IoT向け通信サービスなどを提供するソラコムは2026年7月7日、年次のカンファレンスイベント「SORACOM Discovery 2026」を開催しました。その内容からは、「トークン資本」をベースとした、AIによる顧客への価値提案を進める一方で、主力のIoT通信にも重きを置いた事業強化が進められている様子が見えてきます。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

「AIのリーダー」となるサービスで顧客に価値提案

ソラコムが開催する年次カンファレンス「SORACOM Discovery」。2025年の同カンファレンスでは新たなビジョンを打ち出すとともに、昨今注目されるAI技術の積極活用へと大きくシフトすることをアピールしていました。

それから1年をかけ、ソラコムは社内でAIを前提とした組織に大きく再編、生成AI技術の活用により、さまざまな業務効率化を図ってきたといいます。そのうえで、2026年に代表取締役社長CEOの玉川憲氏が言及したのは、マイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラ氏が提唱した「トークン資本」でした。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第43回

    「SORACOM Discovery 2026」に登壇するソラコムの玉川氏。「トークン資本」に共感し、人間の役割がAIのリーダーに変化することを前提に新サービスを打ち出していた

トークンはAIとやり取りする最小単位を指しており、データとAIによる学習の繰り返しで蓄積される資産こそが、企業におけるAI時代の競争力の源泉となるというのが、トークン資本の考え方となります。

玉川氏はそのトークン資本の考え方に共感、AIが広く普及する今後、人間の役割はAIのリーダーとなって、AIの方向付けや監督をすることに変化していくと話していました。では、トークン資本の重要性が高まる今後に向け、ソラコムは顧客にどのような価値を提供しようとしているのでしょうか。

玉川氏は「顧客がトークン資本を手がける、安全な器としてのプラットフォームを提供する」ことが重要だと話し、その事例の1つとして「Wisora」のアップデートを挙げています。

Wisoraは2025年に発表した、企業内のデータを学習させたAIチャットボットを簡単に作成できるサービス。今回のイベントに合わせて新たに、AIによる対応が難しいシーンで人がチャットに介入し、対応を代わることができるハンドオーバー機能を提供することが発表されました。これは人がAIの監督をしてイレギュラーな出来事への対応を容易にする、玉川氏の考えを示したものであることが分かります。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第43回

    「Wisora」のアップデートでは、AIとのチャット中にイレギュラーな場面が生じたら、人がチャットに介入できるハンドオーバー機能が追加される

もう1つ、トークン資本の考えをもとに強化が打ち出されたのが「SORACOM Flux」です。これはIoTデバイスとAI技術を組み合わせ、現場の業務を自動化するアプリを簡単に作成できる、IoT向けのローコードアプリケーションビルダーで、すでに多くの顧客に活用されているものです。

しかしながらIoTは、デバイスや通信、セキュリティなどさまざまな要素に関する知識と経験が求められる“総合格闘技”であり、アプリケーションの開発だけを容易にしても導入が進まない実情もあります。

そこでソラコムは、それぞれの技術に関する専門知識を持ったAIエージェントが、IoTのプランニングから実装、運用まで担ってくれる「SORACOM Agent」を新たに提供することを発表しています。

これを活用すれば、獣害対策用の箱罠をIoTとAIで制御するといった複雑なプロジェクトも、AIエージェントに相談するだけで仕様の策定からデバイス開発、アプリケーション開発などを支援し、実現を容易にしてくれるとのこと。

人間がAIに指示をして、プロダクト実装の多くの部分をAIに担わせるという意味でも、やはり玉川氏の考えが反映されたサービスと見ることができそうです。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第43回

    「SORACOM Agent」は顧客がやりたいことを入力するだけで、AIエージェントがIoTの仕様を決め、デバイスやアプリの開発支援などもしてくれる

基盤の通信サービスも多方面から強化

トークン資本にもとづいた、AIを活用したプロダクトを広げていくことが、ソラコムとその顧客にとって重要なことは確かです。ただ、ソラコムのサービスの基盤となっているのは通信でもあるだけに、今回のSORACOM Discoveryではその通信を強化する取り組みも多く打ち出されていました。

その1つが衛星通信サービスの国内提供です。ソラコムでは米国の衛星通信事業者であるSkyloと協業し、地上のネットワークが圏外になった時に時に衛星通信へと切り替わるサービスを提供していますが、利用できるのは欧米などに限られていました。

そこで今回、Skyloの通信サービスを日本でも利用可能にすることを発表。国内でも地上のセルラー網と衛星通信を切り替え、どこでも利用できる体制が整うこととなります。

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    海外のみ対応していたSkyloの衛星通信サービスが国内でも対応。地上の通信が届かない場所でも、衛星通信によってIoTの通信を維持できる仕組みが整うことになる

2つ目は「SGP.32」に対応したSIM・eSIMの提供です。「SGP」とは標準化団体の「GSMA」が策定するeSIMの仕様を指すのですが、現在スマートフォンのeSIMなどで使われているのは1つ前の「SGP.22」という仕様で、手元の操作により使用する携帯電話会社のプロファイルを選ぶことは可能であるもの、遠隔での変更には対応していません。

それゆえ、SGP.22は多数の機器を遠隔で管理することが多いIoT機器では使いづらいという課題があったことから、新たに策定されたのが、遠隔で携帯電話会社のプロファイルを選択・追加できるSGP.32です。

SGP.32に対応したSIM・eSIMを提供することを発表しており、SIMのプロファイルを遠隔で追加・切り替えができる「SORACOM Connectivity Hypervisor」と組み合わせて、SIMのプロファイルを遠隔で管理を可能にするとしています。

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    「SGP.32」に対応したSIM・eSIMの提供も開始。IoTでニーズの高い、携帯電話会社のプロファイルを遠隔で追加・変更できるようになった

さらに、今回のイベントでは、同社のIoT向け通信サービスを活用している顧客の困りごとを解決するプロダクトもいくつか紹介されていました。

その1つは、継続課金型のサービス提供を支援する「SORACOMダウンストリーム課金プラットフォーム」で、料金プランの設定や決済、アカウントの管理などをアドオンとして追加できるだけでなく、それを顧客のブランドで提供できる仕組みも整えられているとのことです。

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    「SORACOMダウンストリーム課金プラットフォーム」は、IoT向け通信を組み込んだ機器やサービスで、継続課金型のビジネス展開を支援するサービス

また、IoTの主要ターゲットの1つでもあるコネクテッドカーに向けては、車載通信からサービス運用まで包括的に支援・提供する「SORACOM Automotive Suite」を提供。さらにIoT向けのSIMでVoLTEによる音声通話を利用したい顧客に向けては「SORACOM Air RTC Gateway」を提供するなど、用途に応じたサービスの充実を図っているようです。

デバイス面でも、新たに小型ながらセンチメートル級の位置測位に対応した「RTK測位GNSSレシーバー」や、LTEによる通信機能を内蔵したネットワークカメラ「ソラカメPro」などの提供を発表。通信を支える周辺の取り組みも充実させている様子がうかがえます。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第43回

    LTE通信機能を備えた「ソラカメPro」も登場。既存の「ソラカメ」と比べるとさすがに値段は高くなるようだ

一連の発表からは、ソラコムがAIへの事業シフトを一層明確にする一方で、基盤となるIoT向けの通信サービスの強化も積極的に進められている様子を見て取ることができました。

AIが今後のビジネスに欠かせないことは間違いありませんが、ベースの通信事業がソラコムの源泉でもあり、その強みをAI時代にどう生かせるかが、同社の今後のビジネスには大きく影響してくるのではないでしょうか。