軍用輸送機の降着装置を見ると、旅客機とはまったく違う構造になっていることに気付く。脚柱を何本も使う機体、真上に引き込む機体――そこには不整地で運用する軍用機ならではの合理的な理由がある。
前回は、レオナルドC-27Jの話だけで1回分を使ってしまった。あまりに面白い構造をしているのを知って、熱中してしまった結果である。では、ほかの欧州製輸送機やC-130ではどうなっているのだろうか。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照
欧州輸送機はなぜ複数の脚柱を使うのか
欧州製の軍用輸送機を見比べてみると、実は共通する特徴がある。細かい構造はそれぞれ違うのだが、仏独共同開発のC-160トランザール、スペイン製のCASA CN-235、そのCN-235から発展させる形で開発したCASA(現エアバス)C-295といった欧州生まれの輸送機はみんな、主脚を複数の脚柱で構成して、それぞれにタイヤを付ける構成にしている。そして、メインの脚柱が斜めになっているところも似ている。
その中でも、比較的シンプルな作りをしているのがC-160。胴体側の取付部から斜め後下方に延びる太い脚柱と、その後方で胴体側の取付部から斜め前下方に延びる部材を組み合わせて、三角形を構成している。
そして、その三角形の頂点から後方にトレーリングアームを延ばして、トレーリングアームの先端にタイヤが付いている。トレーリングアームと脚柱の間をつなぐ形でショック・アブソーバーを取り付けており、これが衝撃吸収の役割を負う。
ただ、この構造を見ていると「どうやって引っ込めるんだ?」と疑問に思えてくる。調べてみたところ、この降着装置一式を、機体の前後軸を中心として上方内側に向けてスイングさせて引き込んでいるようだ。
C-160で面白いと思ったのは、そのトレーリングアームと脚柱をつなぐ形で取り付けてあるショック・アブソーバーの部分を、ゴム製と思われるカバーで覆っていること。不整地離着陸の際に避けられない、粉塵を避けるためだろうか。
なぜ脚柱の数を増やすのか
旅客機だと、ショック・アブソーバーと一体化した脚柱があり、その下端にタイヤ、あるいは2~3軸のボギーを取り付けるのが一般的。たとえばエアバスA350-900の主脚は2軸ボギーだが、大型になって重量が増えるA350-1000は3軸ボギーに改めてタイヤの数を増やしている。でも脚柱の数は変わらない。
ところが、ここまで取り上げてきた軍用輸送機を見ると、おしなべて「ひとつの脚柱に複数軸のタイヤ」ではなく「複数の脚柱に、それぞれ一組または二組のタイヤ」という構成になっている。
単に接地圧を下げるためにタイヤの数を増やすのであれば、強固で重くなりやすい脚柱やショック・アブソーバーを減らす方が軽くなりそうなもの。しかし、そうしないのには相応の理由があるはず。
複数の脚柱を設けて、それぞれに固有のショック・アブソーバーを設けると、複数のタイヤと脚柱がそれぞれ個別に荷重を受ける。すると、単一のショック・アブソーバーしかない構成よりも柔軟に対応できる。ことに不整地離着陸では地面が凸凹している前提で考えなければならないから、その凸凹にスムーズに追従できないと困る。
また、脚柱が1本しかないと、荷重も衝撃もすべてそこに集中する。タイヤの数が同じでも複数の脚柱とショック・アブソーバーがあれば、荷重や衝撃を分担して受け止めることができる。また、脚柱ごとにショック・アブソーバーの減衰率を変えて最適化することもできる。
しかも、旅客機みたいにまっすぐ下に延びた状態で固定する脚柱では、横荷重がかかったときの負担が大きい。その点、斜めに後ろ下方に降ろすトレーリングアームの方が具合がいい。
C-130だけが採用したユニークな主脚
そういう観点から見て面白い構造をしているのは、軍用輸送機のスタンダード・C-130ハーキュリーズ。
主脚として左右に2個ずつの車輪が縦に並んでいるが、動画を見ると、その2個の車輪が真っ直ぐ上方に引き込まれているように見える。なにかの見間違いではないかと思い、つい動画を二度見した。
実は、これは間違いでもなんでもない。C-130の主脚は、脚柱を兼ねるストラット(衝撃吸収のためのオレオ機構が組み込まれている)の下端に車輪を取り付けてあり、それが前後に並んで片側2輪となっている。写真を探し回ってみたところ、その前後の車輪をつなぐ部材もあるのが分かる。
だから、「脚柱とショック・アブソーバーの数を増やして、不整地への追従性や荷重・衝撃の分散を図る」という考え方には沿っていることになる。
そして、一式が電動式のスクリュー・ジャッキで上下する仕組み。真っ直ぐ上方に引き込まれるように見えるのは当然で、実際にそういう動きをしているのであった。
1986年の春にロッキード社(当時)が出したサービス・ニュース「V13N2」によると、そのショック・アブソーバーに、「ソフト」と「ハード」の2種類があり、顧客の要望に応じて選択できるようになっているのだという。
米空軍の場合、当初は「ソフト」を装備して領収していたが、途中から「ハード」に変更、「ソフト」を装備した機体も「ハード」に交換したとのこと。ただし特殊作戦型のMC-130Hは「ソフト」だったという。同じ米軍でも米海軍や米海兵隊は「ソフト」で、海外カスタマーの多くも「ソフト」だったという。また、民間型のL-100も「ソフト」だったそうだ。
この2種類のショック・アブソーバー、外見は同じである。ただし仕様上は、負荷能力や内部圧力の数字に違いがあった。内部で、オリフィスの穴径や、内部に入れるオイルや空気の量を違えることで特性を変えている。
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。




