第544回で、H-47チヌークに関連して「タンデムローター機の利点で、胴体の後端部に貨物の揚搭に使用する開口と扉を設けている。テイルブームがあったらこうはいかない」と書いた。基本的にはそうだが、何事にも例外はあるものだ。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
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左下に駐機しているのが、英海軍のAW101マーリンHC.2。ドアを開けていないので分かりにくいが、テイルブームの下の胴体後部にカーゴドアとカーゴランプがある。英空母「プリンス・オブ・ウェールズ」艦上にて 撮影:井上孝司
テイルブームの下に後部カーゴドア
それが、シコルスキーH-53シースタリオンの一族、レオナルドAW101マーリン、そしてロシアのミルMi-26といった面々。
いずれも、胴体上部のメイン・ローターに加えて、テイルブームの先にテイル・ローターを持つコンベンショナルなレイアウト。ただし、テイルブームを相対的に細身にまとめて上部に配置する一方で、胴体は太く、大きい。そして、テイルブームの下方・胴体の後端部にカーゴドアとカーゴランプを設置している。
特にH-53において顕著だが、胴体が長めでテイルブームが短い。その胴体後端部が絞り込まれてテイルブームにつながるところで空気抵抗が発生することが分かり、「象の耳」と呼ばれるストレーキを取り付けたのがH-53の特徴(この後で示す写真にも映っている)。
では、これらの機体もH-47と同じように使えるかというと、そうとはいいきれない。頭上にテイルブームが長く伸びているのと、それがないのとでは、フォークリフト操作の際の要領に違いが生じそうだ。上にテイルブームがあると、貨物を持ち上げるときに、テイルブームにぶつけないように注意しないといけないからだ。
キャビン後方にカーゴドアを持つヘリコプターとしてはエアバス・ヘリコプターズのH135やH145もあるが、これらは観音開きの扉で、かつ床面が高い。だから人や担架の出入りはできるが、車両の揚搭はできない。第一、車両を運べるほどの搭載量も搭載スペースもない。
CH-53は大型輸送に特化した重輸送ヘリ
そこで、CH-53の話をもう少し詳しく書いてみる。重輸送ヘリコプターと称するだけに、サイズも搭載量も大きい。
米海兵隊がシコルスキーHR2Sの後継機となる重輸送ヘリコプター計画を立ち上げたときに、ボーイング・バートルが提案したH-47派生型を退けて、シコルスキー案が採用されてH-53となった。そしてこの機体、実はデカい。6翅のローター径が22m、全長が26.97m、胴体幅が4.7mもある。
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HMMWV(High Mobility Multi-Purpose Wheeled Vehicle)を吊下空輸するCH-53E。HMMWVは決して小さな車両ではないが、それが小さく見えるぐらいにCH-53Eは大きい。サイズ感がバグる 撮影:井上孝司
兵員の輸送だけなら、CH-46シーナイトや、その後継のMV-22Bオスプレイで対応できるが、車両や榴弾砲みたいな大荷物の吊下空輸は(物理的な意味でも)荷が重い。そこで別途、重輸送ヘリコプターを配備する体制が続いている。
まず基本型のCH-53A、改良型のCH-53D、ドイツ向け派生型のCH-53G、特殊作戦型のMH-53Jなどができた。これらは双発で、定石通り、エンジンとトランスミッションは胴体上部に取り付けている。
燃料タンクは、H-47と同様に左右の張り出し(スポンソン)に追いやることで機内スペースを確保した。ただしH-47と違うのは、スポンソンの下に増槽を搭載できること(上の写真にも映っている)。もちろん、増槽を追加すれば人や貨物の搭載量は減るから、そこは搭載量と航続距離のトレードオフとなる。
後述するCH-53Eはエンジンの数が増えたのを受けて、燃料タンクを増やした。左右のスポンソン前部に1,192リットルのタンクがひとつずつ、胴体内部に1,465リットルのタンクがふたつ。さらに、スポンソンに増槽を搭載できる。
CH-53Eから派生した掃海型がMH-53Eシードラゴンだが、これは増槽を搭載する代わりに左右のスポンソンをデカくした。CH-53Kも大型のスポンソンを持ち、総容量はなんと8,650リットル。要するに燃料だけで7トンぐらい積む。
3発のCH-53Eではエンジンを左右非対称に設置
双発機なら、2基のエンジンを左右に1基ずつ配置すればよろしい。ところが、CH-53Eスーパースタリオンや、その後継機CH-53Kキングスタリオンは、パワーアップのためにエンジンを3基に増やした。
固定翼機が3発機なら、そのうち1基のエンジンは胴体中心線上に設置する。非対称配置では推力も左右非対称になってしまい、真っ直ぐ飛べない。ところが、ヘリコプターのエンジンはローターを回すためのものだから、設置位置が左右非対称でも困らない。
CH-53E/Kでは、トランスミッションの左右斜め前方に1基ずつ、そして左斜め後方に3基目のエンジンを置いた。だから外観が左右で違うのが面白いところ。配置図を見ると、オイルクーラーや補機、テイルローター駆動用シャフトの兼ね合いから、この位置が最適と考えたようだ。
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CH-53Eを左側面から。2基のエンジン、燃料タンクを収めたスポンソンと増槽、後部カーゴドアとカーゴランプ、カーゴドアの開口に設けられた「象の耳」が明瞭に分かる。ランプが地面に接しているから、車両の揚搭もしやすいと分かる 撮影:井上孝司
その大馬力を受け止めるためか、ローターは7翅になった。チタン製の桁材とノーメックス繊維のハニカム構造、エポキシ樹脂の外板という組み合わせ。
同じ三発でも、冒頭に写真を出したAW101は、3基目のエンジンを機体中心線上の胴体上部、トランスミッションの後方に置いている。この違いは興味深い。
掃海ヘリは後部カーゴドアが不可欠
H-53とAW101に共通する特徴として、掃海型の存在がある。掃海具を海面に降ろしてケーブルで曳航したり、機雷探知ソナーを海中に降ろしたりするのだが、いずれもモノが大きく、一般的なヘリコプターの側面ドアから出し入れするのは無理がある。
第一、曳航しながら飛ぶから、掃海具やソナーは真後ろに位置していないと具合が悪い。大きな積荷を真後ろに向けて出し入れ・曳航するには、後部カーゴドアとカーゴランプが不可欠となる。
それに掃海具を曳航しながら飛ぶとなると、相応のパワーがなければ対応できない。よって、後部にカーゴランプを持ち、しかも大馬力のエンジンを備える機体が掃海ヘリコプターに向いているといえる。
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MH-53Eの後部カーゴドアを開いて、そこからAN/AQS-24C機雷探知ソナーを降ろしている図。どうやってカメラを仕掛けたのか、テイルブームから機首方向に向けて撮影している Photo : US Navy
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。