東京大学(東大)、国立天文台、東京都立大学(都立大)、京都産業大学(京産大)の4者は5月21日、太陽に似た特性を持つ「太陽類似星」の観測から、地球型生命の必須元素であるリンの、天の川銀河における各恒星の含有量の増え方が時期と場所によって異なること、および太陽類似星の年齢とリン含有量との間に明瞭な相関があることを突き止めたと共同で発表した。

  • 今回の研究の概要

    これまで、太陽は現在と同じ天の川銀河の中心から約2万7000光年の距離のどこかで生まれたと考えられてきた。しかし、太陽のリン含有量が周囲の若い星より約25%も多いことが明らかにされ、より内側で誕生して外側へと移動してきたという説を後押しする強力な証拠になった。(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の松永典之助教、国立天文台 JASMINEプロジェクトの辻本拓司助教、都立大大学院 理学研究科 物理学専攻の谷口大輔助教、京産大 神山天文台の大坪翔悟研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、「The Astrophysical Journal Supplement Series」に掲載された。

宇宙には天然に約90種類の元素が存在するが、宇宙開闢時のビッグバン元素合成で大量の水素と全体の約4分の1のヘリウム、そしてごくわずかながらリチウムが合成され、その後の原子番号6の炭素から同26の鉄までの多くの元素は、水素やヘリウムを燃料とした星の核融合により合成されたことがわかっている。しかし、鉄までの元素のうち、詳細な合成メカニズムが未解明な元素も複数ある。原子番号15のリンもその1つだ。

リンは、DNAやRNA、細胞膜、「エネルギーの通貨」と称されるアデノシン三リン酸(ATP)など、地球型生命が活動するために必須の元素だ。同元素は、理論的には、大質量星や重力崩壊型超新星での合成が主要な起源と考えられているが、それだけでは観測される量を十分に説明できないという指摘もあり、新星爆発や別の起源による寄与も提案されている。さらに、どの核合成天体がどの程度の量を合成しているのかも未解明だった。

この問題を観測によって調べようとしても、太陽のような比較的寿命の長い小~中質量星では、リンの吸収線が可視光スペクトルに現れないため、その含有量を測定できない。一方、近赤外線スペクトルには観測可能なリンの吸収線が存在するため注目されているが、それらの微弱な吸収線を高精度で測定できる近赤外線分光器は世界的にも数が限られている。そのため、銀河におけるリンの起源と進化を探るために必要な観測データは、これまで十分に得られていなかったとする。

そうした中、研究チームはこれまで、チリのラスカンパナス天文台のマゼラン望遠鏡(主鏡口径6.5m)に設置した近赤外線高分散分光器「WINERED」を用いて、さまざまな種類の恒星においてリンの測定を進めている。なお同分光器は、東大と京産大が民間企業と共同開発したもので、その優れた性能が評価され、現在は国内外複数の望遠鏡に設置されて活躍している。

そんなWINEREDを用いた今回の観測で対象とされたのは、質量、表面温度、重元素量などが太陽に近い太陽類似星である。これらの星は互いに性質が極めて近いため、星ごとの元素組成のわずかな違いを高精度に比較することが可能だ。

過去の研究では、太陽類似星の元素組成には年齢に応じた系統的な違いがあることが示されており、その違いから、各元素が銀河内でどのように増えてきたかが議論されてきた。しかし、リンについてはこれまでほとんど測定が行われていなかった背景がある。そこで研究チームは今回、年齢が高精度で確認されており、5~90億年の幅広い年齢分布を持つ46個の太陽類似星をWINEREDで観測し、近赤外線スペクトルからリンを含む16元素の含有量を測定したという。

なお、今回の観測における最大の強みが、リンの観測方法だ。同元素については、それぞれは微弱であっても5本の吸収線を組み合わせることで、個々の吸収線だけでは難しい高精度の測定が可能になったとする。典型的には、リンの含有量を誤差約10%以内で見分けられる精度が実現された。

  • WINEREDで測定したリン吸収線の例

    WINEREDで測定したリン吸収線の例。太陽類似星「HIP4909」と「HIP117367」のスペクトル(青線)において観測された2本の吸収線(9796.83Åと10529.52Å)の様子。赤の曲線は、それぞれの観測データに合わせて計算された理論スペクトル。年齢が約6億年のHIP4909よりも、年齢が約57億年のHIP117367の方がリンの吸収線が強い。(作図:松永典之、出所:東大Webサイト)

その結果、太陽類似星の年齢とリン含有量との間に明瞭な相関があることが初めて示された。古い星ほど、他の重元素に対するリンの割合が高い傾向が確認された。また、この年齢依存性はマグネシウムなどの他の多くの元素よりも大きく、リンが銀河における元素進化の中で独特の履歴を持つことも明らかにされた。

  • 太陽類似星の年齢とリン含有率の関係

    太陽類似星の年齢とリン含有率の関係。46個の太陽類似星について、横軸を年齢、縦軸をリンの含有率指標「P/Fe」としてプロットした散布図。P/Feはリンと鉄の存在比を、太陽基準の対数で表した量であり、0なら太陽と同等、正なら太陽よりリンが相対的に多く、負なら少ないことを意味する。結果、年老いた太陽類似星ほど、リンの含有率が高いことが確認された。銀河の重元素進化を調べる際、このように鉄を基準に各元素の存在比を比較することが一般的である。オレンジ色の星印は、太陽の年齢(46億年)とP/Fe=0を示す。作図:松永典之(出所:東大Webサイト)

さらに、太陽類似星の年齢は銀河進化の“時計”であると同時に、「出生地」の手がかりでもあるという。天の川銀河では、中心に近い領域ほど星が活発に生まれ、元素合成も速く進んだことがわかっている。一方、星は誕生して一定の公転半径で銀河を巡るわけではなく、公転半径が変化するため、現在は太陽近傍に位置していても、それぞれ異なる場所で生まれた星が混ざっていることが考えられる。今回の解析により、太陽類似星の中で年齢の古い星ほど銀河の内側で生まれ、その時点でやや多いリンを獲得していたことが判明した。これは、急速に星が生まれて重元素合成が速く進んだ環境(銀河の中心部へ向かう)ほど、相対的に多くのリンを含んでいたことを意味しているとした。

近年の研究では、太陽系自身も現在の位置ではなく、1万光年ほど内側寄りで生まれ、長い時間をかけて今の場所まで移動してきた可能性が指摘されている。今回得られた太陽類似星の年齢とリン含有量の関係を基にすると、46億年前に生まれた太陽は、現在の太陽近傍で生まれる太陽類似星に比べ、約25%多くのリンを含む環境で誕生したことが推測された。つまり、太陽系は銀河の内側で生まれたことで、“リンのボーナス”を受け取っていたことになる。

  • 太陽類似星の出生地と年齢・リン含有量の関係

    太陽類似星の出生地と年齢・リン含有量の関係。天の川銀河の内側で誕生し移動してきた年老いた太陽類似星はリンをやや多く含み、太陽の現在位置近傍で誕生した若い太陽類似星はリンがやや少ないことが明らかにされた。太陽近傍の類似星を詳細に調査することで、銀河の場所ごとに異なるリンの合成と増加の歴史を読み解くことができる。なお、この画像では銀河内の星の公転運動を省略し、公転半径(中心からの距離)が変化する移動量だけが描かれている。また、今回観測された46個の星は、太陽の現在位置から約300光年以内の太陽近傍にあり、画像中では太陽の現在位置を表す白丸に収まっている。作図:松永典之(ChatGPTで作成されたもの)(出所:東大Webサイト)

今回の研究は、リンがどのような天体現象でどれだけ合成されたのかを決定づけるものではない。しかし、どの天体物理学の理論モデルであっても再現すべき重要な観測事実が新たに与えられた。今後、より広い重元素量範囲や、太陽類似星以外の恒星にも対象を広げることで、リンがどの天体現象によって、いつ、どれだけ供給されてきたのかをさらに詳細に調べることが可能となる。また、今回の研究で整備された高品質の近赤外線スペクトルや較正済み吸収線リストは、今後の近赤外線高分散分光研究の重要な基盤資料にもなるとしている。