太陽系はどのようにして生まれたのか。これは天文学の大きな問いの1つである。現在の太陽系では、太陽の周囲を地球や木星などの惑星が公転している。しかし、太陽が生まれて間もないころには、その周囲にガスと塵からなる円盤が広がっていたと考えられている。。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

このような円盤は「原始惑星系円盤」と呼ばれ、すでに数百のオーダーで観測がなされている。それらは惑星が生まれつつある過程を、私たちに伝えてくれている

原始惑星系円盤のリング構造は何を示すのか

近年はアルマ望遠鏡などによる高解像度観測によって、若い星の周囲にある原始惑星系円盤の姿がより詳しく見えるようになってきた。目を引くのは円盤に刻まれた同心円状のリングやギャップである。

まるで木の年輪のように、明るい輪と暗いすき間が並ぶ天体画像は、見た目にも美しい。しかしそこには、円盤の中で成長している見えない惑星の痕跡が刻まれている可能性があるのである。

英ウォーリック大学などの研究チームは、原始惑星系円盤に埋もれた惑星が作る塵リングの性質から、惑星の質量を推定できるかについて調べた「Reading between the rings: observed dust ring properties as probes of planet masses」が発表された。

惑星と円盤との相互作用を二次元流体シミュレーションで再現し、惑星質量を変えたときに、リングの位置、幅、塵の量がどのように変化するかを解析したのである。

ポイントは、惑星そのものが直接見えなくても、周囲の円盤に残された足跡が観測可能だということだ。成長中の惑星は、円盤内のガスと重力的に相互作用し、周囲のガスと角運動量をやり取りする。

その結果、惑星の軌道付近ではガスが内側と外側へ押し分けられ、ガス密度の低いギャップができる。そして、そのギャップの外側には、局所的なガス圧の山が形成される。

この圧力の山は、塵粒子を集める「トラップ」として働く。塵はガスとの摩擦を通じてその運動を変える。通常の円盤では、外側ほどガス圧が低いため、ガスはケプラー速度よりわずかに遅く回る。すると、ほぼケプラー運動をする塵は向かい風を受け、角運動量を失って中心星方向へ移動する。

一方、惑星が作った圧力最大点の内側では、外へ行くほど圧力が高くなる。この場合、ガスはケプラー速度よりわずかに速く回るため、塵は追い風を受けて角運動量を得る。

その結果、塵は外側へ移動する。つまり圧力最大点の外側の塵は内向きに、内側の塵は外向きに動き、両側から圧力最大点へ集まる。こうして塵が濃く集まった構造が、観測では明るいリングとして見えるのだ。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第4回

    塵はガスの圧力最大点周囲に集まる

原始惑星系円盤のリング構造は何を示すのか

研究チームが特に注目したのが、惑星の「Hill半径」とリングの位置との関係である。Hill半径とは、惑星の重力が中心星の重力に対して局所的に強く効く範囲の目安である。

惑星が重いほど、この重力的な影響範囲は大きくなる。シミュレーションの結果、塵リングの密度が最大になる位置は、惑星のHill半径とほぼ線形に関係していることが確認された。これは、リングのピーク位置を測れば、そこに埋もれている惑星の質量を逆算できる可能性があることを意味する。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第4回

    横軸は惑星の重力的影響範囲、縦軸は塵リングのピーク位置。惑星が重いほど、周囲に及ぼす重力的な影響範囲であるHill半径は大きくなる。シミュレーションでは、塵リングの密度ピーク位置がHill半径とほぼ線形に対応することが示され、リングの位置から見えない惑星の質量を推定する手がかりになると考えられる(軸ラベル和訳は著者)

もう1つの重要な概念が「ペブル隔離質量」である。ペブルとは、原始惑星系円盤内にある小石サイズの固体粒子を指す。こうした粒子は、ガスとの摩擦を受けながら中心星方向へゆっくり移動する。形成中の惑星は、これらのペブルを取り込みながら成長できる。

しかし惑星がある程度重くなると、その軌道の外側にガス圧の山を作る。この圧力の山は、上述の機構により外側から内側へ流れ込もうとするペブルをせき止める働きをする。つまり、惑星は成長するにつれて、自分に向かって流れてくる材料の通り道を遮断してしまうのである。

このように、ペブルの内向き流入を止められるようになる惑星質量がペブル隔離質量である。本研究では、惑星質量をペブル隔離質量の0.5倍から2倍まで段階的に変え、塵リングの位置、幅、質量がどのように変わるかを調べた。

その結果、惑星質量がペブル隔離質量に達するまでは、塵リングの幅や塵質量が惑星質量に応じて変化することが示された。ペブル隔離質量未満の惑星では塵トラップが十分強くないため、多くの固体物質が逃げ、幅広く低質量のリングになりやすい。

他方、より重い惑星では塵が効率よく閉じ込められ、コンパクトで幅の狭いリングが形成される。そしてペブル隔離質量を超えると、リングの幅や塵質量は大きく変わらなくなり、これらだけでは惑星質量を細かく区別しにくくなる。

ペブル隔離質量とリング構造の変化、観測への応用

さらに研究チームは、ガス圧力の動径方向分布にも注目した。惑星が作る圧力最大点の内側と外側では、圧力勾配の急峻さに非対称性が生じる。

この非対称性の向きは、惑星質量がペブル隔離質量を上回るか下回るかによって変わるという。そこで研究チームは、ペブル隔離質量を、圧力最大点の内側の圧力勾配が外側の圧力勾配を上回るようになる最小の惑星質量として定義する新しい見方を提案している。

これは、塵の観測だけでなく、ガス面密度やガス圧の観測からも、円盤内の惑星がペブル隔離質量を超えているかどうかを判断できる可能性を示す。

この研究では、シミュレーション結果を実際の観測対象にも適用している。PDS 70は、ケンタウルス座の方向約370光年の位置にある若い星。その原始惑星系円盤内にまさに形成中の惑星が直接撮像されていることで知られ、惑星形成研究における重要な対象である。

研究チームはその惑星の1つ「PDS 70c」の質量推定に今回の関係式を適用し、先行研究とよく一致する結果を得た。このことは、今回の手法が実際の観測対象にも応用できる可能性を示している。

若い星を囲む塵のリングの魅力、それはその独特の美しさだけではない。円盤の中で誕生しつつある惑星の質量、惑星を育む円盤のさまざまな性質、そして材料となる塵の流れなど、惑星形成に関する情報がそこに刻まれているのである。

私たちの太陽系も、かつてはこのようなガスと塵の円盤から生まれた。遠い若い星の周囲に見えるリングを読み解くことは、私たちの太陽系が、そして地球がどのように生まれたのかを探ることにもつながるのである。