太陽系に地球外文明の探査機や人工物が存在するとしたら、現在の観測で私たちはそれを見つけられるのだろうか。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

一見すると突飛な問いに思えるかもしれない。最初に確認したいのは、これは宇宙人が地球近傍に来ているという主張ではない、ということだ。問われているのは、月、火星、小惑星、外惑星衛星、そして膨大な小天体サーベイのデータを、どこまで網羅的に調べられているのかという、観測天文学とデータ解析の問題である。arxivに掲載されたT. Joseph氏とW. Lazio氏の論文「Technosignatures in the Solar System」では、太陽系内に存在し得るテクノシグネチャーを分類し、現在の観測データで検出できるもの、まだ見逃され得るものを整理している。

太陽系内テクノシグネチャーとは何か

テクノシグネチャーとは、地球外の技術文明の存在を示す可能性がある観測的な痕跡を指す用語である。従来のSETI(Search for Extra Terrestrial Intelligence: 地球外知的生命体探査)では、地球外文明からの電波信号を探すイメージが強かった。

しかし、現在では電波やレーザー信号だけでなく、人工的な大気成分、巨大構造物による恒星光の変化、廃熱、あるいは人工物そのものも広い意味でテクノシグネチャーに含めて議論されている。重要なのは「奇妙に見えるもの」を直ちに人工物とみなすことではなく、自然起源の説明を一つずつ検証するための候補として拾い上げることである。

この論文が扱うのは、その中でも「太陽系内」に存在し得るテクノシグネチャーである。Joseph氏らは、太陽系内の人工物候補を大きく、軌道上にある探査機と天体表面にある人工物に分けている。さらに、それぞれが通信や推進、発熱などの活動をしている「能動的」なものか、すでに活動を停止している「受動的」なものかによって分類する。

私たち人類も、すでにパイオニア、ボイジャー、ニューホライズンズなど、太陽系を脱出する軌道にある探査機を送り出している。

別の文明が同様の探査機を恒星間空間へ送り出し、太陽系を通過したり太陽系内に残ったりする可能性を考えること自体には、論理としての不自然さはない。ただし、この論文はその存在を主張しているわけではない。目的は、仮にそのような人工物があった場合、現在の観測でどこまで見つけられるかを評価することにある。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第6回

    テクノシグネチャーの分類(論文より、和訳は著者)

軌道上の人工物は小惑星や彗星と区別できるのか

電波も光信号も発しない受動的探査機は、観測上は小惑星や彗星、あるいは恒星間天体と区別することが難しくなる。手がかりになるのは、軌道、明るさの変化、色、スペクトル、熱放射などである。

たとえば、通常の小惑星や彗星では説明しにくい軌道をとる天体があれば、追加観測の対象にはなる。ただ軌道の異常は、それだけで人工物を意味しない。彗星のガス放出、太陽放射圧、ヤルコフスキー効果(小惑星などが太陽光で温められ、再び赤外線を放射する際に生じるわずかな反作用によって、長い時間をかけて軌道が変化する現象)など、自然天体にも非重力的な加速度を生じさせる要因があるからだ。

この意味で、恒星間天体「オウムアムア」は象徴的だ。オウムアムアは、細長い形状を示唆する大きな明るさの変化や、彗星活動がはっきり見えないにもかかわらず非重力加速度を示したことで注目された。

一部では人工物説も唱えられ、確かに短い観測期間で得られた情報に制約はあるが、オウムアムアに関する観測結果は純粋に自然起源と整合する、というのが国際研究チームの結論である。

一方で、人工物を識別できた事例もある。2020 SOと呼ばれる天体は当初、地球近傍小惑星とみなされた。その後、軌道や近赤外スペクトルの解析から、1960年代の月探査機打ち上げに使われたロケット上段である可能性が高いと判断された。この例は、軌道情報とスペクトル観測が、自然天体と人工物の識別に役立つことを示している。

今後、ルービン天文台のLSSTのような大規模サーベイによって、小天体の発見数は大きく増えることが見込まれている。その中から異常な色や軌道を持つ候補を拾い上げるには人力だけでは限界がある。多色測光や赤外線データ、機械学習による異常検知は、この分野でも重要な役割を持つ可能性がある。

月や火星、小惑星表面の人工物は探し尽くされているのか

人工物は宇宙空間の軌道上だけでなく、月、火星、小惑星、外惑星の衛星などの表面に存在する可能性も考えられる。人類自身の探査機や着陸機、ローバーの痕跡は月や火星の高解像度画像で実際に確認されている。つまり、表面人工物は十分な解像度と範囲の観測があれば見つけることができる。

もちろん現時点で、これらの天体の表面が探索され尽くされているわけではない。月一つとっても、NASAの月探査機LRO(Lunar Reconnaissance Orbiter)の高解像度カメラは、場所によっては非常に細かな地形を写している。

しかし、月面全体を同じ解像度で、しかも人工物探索の観点から網羅的に調べたわけではない。一方、JAXAの月探査衛星「かぐや」は月面をほぼ網羅するが、人工物探査の観点からは解像度が全く足りていない。

火星についても同様である。探査機の着陸地点や関心の高い地形では詳細な画像がある一方、全球を人工物探索に十分な解像度で調べ尽くしているわけではない。さらに、小惑星や外惑星衛星になると、観測の解像度は対象や探査履歴によって大きく異なる。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第6回

    マーズ・リコネッサンス・オービターの高解像度カメラ”HiRISE”が捉えた、火星表面の探査車キュリオシティとその関連物体(Credit: NASA/JPL-Caltech/Univ. of Arizona)

木星や土星の一部の衛星では、探査機の近接観測によってメートル~数十メートル級の構造が識別された例もある。一方で天王星や海王星の衛星のように、現在もキロメートル級の構造でなければ識別が難しい領域は多い。

つまり太陽系については、詳しく調べられてきたように見えても「人工物が存在しない」と断言できるほど、網羅的に探索されているわけではない。観測の解像度や範囲、データ解析の限界を考えると、比較的大きな人工物でさえ見逃されている可能性は残る、というのが著者の見解だ。

「奇妙な天体」をどう科学的に見分けるか

この論文の重要な点は「奇妙な天体」を安易に人工物と結びつけていないことである。むしろ、奇妙に見える対象を、どの観測量によって検証すべきかを整理している。

軌道が異常なら、まず自然な非重力加速度の可能性を調べる。色やスペクトルが異常なら、既知の小惑星、彗星、人工物、宇宙機材料と比較する。熱放射が予想と合わないなら、表面の熱慣性、形状、自転状態、観測誤差を検討する。表面画像に不自然な構造が見えたとしても、照明条件、影、地形、画像処理の影響を切り分けなければならない。

要するにテクノシグネチャー探索は「宇宙人の痕跡」を探す作業ではない。自然現象、人類由来の人工物、観測上のアーティファクトを一つずつ排除し、それでも説明が難しい対象を追加調査する、地道な異常検知の科学である。

生成AIによって本物らしく見えるUFO(宇宙人の乗り物という意味での)動画が容易に作られSNS上で拡散される現代にあって、この視点は一層重要になる。印象的な映像は関心を集めるが、それだけでは科学的証拠にはならない。

必要なのは、既存の知識で説明できるものと、そうでないものを切り分けること、そして再観測可能なデータ、軌道、スペクトル、熱放射といった検証可能な情報に基づいて判断する、冷静な態度である。

太陽系内テクノシグネチャー探索は、地球外文明の存在を前提にする研究ではない。私たちがこの太陽系の事象をどこまで見ているのか、見ていないのか、そして「異常」をどのように科学的に扱うべきかを問う研究だと言える。

これは、オウムアムアが人類に残して行った宿題なのかも知れない。