まだまだ続く、軍用輸送機の降着装置に関する話。「この機体でこうなっているなら、こちらの機体はどうなっているんだろう?」と調べ始めたら歯止めがきかなくなった。ということで今回のお題は、エンブラエルKC/C-390と、手近なとこで川崎C-2。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • 離陸直後のC-2。1本の脚柱に3軸ボギーを組み合わせた構造が見て取れる 撮影:井上孝司

    離陸直後のC-2。1本の脚柱に3軸ボギーを組み合わせた構造が見て取れる 撮影:井上孝司

KC/C-390はトレーリングアームとボギーの組み合わせ

KC/C-390は、欧州機とも民間旅客機とも異なる発想で主脚を構成している。その特徴を順に見ていこう。

前端で支える2軸ボギー

以前の回で取り上げた、A400MやC-27Jなど欧州系の機体は、主脚として前後に複数の車輪を並べて、それぞれに専用のトレーリングアームを設けて個別に上下動を可能とする設計。不整地離着陸の際に、凸凹に追従しやすそうな設計といえる。

それに対してエンブラエルのKC/C-390は、胴体から側面に突き出た横方向の支持ビームがあり、その先端に後方向きのトレーリングアームを取り付けている。支持ビームは左右でそれぞれ別個に用意しており、いずれも胴体の構造材に固定している。

トレーリングアームは左右それぞれひとつだけで、2軸ボギーの前側に付いている。つまり2軸ボギーは前端で支えられて上下に動く。この上下の動きは、地上にいるときの凸凹の吸収だけでなく、脚上げ・脚下げの動作にも用いる。

そのため、脚上げの模様を撮影した動画を見ると、主脚は真っ直ぐ上方に引き込まれている様子が見て取れる。ただし、収納室にきちんと収まるようにボギーの角度を調整する仕掛けがあるようだ。

車輪は各軸の左右にひとつずつあるので、2軸4輪ボギーとなる。説明の便宜上、主脚の前方側にある車輪を前輪、後方側にある車輪を後輪と呼ぶことにして、話を続ける。

旅客機だと、同じ2軸ボギーでも中央部で脚柱とつなぐのが一般的だが、KC/C-390は前端でトレーリングアームとつないでいる。だから、エアボーンして荷重が抜けるとボギーは前端を支持点として、後輪の側が下がる。よって、着陸の際には後輪が先に接地する。

シーソーのように動くロッカービーム

では、荷重の伝達と衝撃の吸収はどうするか。

2軸ボギーを構成する前後の車輪にそれぞれ、おおむね真上に向けてショックアブソーバーが付いている。そのショックアブソーバーの上端側は、共通のロッカービームにつながっている。このロッカービームは可動式で、中央に回転軸があり、シーソーのように揺動できる。

  • あれこれ調べ回って作図してみた、KC/C-390の主脚構成イメージ。左が機首側になる

    あれこれ調べ回って作図してみた、KC/C-390の主脚構成イメージ。左が機首側になる

すると何が起きるか。

着陸の際には後輪が先に接地するから、後輪が接地によって持ち上がり、その上部にあるショックアブソーバーが荷重を受けて縮む。それとともに、ロッカービームが前向きに回転して、前輪を押し下げる方向に働く。不整地で後輪が何かに乗り上げたときにも、同じ動きになる。

逆に、不整地などで前輪が何かに乗り上げると前輪が持ち上がり、その上部にあるショックアブソーバーが荷重を受けて縮む。それとともに、ロッカービームが後ろ向きに回転して、後輪を押し下げる方向に働く。

つまり、シーソーのように揺動するロッカービームとショックアブソーバーをつなぐことで、前輪と後輪のストロークを調整して、前後双方の車輪がスムーズに接地するように働く。それとともに前後の車輪にかかる荷重を均等化する。そういう動きをしているようだ。

しかも前輪と後輪は各々独立したショックアブソーバーを持っているから、個別に荷重を受けることができる。

コンベンショナルな3軸ボギーを使用する川崎C-2

では、我が国の川崎C-2はどうか。これを書くために、以前に撮影したC-2のデモ飛行の写真をためつすがめつしてみたところ…

C-2の主脚は、左右にそれぞれ車輪を設けた3軸ボギー(つまり6輪)で、その中央に、オレオ機構を組み込んだ脚柱を取り付けてある。この構造は、メーカーの住友精密工業がWebサイトで公開している写真で確認できる。

航空・宇宙 | 事業紹介 | 住友精密工業

そして飛行中の写真を見ると、主脚は前上方に向けて引き上げて側面バルジに収容している様子が見て取れる。すると、脚柱を前上方に向けて折り畳んでおり、その際に3軸ボギーは水平状態を保っているのだと分かる。

脚柱はボギーの中央付近に取り付いているから、脚上げ操作が完了すると脚柱は水平ないしはそれに近い角度まで畳まれて、それが2軸目・3軸目の左右車輪の間に収まるのだと理解できる。

  • 脚下げ状態のC-2。主脚収納室扉の開口と3軸ボギーの位置が、おおむね一致しているのが分かる 撮影:井上孝司

    脚下げ状態のC-2。主脚収納室扉の開口と3軸ボギーの位置が、おおむね一致しているのが分かる 撮影:井上孝司

  • 脚上げ状態のC-2。主脚収納室の後方に空きスペースがあり、その前方に3軸ボギーが収まっているのが分かる。つまり、脚上げによって3軸ボギーは前方に移動するとともに、上方に引き上げられている。だから後方に空きスペースができる 撮影:井上孝司

    脚上げ状態のC-2。主脚収納室の後方に空きスペースがあり、その前方に3軸ボギーが収まっているのが分かる。つまり、脚上げによって3軸ボギーは前方に移動するとともに、上方に引き上げられている。だから後方に空きスペースができる 撮影:井上孝司

脚上げ・収納のやり方には違いがあるが、オレオ機構を内蔵する1本の脚柱で3軸ボギーを支えるところは、どちらかというと民航機の主脚に似た、オーソドックスな構造と読める。

ただしこの構造では、3組ある車輪のそれぞれに専用のショックアブソーバーを設けるわけにはいかない。すると不整地離着陸で凸凹をいなすのに不利ではないか、と思いそうになる。

もっとも、C-2は不整地離着陸試験を実施したことがあり、不整地離着陸が不可能ではないことは証明済み。ただし平素は、舗装された滑走路でのみ運用している。そういうところは、本機がどちらかというと戦略輸送機寄りの位置付けであることの傍証といえるかもしれない。

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。