グーグル・クラウド・ジャパンは7月30日~31日の期間で東京ビッグサイト(東京都江東区)において年次イベント「Google Cloud Next Tokyo」を開催している。本稿では同社 日本代表の三上智子氏の基調講演に加え、NTTデータとSOMPOホールディングスの導入事例を紹介する。

AIエージェントで業務再設計へ、三上氏が語る日本企業の課題

最初に登壇した三上氏は、AIが電気に匹敵するイノベーションという話を引き合いに出した。第一次産業革命期の工場では蒸気機関から動力を供給していたが、電気の導入後に爆発的に生産性が向上するまでに30年以上がかかったという。この30年間、経営者は蒸気機関を大型の電気モーターに置き換えただけで、工場のレイアウトや業務の進め方を変更しなかったがために大きな変化が生まれなかったとのことだ。

三上氏は「生産性が飛躍したのは、個々の機械に小型モーターを設置し、電気に合わせて業務の流れや工場全体を再設計したときでした。この教訓からAIの活用においてはチャットボットを導入するだけでは爆発的な生産性向上やイノベーションは生まれない。エージェントという小さなモーター(AI)を現場業務に埋め込み、業務の流れを再設計することでイノベーションは爆発的に広がります」と話す。

  • グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏

    グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏

Google Cloudによる日本市場の調査では、回答企業の70%がAIエージェントを活用していないことに加え、利用者の約半数は非公認の「シャドーAI」を利用し、これは現場の不便を打破したい強い改善意欲のあらわれだという。

  • 回答企業の70%がAIエージェントを活用していないという

    回答企業の70%がAIエージェントを活用していないという

同氏は「現状は産業革命でたとえるならば蒸気機関から電気モーターへの置き換えの段階にとどまっている可能性があります。日本は生産労働人口が今後も減少し、AIの活用が不可欠。AIで個人の暗黙知や匠の技を企業価値に転換し、ビジネスプロセスを再設計して新たな価値を創造することが可能です」と述べた。

Google Cloudが示すAIフルスタック、Gemini Enterpriseを中核に

こうした日本企業に対して、Google CloudはAI変革のパートナーとしての独自性を打ち出している。検索やYouTube、Androidなど、月間150億人以上が利用するサービスを支える強靭なインフラを運用している。また、同社自身が「カスタマーゼロ」として全サービスにAIを組み込み、サービスの改革を推進しており、この経験とインフラを顧客に提供し、AI変革を支える。

さらに、AI変革に必要な統合されたAIフルスタックを備えている点も強調。TPU(Tensor Processing Unit)などの「AI Hypercomputer」から「BigQuery」をはじめとした「Agentic Data Cloud」、セキュリティの「Agentic Defense」、Gemini Enterpriseといった「Agentic Platform & Models」、各業務向けAIエージェント群の「Agentic Taskforce」の5つの階層で構成している。

  • Google Cloudは統合されたAIフルスタックを備えている

    Google Cloudは統合されたAIフルスタックを備えている

三上氏は「統合されたAIフルスタックのソリューションで中核的な役割を担うのがGemini Enterpriseです。すべてのビジネス変革を目指す企業に向けたエージェントプラットフォームであり、すべての働く人が使うAIとエージェントのインタフェースです。組織内の多様なデータから得られるコンテキストと自動化されたエージェントの動作を組み合わせ、新しいビジネス価値を創出することをサポートします」と強調していた。

NTTデータは「クライアントゼロ」で自律型AIワークプレイスを実践

続いて、NTTデータ 常務執行役員 テクノロジーセグメント長 CAIO(最高AI責任者)の西村忠興氏が登壇。同社は7月16日にGoogle Cloudとの包括契約により、企業向けの業務基盤・AI活用基盤を提供することを発表している。

西村氏は「AIにおける最大の課題はデータの信頼性とセキュリティ。官公庁や金融などミッションクリティカルな業界におけるデータの外部流出を防ぎつつ、自律型エージェントのガバナンスも両立させながらAIを活用することが求められています。また、日進月歩のAI時代に迅速な市場投入を目指さなければならず、こうしたジレンマを解消することが必要。それに対する答えが自社が最初の顧客になる『クライアントゼロ』の取り組みです」と力を込める。

  • NTTデータ 常務執行役員 テクノロジーセグメント長 CAIO(最高AI責任者)の西村忠興氏

    NTTデータ 常務執行役員 テクノロジーセグメント長 CAIO(最高AI責任者)の西村忠興氏

NTTデータにおけるクライアントゼロの取り組みは、国内外のグループ会社を含む社員を対象に「Google Workspace」とGemini Enterpriseを大規模に活用できる基盤を整えた。同氏は「生成AIの活用が個人の生産性向上から組織単位での業務適用に広がる中で、実際の業務成果には情報管理や利用者教育、業務プロセスとのスムーズな接続が不可欠です」と説く。

  • NTTデータではクライアントゼロとしてGoogle WorkspaceとGemini Enterpriseを活用している

    NTTデータではクライアントゼロとしてGoogle WorkspaceとGemini Enterpriseを活用している

導入の決め手は、Google Cloudが掲げるビジョンである「自律型AIワークプレイスの実現(AWT:Agentic Workspace Transformation)」への共感、エンタープライズレベルのセキュリティとガバナンス、そして両製品へのニーズの高まりを受け、自社で先行活用して得た成功ノウハウを、提案から定着支援まで一体で提供するビジネスにつなげられると考えたからだという。

西村氏は「今後、クライアントゼロで得た知見をアセット化し、社会をチャット型AIから自律型AIエージェントやデジタルワーカーが主導する業務プロセスに進化させていきます。また、Google Cloudと共同で高度なAIエージェントの開発や、重要な社会インフラを支える当社のミッションを実現するため、両社の強みを掛け合わせてAI技術を責任あるイノベーションとして社会実装し、新たな価値を実現します」と期待を示していた。

SOMPOがGemini Enterpriseを全社員に展開、現場主導のAI活用へ

次に、SOMPOホールディングス デジタル・データ戦略部長 損害保険ジャパン株式会社 執行役員 CDO DX推進部長の中島正朝氏が登壇し、Gemini Enterpriseの導入事例を紹介した。

  • SOMPOホールディングス デジタル・データ戦略部長 損害保険ジャパン株式会社 執行役員 CDO DX推進部長の中島正朝氏

    SOMPOホールディングス デジタル・データ戦略部長 損害保険ジャパン株式会社 執行役員 CDO DX推進部長の中島正朝氏

同ホールディングスではDX戦略として、現場主導で業務変革を行う「ヨコのDX」と、新規事業創出を図る「タテのDX」の2軸で取り組んでおり、講演ではヨコのDXにおけるAI戦略が解説された。

ヨコのDXでは、現場のビジネス部門が主役となり、デジタル技術で新たな顧客体験を創出する。約10年間で200人のデジタルスペシャリストを採用し、現場と一体となった内製アジャイル開発を推進してきた。中島氏は、こうした取り組みを企業文化の変革への挑戦と位置付ける。タテのDXでは、2019年に米Palantir Technologiesと設立した合弁会社のPalantir Technologies Japanを設立し、保険が必要ないほどの安心・安全・健康な社会の実現を目指している。

  • SOMPOホールディングスでは「ヨコのDX」と「タテのDX」に取り組んでいる

    SOMPOホールディングスでは「ヨコのDX」と「タテのDX」に取り組んでいる

同ホールディングスはAIを業務効率化と生産性向上を目的とした「特化型AI」と、人間拡張、価値創造を図る「汎用型AI」の2つの領域に位置づけている。2026年1月に従来のチャットボット型AIからGemini Enterpriseに移行し、新たな汎用型AIとして「SOMPO AIエージェント」と名付け、グループ全社員3万4000人に提供している。

  • 「SOMPO AIエージェント」を全社員3万4000人に提供

    「SOMPO AIエージェント」を全社員3万4000人に提供

中島氏はGemini Enterpriseを導入した最大の理由として「Gemini Notebook(旧称NotebookLM)」の存在を挙げた。保険会社には約款や規程集、膨大なマニュアルなど大量の社内ナレッジが存在する。Gemini Notebookは、特定の資料や信頼できる情報源に基づいて回答を生成し、根拠を示しやすい点に強みがある。こうした特性が、保険業務との相性が高いと判断したという。

同氏は、これならば誰でも直感的に使いこなせ、AIエージェント活用の起爆剤になると確信し、日常業務に無理なく組み込める仕組みづくりを重視しました」と導入の経緯を説明した。

1万超のAIエージェントを市民開発、SOMPOが示す人間拡張の可能性

SOMPO AIエージェントで開発したSOMPO音声メモアプリは会議の録音後、自動的にGemini Notebookにデータが追加され、すぐに参加者に共有できる。また、人事や総務、商品、営業推進など各部門で作成した公式のGemini Notebookを全社に公開し、問い合せ前に確認してもらうことで社内ナレッジへのアクセスの効率化が図られ、運用自体も定着しつつあるという。

  • SOMPO AIエージェントで開発したSOMPO音声メモアプリのイメージ

    SOMPO AIエージェントで開発したSOMPO音声メモアプリのイメージ

一方、業務特化型エージェントの市民開発も進んでいる。導入後数カ月で1万超のAIエージェントが開発され、「モクさぽ」は目標設定や社内ガイドライン、年度方針を学習させており、対話を通じて目標設定と試行整理を支援。「モジオコ」は写真や画面キャプチャから即座に文字を抽出し、システムが利用可能なテキスト化を行う。「レカみる」は自動車事故にともうレッカー費用の妥当性検証を支援し、レッカー請求書を読み込み、テキスト化して市場相場価格と照合したうえで、価格妥当性を自動でチェックする。

  • 「レカみる」の概要

    「レカみる」の概要

SOMPO AIエージェントの導入から半年が経過し、WAU(Weekly Active Users:週間アクティブユーザー)は全社員の80%を超え、部長以上のマネジメント層では98%が利用している。これらの挑戦は大きな変化をもたらし、経営層によるトップダウンと現場による市民開発が融合しつつあるようだ。

同氏が利用率の高い社員に話を聞くと、単なる業務効率化では満足せずに、これまで着手できなかった価値の高い業務にチャレンジしており、この高付加価値業務こそ人間だけでなく、AIエージェントを相棒にすべきだと提言している。

中島氏は「AIツールを入れて生産性を高めるのは当然の一歩にすぎず、その先の決め手は2つのポイントがあります。社内の価値あるデータをいかにAI Readyな状態とし、平均値ではない圧倒的な“外れ値”の価値を生み出せるかです。これを左右するのは人間の力であり、社員の経験、感性、問いを立てる能力に他ならない。つまり、最後はAIを使いこなす人間力をどこまで拡張できるかが、新たな価値を創造するための最大の鍵になります」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。