Celonisは2026年7月28日、東京・赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京で年次ユーザーカンファレンス「Celonis Process Intelligence Day Tokyo 2026」を開催した。同社が発表した「Celonis Context Model(CCM)」を中心に、エンタープライズAIの実現における「コンテキスト」の重要性をアピール。プロセスインテリジェンスが、AIを業務に定着させ、AIの投資対効果(RoAI)を最大化する近道であることを訴求した。

Celonis CEOが語るプロセスインテリジェンスの進化とエンタープライズAI

基調講演では、Celonisの共同創業者兼CEOであるバスティアン・ノミナヘル氏が登壇。「Make Enterprise AI Work(エンタープライズAIの実用化)」をテーマに、グローバルでの最新事例を交えながら、Celonisの進化について触れた。

ノミナヘル氏は「Celonisは『プロセス』が人、企業、地球を動かすと考えている。2011年の創業以来、過去15年間にわたりプロセスを分析し、サービスを提供してきた。その実績は、自動車、製薬、ライフサイエンスなど、さまざまな業界に広がり、プロセスに対する取り組みにおいて、数万社からの信頼を勝ち得ている」と切り出した。

  • Celonis 共同創業者兼共同CEOのバスティアン・ノミナヘル氏

    Celonis 共同創業者兼共同CEOのバスティアン・ノミナヘル氏

導入事例として、日立エナジーでは受注残への対応に向けて、Celonisが提供するエンタープライズAIを導入、メルセデス・ベンツはインドでの品質管理やフィールドサービスの強化にCelonisを活用し、カスタマーエクスペリエンスを最大化している。また、ドイツテレコムでは、インドのコールセンターを通じた新規顧客の獲得や解約率の低減にCelonisを活用している事例を紹介。従来のようなプロセスの改革だけでなく、攻めの経営にCelonisを利用しているケースが増えていることを示した。

そのうえで、ノミナヘル氏は「Celonisは、プロセスマイニングにより、X線で見るようにプロセス全体を可視化して業務を深く理解できるだけでなく、エグゼキューションマネジメントシステムで課題や価値を発見し、自動化による解決を図ることもできる。さらに、プロセスインテリジェンスに関する最先端の研究成果をもとに、リアルタイムで何が起きているのかを把握することができ、行動につなげるようになった。その結果、全世界の企業や団体において、100億ドルもの価値を創出している」と述べた。

AI投資対効果を高める「Celonis Context Model」とは

一方、企業の94%がAIへの投資を拡大しているものの、大規模にAIを実運用できている企業が21%にとどまっていることを指摘。

同氏は「AIへの投資は2倍になっているが、そこからリターンを得ることに苦労している企業が多い。AIの活用には、データの正確性を維持すること、投資効率に優れている必要がある、これらが壁になってエンタープライズAIをビジネスに導入できないという課題に直面しているケースが目立つ。これを解決するのが、Celonis Context Model (CCM)だ。Celonisの15年間の取り組みを1つにまとめたものであり、エンタープライズAIを実用化できるものになる」と力を込めた。

  • Celonis Context ModelはCelonisの15年間の取り組みを1つにまとめたものだという

    Celonis Context ModelはCelonisの15年間の取り組みを1つにまとめたものだという

CCMは、動的でリアルタイムに変化する業務を対象にしたデジタルツインを提供し、AIがビジネスを理解できる「言語」へと翻訳。インタラクションからのプロセスデータと、ビジネス知識にもとづき、あらゆるシステムやアプリケーション、デバイスを対象に正しく推論して確実に行動し、大規模に成果を出すことができるという。

CCMの導入により、エンタープライズテクノロジースタックにおいて「コンテキストレイヤー」という新たな層を定義。ここには、プロセスデータやビジネス知識、運用・意思決定インテリジェンスを統合して、エンタープライズAIを現実に即したものへと進化。ビジネス全体の行動と結果から学習して、継続的に進化させ、実行をサポートする。

また、CCMの発表にあわせて、Ikigai Labsを買収したことも公表。計画やシミュレーション、予測機能を含む最先端の意思決定インテリジェンスをCCMに統合した。これにより、組織は将来のシナリオをモデル化して、プロセスの障害を予測したり、防止したりでき、信頼性の高い意思決定を行うことが可能になる。

Ikigai Labsは、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で20年近くにおよぶ研究成果にもとづいて設立された企業で、同大学の教授などが設立に参画。サプライチェーン分野などでの計画や予測にかかる時間を大幅に短縮する価値を提供してきた。

ノミナヘル氏は「エンタープライズAIの実現には、適切なコンテキストが必要であり、組織全体をカバーするデジタルツインが必要。そのために、CelonisはCCMを開発した。組織やサプライチェーンで何が起きたのか、次に何をすべきかを把握することができる。CCMで業務のコンテキストを理解し、将来を予測することが可能になる」と語った。

日本企業に求められるエンタープライズAIの全体最適化

Celonis日本法人 代表取締役社長の村瀬将思氏は「20世紀後半の自動化、情報化による第3次産業革命に続き、2010年代には、データ駆動型社会による第4次産業革命が起こり、現在から未来にかけては、民主化、人間中心の第5次産業革命が起きることになる」と予測している。

  • Celonis日本法人 代表取締役社長の村瀬将思氏

    Celonis日本法人 代表取締役社長の村瀬将思氏

そして、村瀬氏は「これはエンタープライズAIの時代ともいえる。これまでのAIは現場を対象にした部分最適化にとどまっていた。これからのエンタープライズAIは、企業や産業全体のインフラを対象に、全体最適化したものに昇華する。その結果、ビジネスモデル全体がAIを前提として再設計され、人とAIが高度に調和する新たな時代が訪れる。AIが代替する業務の話題や、PoC(概念実証)に取り組む状況は昨年で終わり、今後はAIを実用化し、大きな価値を獲得するためにどうするかといった議論になる」と述べた。

だが、現時点では、AIの成果が限定的であることも懸念している。聴講者に「業務でAIを利用しているか」という質問を投げ、挙手を求めたところ、約9割の手があがったが「基幹業務でAIエージェントを活用し、年間5億円以上の価値を創出している」との設問には1人も手が挙がらなかった。

こうした状況を鑑みて、同氏は「これが現実。2026年の年頭所感で、多くの企業経営者がAIを活用して社員の生産性を高めると発言していたが、1年の半分を過ぎた7月になっても、全社規模で利用している企業は少なく、大きな価値を創出できていないのが実態だ。これは日本だけの話ではなく、グローバルでも同様である。その背景にあるのは、部分最適なAI利用と、全体最適のAI利用における大きなギャップを埋めることができていないためだ。これは、エンタープライズAIの実現において、オペレーション上の盲点である」との認識を示した。

AIエージェント活用の鍵を握るビジネスコンテキスト

村瀬氏が「盲点」としてあげたのが「ビジネスコンテキスト(業務の文脈)」の活用に向けたハードルの高さだ。村瀬氏は「AIは、優秀なジェネラリストである。だが、自社のビジネス改善に必要なのはスペシャリストである。ビジネスコンテキストを理解したAIで、初めてエンタープライズAIを実現することができる」と説く。

たとえば、AIに対して「需要が急増している。再発注すべきか」といった質問をした場合に、一般的なAIは「在庫切れを防ぐために、供給量を拡大するか、在庫水準の調整を検討してください」と答える。しかし、これでは現場で解決策が提示されたとはいえない。

これに対して、ビジネスコンテキストを理解したスペシャリストのAIは自社の業務を理解したうえで、具体的にどの地域での需要が急増しているのか、どの製品に在庫切れの可能性があり、その確度は何%であるのか、過去の傾向から鉄道輸送では間に合わないので空輸を検討したほうがいい、といった提案を行うことができるようになるという。

村瀬氏は「ビジネスコンテキストを活用することで、AIは、過去の検証、現在の洞察、未来の予見が可能になる。さらに、これを自動実行することも可能になる」と強調する。しかし、現状のままでは、一筋縄ではいかないとも話す。

同氏は「ビジネスコンテキストのベースとなるデータは、さまざまなシステム、アプリケーションに分散したり、社員が個別に保有したり、経験や勘としてデータ化されていないという課題がある。しかも、これをAIに読み込ませようとすると非効率であり、莫大なコストがかかる。AIはデータを学習するために、企業の複雑な構造を理解し、アクセスする。それだけでトークンコストが上昇する。解決策は、AIとは別にオペレーショナルコンテキストを用意すること。これを実現するのがCCMであり、RoAI(AIの投資対効果)を最大化できる。プロセスマイニングをやってきたCelonisだから実現できる」と、Celonisの優位性を語った。

  • Celonis Context ModelははAIエージェントに業務の明確なコンテキストを提供する

    Celonis Context ModelははAIエージェントに業務の明確なコンテキストを提供する

CCMは「プロセスデータ」「ビジネスナレッジ」「インテリジェンス」でオペレーションを理解し、AIエージェントに明確なコンテキストを提供。ベンチマークの結果では、平均正解率が91%、完了正解率は95%、トークン数は4分の1になるなどの成果が出ている。

村瀬氏は「業務の現在、あるべき姿、そして将来像を、プロセスを中心に動的かつ包括的にモデル化できる。CCMを活用するか否かが、AIを経済的に価値があるソリューションにできるかどうかの分かれ目にもなる。つまり、Celonisが唯一無二といえる存在になれる」と胸を張っていた。