アルマ望遠鏡は4月15日、同望遠鏡による観測と数値計算を組み合わせることで、星形成コアから落下するガスが原始惑星系円盤に徐々に流れ込んでいく「遷移領域」の存在を明らかにしたと発表した。

  • ENDTRANZの概念図

    ENDTRANZの概念図。エンベロープと円盤の境界で、外側から落下するガスの運動が原始惑星系円盤のケプラー回転へと徐々に遷移していく領域が、赤い帯状の環で示されている。数値計算で得られた比角運動量の2次元分布が、生成AIにより可視化されたイラストである。(c)Indrani Das/ASIAA(出所:ASIAA Webサイト)

同成果は、台湾・中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のIndrani Das博士研究員、同・大橋永芳研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の学術誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

原始惑星系円盤の謎にアルマ望遠鏡が迫る

星は、星間ガスや星間塵が集まる分子雲内において誕生する。近隣の超新星爆発による衝撃波などをきっかけに、ガスや塵がより濃密に集積して「分子雲コア」が誕生。それが重力崩壊を起こして原始星が形成され、その中心部で核融合が安定して始まることで星としての進化がスタートする。そして原始星の周囲に形成されるのが、惑星誕生の現場である「原始惑星系円盤」であり、その両者を包み込む広大な領域が「エンベロープ」だ。

エンベロープからは、原始星と円盤に対してガスと塵が供給されるが、そこには長年の謎が残されていた。円盤内の惑星は星の周囲をケプラー運動(公転)しているが、エンベロープから流入してくるガスが円盤に取り込まれた際、いかにしてケプラー運動を開始するのか、その物理的なメカニズムが判明していなかったのである。そこで研究チームは今回、数値シミュレーションを用いて、その形成プロセスの解明を試みたという。

まず、星を含まない分子雲コアの重力崩壊から恒星-円盤系の形成までをモデル化する「FEOSADコード」を用いて、数値シミュレーションが実施された。その結果、回転しながら落下するエンベロープから回転円盤に遷移する領域において、単位質量辺りの全角運動量を表す「比角運動量」の距離分布に、一定の幅を持った「ジャンプ」が生じることが示された。比角運動量とは、物質がどれほどの速さで、どれほど遠くを公転しているのかを質量に関わらず示す指標であり、収縮する分子雲の運動を示すのに有効とされる。

  • 回転速度と比角運動量の変化を恒星からの距離に対して示した図

    収縮する分子雲コアのシミュレーション結果に基づき、回転速度と比角運動量(左右の縦軸)の変化を、恒星からの距離(横軸)に対して示した図。オレンジ色の領域がENDTRANZに相当し、破線と点線によりその外縁と内縁が示されている。(c)Indrani Das/ASIAA.(出所:ASIAA Webサイト)

数値シミュレーションによる示唆を得た研究チームは、次に、地球から約450光年の距離にある「おうし座分子雲」内に位置しし、半径約70天文単位の原始惑星系円盤を有する原始星「L1527 IRS」を調査したとする。アルマ望遠鏡の高分解能を活かした大規模観測プログラム「eDisk」による観測データを再解析した結果、この星の周囲で、理論予測と酷似した比角運動量分布の「ジャンプ」が確認された。16天文単位の幅にわたるこの変動は、エンベロープと円盤の間に存在する遷移領域の観測的証拠であると推測された。

このエンベロープ-円盤の系で見出された明確な遷移領域は、「ENDTRANZ(Envelope Disk Transition Zone)」と命名された。理論と観測の両面から、外側から落下するガスの運動がある特定の領域で徐々にケプラー運動へと移行していく実態が特定された。これは、従来の力学モデルで想定されていた“ガスの運動が急激に変化する”という説とは対照的な発見だったとした。

  • L1527 IRSとeDiskプログラムで観測されたガスの運動

    (左)ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えたL1527 IRS。(c)NASA, ESA CSA, STScI,(右)アルマ望遠鏡のeDiskプログラムで観測されたガスの運動。比角運動量(a)と回転速度の半径分布(b)を、地球に対する前後方向の速度(青方偏移、赤方偏移)が持つ成分ごとに表示されている。オレンジの領域で比角運動量の距離分布にジャンプが見られ、回転しながら落下するエンベロープのガスが、ケプラー回転する円盤に取り込まれていくENDTRANZの証拠と考えられている。(c)Indrani Das/ASIAA.(出所:ASIAA Webサイト)

Das博士研究員は今回の成果に対し、「ENDTRANZの存在は、若い恒星の周りで円盤が形成される間に質量と角運動量が再分配されることの帰結です。ケプラー回転よりもゆっくりと回転しているエンベロープから流入するガスが、どのように円盤状に広がって、整然としたケプラー回転に従っていくのかを決める過程なのです」とコメントしている。また、ENDTRANZの特定は、太陽系をはじめとする惑星系の形成を理解する上で重要なステップとした。

今回の研究でENDTRANZの存在が明確に示されたことで、今後はより複雑な物理現象の深掘りや、他の若い恒星系における同様の兆候の探索が可能になった。星や惑星系の形成に関する研究において、今回の発見は新たな扉を開く可能性があるとしている。