東北大学、東京大学(東大)、福井県立大学(FPU)、愛知教育大学(愛教大)、北海道大学(北大)、弘前大学(弘大)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京科学大学(科学大)、筑波大学の9者は5月20日、日本ではこれまで北海道浦幌町の「茂川流布(もかわるっぷ)川」セクションの露頭が、約6600万年前の小惑星衝突による環境激変を示す「白亜紀/古第三紀境界」(K/Pg境界)の地層と考えられてきたが、実際にはそこから北東に約4kmの距離に位置する「川流布(かわるっぷ)川」支流上流の泥岩層こそがK/Pg境界層の一部であることを、オスミウム同位体比分析や微化石分析などの多角的な解析によって示したと共同で発表した。
同成果は、東大 大気海洋研究所(AORI)の太田映大学院生、同・黒田潤一郎教授、FPU 恐竜学部の林圭一准教授、愛教大 自然科学系 理科教育講座の星博幸教授、北大大学院 理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野の沢田健教授、東北大 総合学術博物館の細萱航平技術補佐員、FPU 恐竜学部の西弘嗣教授、科学大 理学院の石川晃准教授、JAMSTEC 海底資源センターの鈴木勝彦センター長/上席研究員、北大大学院 理学研究院 地球惑星科学部門 地球惑星システム科学分野の池田雅志助教、弘大 理工学研究科 研究部の折橋裕二教授、ネパールのトリブバン大学のバブ・ラム・ギャワリ講師/研究員、米・ボイシー州立大学のマーク・シュミッツ教授、筑波大 生命環境系の松本廣直助教、東北大 総合学術博物館の髙嶋礼詩教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・環境科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Earth & Environments」に掲載された。
約6600万年前、直径約10kmの小惑星がメキシコ・ユカタン半島北部に落下し、白亜紀および中生代を終わらせるほどの大災害を地球にもたらした。これにより全球的に環境が激変し、恐竜やアンモナイトを初めとする約7割の生物種が絶滅したと見積もられている。
小惑星は、地球表層と比べ相対的に白金族元素を多く含むため、この時の衝突によって地球全域にそれらがもたらされた。原子番号76のオスミウムもその1つだ。天然に存在するオスミウム同位体のうち、安定同位体の「187Os」と「188Os」の存在比(187Os/188Os)は、大陸地殻では約1.4と187Osが多く、マントルや地球外物質では約0.1と少ないことが知られている。
このことから、小惑星衝突や大規模な玄武岩質火成活動が起こると、地球表層には187Os/188Os比の低いオスミウムが大量に供給され、堆積物中の187Os/188Os比は大きく低下する。この性質から、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の急変はこれまで、K/Pg境界層を認定する最も重要な指標とされてきた。
K/Pg境界層は世界各地で報告されているが、東アジアおよび北西太平洋地域では、1986年に北海道浦幌町の茂川流布川沿いに露出する根室層群から報告された粘土層が唯一とされてきた。しかし、この粘土層は上下の地層から産出した浮遊性有孔虫化石に基づいて推定されたものであり、粘土層自体のイリジウム含有量やオスミウム同位体比は検討されていなかった。さらに、岩相や周辺の地質構造から、この露頭が断層破砕帯である可能性も指摘されていたとする。
東アジア・北西太平洋域は、白亜紀末の衝突現場から最も遠く離れた地域の1つであり、小惑星衝突がもたらした気候変動や海洋環境、生態系への全地球規模の影響を検証する上で極めて重要だ。根室層群は、白亜紀から古第三紀前期にかけ、アジア大陸北東縁に面した北西太平洋の半深海底で堆積した地層であり、海洋環境に加え、陸域から供給された細粒砕屑物(粘土成分、植物化石の破片や花粉化石)を通じて陸上環境の情報も記録されている。そこで研究チームは2013年から、同層群におけるK/Pg境界層の探索を進めたという。
今回の探索では、茂川流布川セクションの詳細な調査も行われた。その結果、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の変動が認められず、露頭自体が大規模な断層の破砕帯であることが判明。K/Pg境界層ではないことが確認された。
一方、そこから北東の方向約4kmの距離に位置する川流布川支流上流の泥岩層から、イリジウム含有量の軽微な増加とオスミウム同位体比および含有量の顕著な変動を示す地層が新たに発見された。この地層に対する、微化石の検討、古地磁気方位の解析、および火山灰の放射年代測定の結果、K/Pg境界層の基準とほぼ一致することが突き止められた。
ただし、この地層には層理面に沿った幅1cm未満の小規模な断層が認められ、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の変動幅が世界各地のK/Pg境界層より小さいことから、境界直後の一部が欠如している可能性が示唆された。他地域との比較から、この断層によって衝突直後から約3万年間の記録が失われている可能性があるが、それでも小惑星衝突の化学的痕跡は明瞭に保存されているという。なお、この地層の堆積速度(1000年あたり20~70cm)は、K/Pg層が保存されている他の海洋の地層(1000年あたり数mm~数cm)よりはるかに高いため、100年単位という高い解像度で当時の環境変動を解析できる可能性があるとした。
今後、周辺地域のさらなる調査により、より連続性の高いK/Pg境界層を発見できる可能性があるという。今回発見された地層の上下において、微化石解析や有機・無機元素分析を進めることで、東アジア・北西太平洋域における白亜紀末の陸上気候、海洋環境、陸上・海洋生態系への影響をより詳細に復元できる可能性が期待されるとしている。




