NTTは2026年6月10日、光技術を用いた次世代通信基盤「IOWN」のエコシステム構築と新たな事業創出を目指す「IOWN AI Fund」の組成を発表しました。国内企業だけでなく台湾や韓国の企業、そしてシリコンバレーの半導体ベンチャーなどに投資する投資家を巻き込み、ファンドを設立する狙いはどこにあるのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
光や半導体などの有望スタートアップに投資
NTTがグループで総力を挙げて取り組むIOWN。すでに「IOWN 1.0」と位置付ける低遅延のオールフォトニクスネットワーク(APN)を実現しており、コンピューターのボード間を光電融合デバイスで接続し、大幅な低消費電力を実現する「IOWN 2.0」の商用化を2026年末に控えるなど、開発は順調に進んでいるようです。
そのIOWNを巡ってNTTが2026年6月10日に新たな発表をしており、それが「IOWN AI Fund」の組成です。
これはIOWNの実現に重要なフォトニクス技術や、コンピューターの中に光の技術を取り入れる上で重要になる半導体、そしてIOWN 2.0でも重要になる分散コンピューティング基盤や、AI関連のソフトウェアなど、IOWNのエコシステムを形成する事業の創出に向けたファンドとなるようです。
そして、このファンドにはNTTの他にも多くの企業が参画することを明らかにしているのですが、参画企業は日本にとどまりません。実際、韓国通信大手のSKテレコムや半導体大手の韓国SKハイニックス、そしてNTTとAPNの実証などを進めている台湾の中華電信も参画を表明しています。
ただ、IOWNの技術はNTTがグループ自身で開発を進めており、先にも触れたようにIOWN 2.0の商用化やIOWN 3.0の実現に向けた道筋も着実に進めています。それにもかかわらず、あえてファンドを設立して外部の企業に出資する狙いはどこにあるのかといいますと、今後IOWNの技術進化や社会実装を進めていく上で、さまざまなパートナー企業との協力が不可欠になると見ているからのようです。
生成AIが急速に普及し、AIの重要性が大きく高まっていく中にあって、IOWNのように光電融合技術を活用し、コンピューターの低消費電力を実現する取り組みの重要性は大きく高まると見られています。
一方で、そうした技術の開発はNTTだけが進めている訳ではなく、シリコンバレーでは、光電融合や分散コンピューティングなどに取り組むベンチャー企業が急速に増えているといいます。
このような状況を踏まえ、NTTではIOWNの技術開発を進めて広く普及させていく上でも、有望なスタートアップとのつながりを持ちパートナーシップを広げていく必要があると判断。今回のファンド設立へとつながったようです。
しかし、他社の出資も募ってファンドを設立すること自体これまでになかっただけに、同社としても大きな判断となったのではないでしょうか。
有望企業と接点を得るため投資ファンドと連携
IOWN AI Fundは2026年6月に設立し、800億円規模を目指し、年内まで出資を募るとのこと。主な出資対象はシリコンバレーが中心となりますが、それに限らず日本をはじめとしたアジアや、欧州などのスタートアップにも投資をしていく方針のようです。
もう1つ、このファンドで重要なポイントとなるのが、シリコンバレーの投資ファンドであるWalden Catalyst Venturesと、その創設者であるYoung Sohn氏です。
Sohn氏は韓国サムスン電子のコーポレート・プレジデント兼最高責任者(CSO)や、光通信半導体企業のCEOなどを歴任した経験があり、フォトニクスや半導体関連企業に対する知見を多く持つといいます。
そしてIOWN AI Fundでは、ある程度実績を持つミドルからグロースといったステージのスタートアップ企業に出資。一方で立ち上がって間もないシード・アーリーステージのスタートアップにはWalden Catalyst Venturesが投資する形を取るとのことでした。
なぜ、このような仕組みが取られているのかと言いますと、そもそもシリコンバレーで、通信・半導体を中心としたディープテック(革新的な技術で社会課題を解決する技術)の有望なスタートアップのコミュニティと、日本のファンドが接点を作るのは非常に難しいことが影響しています。シリコンバレーでの出資経験が豊富なSohn氏と協力することで、有望なスタートアップとの接点を作りながら投資を進めていく体制が取られたようです。
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IOWN AI Fundは運営会社として設立されるCatalight Capitaが運用し、主としてミドルステージ以降の企業への出資が主。アーリーステージ以前の企業への出資はWalden Catalyst Venturesが担うこととなる
NTTはIOWN AI Fundによって、出資した企業とコミュニケーションを図りながら、事業提携やプロダクトの共同開発なども進めていきたいとしていますが、その先に見据えるのは、米NVIDIA(エヌビディア)と同様のエコシステムを、IOWNで構築することだといいます。
NVIDIAは自社のGPU技術を軸にしながら、ネットワークやストレージなどさまざまな事業レイヤーの企業を買収して取り込み、独自のエコシステムを構築することで現在の大きな成長へとつなげています。それだけにNTTも、IOWNを軸としながらさまざまなパートナーと連携することで独自のエコシステムを構築して利用を広げていきたい考えのようです。
そのためにはファンドによる出資で実績を作り上げる必要があるでしょうし、その間にエヌビディアらが技術面で優位性を得る、あるいは市場で優位な状況を作り出してしまえば、IOWNの存在自体が大きく低下してしまいかねません。
日本企業は長らくスピード感に欠けると言われ続けてきただけに、スタートアップ支援をしていく上で、NTTにはとりわけスピード感が強く求められる所ではないでしょうか。



