体向けSiCウェハの開発・製造・販売で、2021年6月に設立された。

AI時代の電力インフラ課題に対応

今回の資金調達の背景には、AIやデータセンターの普及に伴う電力需要の急増がある。

同社によると、世界の電力市場では、再生可能エネルギー由来の電力のうち、原子力発電所3000基分に相当する約3000GWの電力が送電できないという課題があるという。こうした電力を効率的に利用するには、長距離・大容量の直流送電を担うHVDC(High Voltage Direct Current)、高速に無効電力を供給・吸収して電力網を安定化するSTATCOM(Static Synchronous Compensator)、半導体スイッチと高周波トランスを用いた次世代電力変換装置であるSST(Solid State Transformer)など、次世代パワーシステムの高度化が必要となる。

これらの電力インフラを支えるためには、大電力を高効率に制御できるパワー半導体が不可欠であり、その基盤材料としてSiCの重要性が高まっている。

p型SiC基板用ウェハの実装が課題

大電力用パワー半導体に必要なSiC基板の実装を阻んでいる課題の1つが、高品質なp型SiC基板用ウェハの作製である。

現在主流となっているSiC結晶成長法は昇華法だが、UJ-Crystalによると、昇華法ではp型SiCのドーピング制御と高品質化が難しいという。そのため同社では、AIデジタルツインを活用したシミュレーション技術と、溶液成長法を組み合わせることで、超高耐圧p型SiC基板用ウェハの開発を進めている。

  • AIデジタルツインによる溶液成長シミュレーションイメージ

    AIデジタルツインによる溶液成長シミュレーションのイメージ (出所:UJ-Crystal)

この技術は、名大 宇治原研究室のシーズ技術を発展させたもので、NEDOグリーンイノベーション基金による支援のもと、UJ-Crystal、オキサイドパワークリスタル、マイポックス、名大、アイクリスタル、産業技術総合研究所との共同研究により実現したとしている。

  • 6インチ試作サンプルウェハ

    溶液成長によるP型SiC基板の6インチ試作サンプルウェハ (出所:UJ-Crystal)

世界初の社会実装を目指す

UJ-Crystalは、AIデジタルツインによる溶液成長シミュレーション技術を用いて開発を加速し、大電力用パワー半導体に必要な超高耐圧p型SiC基板用ウェハの世界初の社会実装を目指すとしている。

引受先各社は、同社のSiC結晶技術について、量産化ステージを迎えつつある技術として評価しており、SBIインベストメントは、資金面だけでなく事業開発や組織づくりも含めて支援していくとしているほか、京都大学イノベーションキャピタルは、溶液成長法に取り組んできた同社の技術を「ゲームチェンジャー」と表現している。

次世代パワーデバイス材料として展開へ

SiCは、シリコンに比べて高耐圧、低損失、高温動作に優れることから、電気自動車や再生可能エネルギー、産業機器、データセンター電源などで採用が広がっている。今後、AIデータセンターや電力系統の高度化が進む中で、より高性能なパワーデバイスの需要が拡大していくことが想定され、同社のp型SiC基板用ウェハの社会実装が進めことで、そうした次世代電力インフラ向け超高耐圧パワー半導体を実現するための基盤技術となることが期待される。