シャープは2026年6月30日、衛星通信関連事業への本格参入に向け、ルクセンブルクの衛星通信大手であるSESとの提携を発表しました。スマートフォンで培った技術を生かし、デバイスを中心として衛星通信事業を本格化するシャープですが、なぜシャープが衛星通信に次の成長を見出しているのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
スマートフォンの技術が衛星通信端末開発に
円安やメモリ価格の高騰によって、価格が著しく高騰しているスマートフォン。すでに市場が飽和しており規模と価格が求められるビジネスとなっているだけに、スマートフォンを開発するメーカーは軒並み厳しい状況に立たされています。
それだけに最近では、スマートフォンで培った技術などを生かして新たな事業に成長の活路を見出す企業も出てきており、その1つとなるのがシャープです。実際同社は2026年6月9日に事業説明会を実施した際、新たな柱となる事業の1つとして、衛星通信を掲げていました。
シャープはスマートフォンの技術を応用して衛星通信用の端末開発を進めており、これまでにも5Gによる衛星通信に対応した低軌道衛星向け端末を開発し、実証実験を続けてきました。そして2026年6月30日には、同社は記者説明会を実施して衛星通信事業への正式な参入と、今後の戦略を明らかにしています。
そもそもなぜ、シャープが衛星通信事業に参入するのかといえば、理由の1つはやはり、今後の大きな成長が見込めるからでしょう。同社の説明によると、衛星通信関連の事業は2025年で1025億ドルですが、2033年には2103億ドルに伸び、年平均成長率は9.4%に上るとの予測がなされているようです。
そして、もう1つの理由は「5G-NTN」にあるようです。これは衛星通信など、非地上系のネットワークに5Gの通信を広げる技術規格であり、モバイル通信の標準化団体「3GPP」によって2027年に衛星通信方式の規格標準化がなされる予定となっています。
すでに、低軌道衛星を活用した通信サービスを提供する米Space Exploration Technologies(スペースX)のように、衛星通信で用いる技術は現在、各社が独自開発したものを用いている状況にあります。それを5Gの技術を用いて標準化することにより、機器開発などをしやすくするのが5G-NTNの役割となっています。
シャープは3GPPでの標準化にも積極的に参加している企業の1つで、5Gでも多くの特許を保有しています。それゆえ5G-NTNでも同様に、標準化作業にも積極的に参加して電波伝搬系の試験環境や、小型端末の規格などに関する標準化をリードしてきたといいます。
しかもシャープは実際にスマートフォンを開発するメーカーでもあり、これまでのスマートフォンで培った技術を衛星端末に応用することで、端末の実装面でも優位性を持つとのこと。
とりわけ衛星通信には、12~18GHzの「Ku帯」など高い周波数帯を用いることが多く、フラットなアンテナでそれを送受信するのは難しいとされていることから、アンテナ端子を密集させて電波をピンポイント制御するフェーズドアレイ技術などで、アンテナのフラット化を開発・量産しているシャープは端末開発で高い優位性を持つようです。
SESとの提携は5G-NTNの先を見据えたもの
しかし、シャープが目指すところは、衛星通信端末の事業を強化するよりむしろ、衛星通信そのものを提供することにあるようです。そのことを示しているのが、同日にルクセンブルクの衛星通信大手、SESとの提携を発表したことです。
SESは、静止軌道衛星(GEO)から低軌道衛星(LEO)まで幅広い衛星を持ち、高い通信品質を生かして政府機関への通信を提供するなど、多くの国々で幅広い衛星通信事業を提供しています。そのSESとシャープが提携したのには、SESにシャープの衛星通信端末を提供する狙いももちろんあるのですが、より重要なポイントとなるのは、逆にシャープがSESから衛星通信の提供を受けることです。
実際、シャープは今回の提携により、「O3b mPOWER」という通信サービスを日本国内で企業に提供する方針を打ち出しています。O3b mPOWERはGEOとLEOの中間に位置する、中軌道衛星(MEO)を用いた通信サービスであり、GEOより高速大容量・低遅延ながら、LEOより少ない衛星で広範囲をカバーでき安定した通信を実現しやすいのが特徴となります。
そうしたことからシャープでは、O3b mPOWERによる衛星通信回線と自社のMEO対応衛星通信端末に、企業向けのソリューションと全国108箇所のサービス網を生かした保守・設置などのサポートを組み合わせ、ワンストップで衛星通信を提供できることを強みとして販売を広げていく方針のようです。
サービス開始当初は、衛星通信の需要が大きい建設機械や船舶などにターゲットを絞って事業展開していくようですが、5G-NTNの導入が広がる2030年頃には超小型の衛星端末を導入して対象をドローンなどにも拡大。さらに2035年頃には、より数が多い自動車への導入を実現して爆発的な普及を狙い、1000億円以上の売上を実現したいとしています。
なぜシャープが衛星通信で、端末だけでなく通信などもセットにしたソリューションの提供を重視しているのかといえば、そこにもスマートフォンでの経験が大きく影響しているようです。
確かにシャープは現時点で、衛星通信端末で高い技術を持っていますが、5G-NTNで衛星通信の標準化が進めば、米クアルコムや台湾メディアテックのようにモデムやチップセットを開発する企業が、標準化された技術をチップに搭載して多くの企業が端末を開発しやすくすることが予想されます。
そして、メーカー間の技術差が縮まれば、衛星通信端末も現在のスマートフォンと同じように、規模と価格がものをいう競争となってしまいます。
長期的視野で価格競争に陥ることなくビジネスを継続するには、端末だけでなく通信も含めたソリューションを企業に提供し、継続的に収益が得られる態勢を最初から整える必要があると、シャープは判断したのではないでしょうか。
ただ、少なくとも現時点では衛星通信事業者独自規格によるサービスが主流となっており、他社に大きく先行しているスペースXなどが市場を押さえてしまえば、5G-NTNによる標準化が意味をなさなくなる危惧もあるでしょう。
端末は持つが衛星通信を直接持つ訳ではないシャープがこの分野で成功を収めるには、やはり衛星通信事業者同士による競争が大きく影響してくることになりそうです。





