AppleのCEOを15年間務めたTim Cook氏が今年の9月1日をもって降板、次期CEOにはAppleのハードウェア開発全般を纏めてきたJohn Ternus氏が就任することが発表された。

Cook氏は今後はApple取締役会の会長に就任する。がんの病魔に襲われ急死したレジェンド、Steve Jobsの後継者としてAppleを引き継いだCookは、Jobsのようなカリスマ的派手さとは無縁のビジネスの人という印象だった。何しろ、JobsからCEOを引き継いだ時のAppleの時価総額を350億ドルから1000倍以上の4兆ドルに成長させた功績は偉大である。

CEOに「賞味期限」はあるか?

ある日本の有力経済紙に“CEOの「賞味期限」は”という興味深い記事を見つけた。記事によると、ビジネススクールによるS&P 500指数構成企業を対象に実施された研究で、CEOの在任期間と企業価値は「逆U字型」の関係があるという結果があるそうだ。結果として「CEOの在任期間が14年以上を経過すると企業価値が低下し始める」という分析だった。Cookの場合、15年目で次期CEOにバトンを渡すということになり、証券アナリストの間ではこの交代劇は高評価を生んでいるという。

そんな分析とは関係ないにしても、CookはAppleという世界最強企業のCEOを15年も務めて、今年65歳、「そろそろ他の分野で人生を送りたい」と考えてもおかしくない年頃だ。今後は本人へのインタビューなども含めて多くの報道記事が出ると思うが、Jobs後のAppleのCEOとして過ごした15年間がどのようなものであったかは興味深い話題ではある。

ビジョナリーなカリスマ技術者・経営者としてAppleを牽引したJobsの後任として登場したCookは、Apple製品の巨大なサプライチェーンを掌握し、25億個のAppleデバイスを世界中に広め、ハードウェアでの成功のみならず、Apple TV/Musicに代表される各種サービス事業の展開でその企業価値を高めた。また、あまり表立った評価はされていないが、製品のライフサイクルで排出される温室効果ガスの削減を推し進めた他、人権を第一に考え、ユーザーのプライバシー保護のために政府を相手に毅然とした姿勢を貫いた逸話はAppleのブランド価値向上に大きな貢献をしたと言えよう。

片や、次期CEOに決定したTernusは、2001年のApple入社以来ハードウェア開発に専念してきた生粋のエンジニアである。むしろSteve Jobsの薫陶を直接に受けた人物の印象がある。

9月のCEO就任後の活躍が大いに期待される。

  • 筆者が所有する歴代iPhoneたち (著者所蔵品)

    筆者が所有する初期のiPhoneたち (著者所蔵品)

おっかない」が「人間力半端ない」、私が実際に会った半導体業界のCEOたち

私はAMDでの24年間の勤務中にAMDを含む半導体各社のCEOと実際に会う貴重な経験を持つことができた。というのも、私がAMDに入社した時期は「日米半導体摩擦」の真っただ中で、私は渉外担当として日米の半導体企業のCEOたちの会合の末席に参加する機会が多くあった。

その当時のSIA(米国半導体協会)の代表メンバーは次のような錚々たる陣容であった。

  • Jerry Sanders(AMD創業者、CEO)
  • Robert Noice(Intel創業者、CEO)
  • Wilf Corrigan(LSI Logic創業者、CEO)
  • Charlie Sporc(National Semiconductor創業者、CEO)

シリコンバレー勃興期に活躍したこうしたとんでもない歴史上の重要人物たちが一堂に会する日米会合の合間に、朝食、昼食、レセプション、夕食などに私自身がいたこと自体、今から考えると不思議な感じがする。その合間にAMDのCEO、Sandersは勿論のこと、他のCEOたちとも話を交わすことができたが、皆個性的な人物でそれぞれに強烈なオーラを感じた。

AMDの創業者でCEOだったSandersとはその後も何度も面会したが、その都度AMDのビジネスに関する事項だけでなく、仕事をするうえでの心構え全般について多くの事を学んだ。

自慢のプラチナブロンドの長髪をなびかせて、190センチ以上の立派な体躯を超高級スーツに包んだSandersは、はた目には如何にもかっこいい、ど派手なシリコンバレーのCEO然とした人物だが、仕事に対する姿勢は大変に厳しかった。

  • ニクソン政権で外交手腕を発揮したHenry Kissingerと写真に収まるSIAのメンバー

    ニクソン政権で外交手腕を発揮したHenry Kissingerと写真に収まるSIAのメンバー (著者所蔵イメージ)

巨人Intelを相手に競合するAMDは多くの試練に直面したが、Sandersの強靭な精神をそのまま引き継いだ企業文化でそれらを見事に乗り切って現在に至っている。多くのAMD従業員にとって、CEOのSandersは非常に「おっかない」存在だったが、皆そのリーダーシップに食らいつこうとした。その理由はSandersはあくまでも自身に厳しい目標を設定し、それを見事に達成することでAMDを成長させ、それが結局従業員自身の成長につながることを皆が知っていたからだ。あくまでも全力を尽くす従業員に対しては、例え目標達成が成らなくても、その努力を労う気持ちを表現する「半端ない人間力」も持ち合わせている。

そういった意味では、CEOとはかなり孤独な仕事であることは間違いない。

重責が増す現代のCEO

米国半導体は世界経済を牽引する非常に大きなアクターだ。そのCEOともなれば、重責は増すばかりだ。CEOが相手にするのは、従来の顧客、株主、従業員に加えて、政府、競合、パートナー、と多岐にわたる。意思決定に与えられる時間はどんどん短くなるし、その意思決定の結果の影響規模はどんどん大きくなる。そしてゆくゆくはその重責を担う後継者を育てなければならない。

CEOたちの挑戦はまだまだ続く。