NECは7月21日、新たな製造業変革コンセプト「マニュファクチャリングトランスフォーメーション(MX)」を発表した。

同社はこのコンセプトをもとに、製造業に特化したAIエージェントが設計や調達、生産などのバリューチェーンを横断して業務を実行し、人が経営判断や製品開発など、より戦略的な業務に注力できる環境の実現を目指す。

NEC コンサルティングサービス事業部門 マネジメントコンサルティング統括部 FDXグループ ディレクターの宮辻博文氏、製造ソリューション事業部門 製造システム統括部 スマートファクトリ戦略グループ シニアプロフェッショナルの清水治彦氏が、同コンセプトについて説明した。

5つのバリューチェーンをAIで接続

NECは2025年、製造業におけるDXのあるべき姿として「ダイナミックマニュファクチャリング」という変革構想を掲げた。

この構想は、設計を担う「エンジニアリングチェーン」、販売・需給・物流を担う「サプライチェーン」、製造・品質・在庫を担う「プロダクションチェーン」、保守やサービスを担う「サービスチェーン」、環境情報や有害物質を管理する「サステナブルチェーン」の5領域をデータで接続するもの。各領域の情報を統合し、経営状況を可視化することで、環境変化に動的に対応する。

  • 「ダイナミックマニュファクチャリング」のイメージ

    「ダイナミックマニュファクチャリング」のイメージ

今回発表されたMXは、この「ダイナミックマニュファクチャリング」の構想に「AIトランスフォーメーション」を組み合わせたものとなっている。

「地政学リスクの増大や気候変動の激甚化、原材料やエネルギーコストの高騰、技術革新スピードの加速など、不確実性が常態化する中、製造業は変わり続けることを前提に、変化を捉え、戦略を立て、意志決定し、実行するサイクルを圧倒的に高速化することが求められています。そのためには、従来の業務プロセスをAlで効率化するだけでなく、AIを前提に企業そのものを再設計する必要があります」(宮辻氏)

  • MXの概要について説明する宮辻氏

    MXの概要について説明する宮辻氏

企業が保有する設計、製造、品質などの「ものづくりデータ」と、熟練者の知識や過去の対応事例などの「ナレッジデータ」を、AIが利用できるデータ「AI-Ready Data」として整備。その上で、製造業向けのAIエージェントが5つのチェーンを横断し、情報収集、戦略策定、最適案の提示、部門への展開、施策実行までを支援するという構想だ。MXでは、こうした仕組みにより、変化への対応をAIが継続的に支援する。

宮辻氏は、「変化が発生してから対応するのではなく、AIが兆候を把握して事前に対策を提案し、その結果をナレッジとして蓄積する循環を構築する。具体的には『対応の早さで勝つ』『先読みで防ぐ』『学びで強くなる』という3つの競争力を目指していく」と、MXで得られる効果について説明した。

  • 「マニュファクチャリングトランスフォーメーション(MX)」のイメージ

    「マニュファクチャリングトランスフォーメーション(MX)」のイメージ

また宮辻氏は、MXを実現するNECの強みとして「製造業を知り尽くした実践知」「汎用AIでは難しく人ができる高度なスキル」「製造業に求められる安全・安心」という3点を挙げた。

「長年にわたり製造業の業務改革をリードした知見を、5つのバリューチェーン上のAIエージェントに実装していきます。生成AI・認識・予測・最適化・調整交渉などの技術を組み合わせ、高度な業務スキルを持ったエージェントを提供することで、人は意思決定に専念することが可能となり、圧倒的な意思決定の高速化と高度化を実現します」(宮辻氏)

NECはこれまで、自社を最初の利用者とする「クライアントゼロ」の取り組みを進めてきた。これは自社業務にAIを導入し、得られた知見や課題を顧客向けのサービスやコンサルティングに反映する手法で、これによりAIエージェントや業務プロセスを継続的に進化させ、顧客の企業変革を確かな成果へとつなげることができるという。

AIが設計・調達・生産を支援するユースケース

清水氏は、5つのバリューチェーンから「エンジニアリングチェーン」「サプライチェーン」「プロダクトチェーン」の3点についての概要やユースケースを紹介した。

  • 5つのバリューチェーンのユースケースを説明する清水氏

    5つのバリューチェーンのユースケースを説明する清水氏

エンジニアリングチェーン:AIが設計時の計画と製造現場の実績の差を検知

エンジニアリングチェーンでは、市場要求や熟練者の知見、設計標準、過去のトラブル、後工程の実績などをAIが分析し、品質、コスト、納期、環境の条件を満たす構成案を提示する。

製品開発においては、設計段階で原価や品質、調達方法などの多くが決定される一方で、実際の製造段階では、部材の不足や環境負荷の増加、法規制の変更など、設計時には想定していなかった問題が発生する場合がある。

その課題について、MXでは、AIが設計時の計画と製造現場の実績の差を検知し、設計変更案としてフィードバックするという。

  • 「エンジニアリングチェーン」のイメージ

    「エンジニアリングチェーン」のイメージ

説明会では、製品に関連する法規制の改正をAIが検知し、対象となる部品を特定するデモが紹介された。

AIは法改正の内容を確認した上で、数万点規模の部品情報と照合し、対応が必要な部品を抽出。さらに、過去の変更事例や対応実績を参照し、経験の浅い担当者でも判断できるよう、設計変更の候補を提示する。

NECは、こうした仕組みにより、熟練設計者が持つ知見の継承、法規制への継続的な対応、開発期間の短縮を支援するとしている。

サプライチェーン:代替調達や取引先との交渉を支援

続いてのサプライチェーンでは、災害や国際情勢、物流網の寸断、需要変動などをAIが検知し、代替調達や生産計画の変更、取引先との交渉を支援する。

従来は、供給の不足や納期変更が発生すると、担当者が取引先へ連絡し、数量や納期を個別に調整していたが、MXにおいては、AIエージェントが需給や在庫などの情報を確認し、サプライヤーや顧客と交渉する。

NECは、これまで数週間かかる場合があった調整を迅速化し、人は定型的な交渉業務から経営判断へ移行する姿を想定している。

現段階では、取り引きする双方が同一のAIを導入している必要はなく、片方の企業がAI、もう片方が人という形でも利用できるそうで、将来的には企業間のAIエージェント同士が連携し、調達や納期を自動的に調整する構想を掲げている。

  • 「サプライチェーン」のイメージ

    「サプライチェーン」のイメージ

プロダクトチェーン:データをAIが分析し生産性向上につなげる

プロダクトチェーンでは、製造現場で日々生み出される膨大なデータをAIが分析し、品質改善や生産性向上につなげる。清水氏は「設備から取得する稼働データや品質データ、過去のトラブル事例などを統合し、異常検知や原因分析、改善策の提案までをAIが支援する世界を目指す」と説明。

  • 「プロダクトチェーン」のイメージ

    「プロダクトチェーン」のイメージ

説明会では、生産現場で発生した異常をAIが検知し、過去の類似事例や熟練技術者の知見を基に原因候補を提示する構想が紹介された。さらに、改善施策を実行した結果もAIが学習し、ナレッジとして蓄積することで、継続的に精度を高めていくという。

環境対応を担うチェーンにもAIエージェントの適用を拡大

NECは今後、上記に挙げた領域に加えて、保守サービスや環境対応を担うチェーンにもAIエージェントの適用を広げていく。

MXの提供方法については、単一のパッケージに限定せず、コンサルティング、既存システムとの連携、個別のAIエージェント導入など、顧客の課題に応じて検討する方式をとる。

説明会で紹介した内容の一部はプロトタイプ段階であり、顧客企業との検証を通じてサービス化を進める。