京都大学(京大)、岡山大学、国立天文台(NAOJ)の3者は4月8日、NAOJ 天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)が運用する「計算サーバ」を用いたシミュレーションにより、形成直後の木星と土星の表面磁場強度の違いが周囲のガス円盤を通じた衛星形成に与える影響を解析した結果、強大な表面磁場を持つ木星ではガスの「磁気圏降着」によりガリレオ衛星が惑星近傍に誕生した一方で、磁場の弱い土星では離れた位置にタイタンのみが形成されたとする仮説を共同で発表した。
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若き日のガス惑星の周囲で巨大衛星が形成される際のイメージ。強烈な磁場を持つ木星(左手前)では磁力線に沿ってガスが流れ込むが、磁場の弱い土星(右奥)では直接赤道面へ流入している。土星の輪は、この時期にはまだ存在しないが、木星との区別のために描かれている。左奥は原始太陽。(c)藤井悠里(L-INSIGHT/京都大学);木下真一郎(出所:NAOJ CfCa Webサイト)
同成果は、京大大学院 人間・環境学研究科の藤井悠里助教、中国・上海交通大学 李政道研究所の荻原正博准教授、岡山大 学術研究院 環境生命自然科学学域の堀安範准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
木星と土星における衛星系の違いの謎を解くカギに
巨大ガス惑星である木星と土星は、数多くの衛星を従えている。木星は2026年3月に報告数が100個を超え、4月10日現在では計115個(うち72個が確定)に達した。一方の土星は300個目前の計292個または295個(3つの衛星が同一の可能性がある)が報告されている(うち66個が確定)。このように、報告数では土星が圧倒しているが、大型衛星の数に目を向けると状況は逆転する。木星にはガリレオ衛星と総称される大型衛星が4つ存在するのに対し、土星で巨大衛星と呼べるのはタイタンのみだ。
木星のイオ、エウロパ、ガニメデ、カリストは、4つで木星衛星系の総質量のほぼすべてを占める。特にガニメデは太陽系最大の衛星であり、惑星である水星をも上回るサイズを誇る。第3位のカリスト、第4位のイオ、第6位のエウロパと、太陽系の衛星サイズランキング上位を独占しているのが木星系だ。対する土星のタイタンも、太陽系第2位の巨躯を誇り、土星の全衛星質量の95%以上を占めている。
ただし、ガリレオ衛星とタイタンは、その軌道に明確な違いがある。ガリレオ衛星のうち内側の3つは、約42万2000km、約67万1000km、約107万kmと木星の近傍を周回する(カリストだけ約188万3000kmと離れている)。それに対し、タイタンは土星から約122万2000kmと、ガリレオ衛星の内側3つよりも離れた軌道なのが特徴だ。こうした巨大衛星の個数や軌道構成の違いがなぜ生じたのかは、長年の謎となっている。
巨大衛星系の差異を理解する鍵は、その形成プロセスにある。ガス惑星が成長する際、周囲にはガスが円盤状に集まる。これは、原始惑星系円盤の惑星版ともいうべき「周惑星円盤」で、巨大衛星はこの中で誕生したと考えられている。つまり、衛星の性質は当時のガス円盤の構造や組成から大きな影響を受けることになる。
ガス円盤の構造は、密度や温度、惑星質量、そして惑星磁場などによって決まる。これまでも、惑星磁場がガス円盤に与える影響を仮定し、木星と土星の衛星系の違いを説明する試みはあった。しかし、その設定の妥当性については検討が不十分であり、衛星形成における磁場の役割を正しく理解するには、ガス円盤と磁場との物理的な相互作用を調べる必要があった。そこで研究チームは今回、ガス惑星の内部構造や円盤に働く物理メカニズムを考慮し、両惑星の周囲で起こる衛星形成の様子を詳細に調べたという。
まず、形成初期の両惑星の内部構造に関する数値シミュレーションが実施された。その結果、惑星内部では数倍程度の差だが、表面では木星の方が土星より約100倍も強くなることが判明。木星は土星と比べて半径は約1.2倍だが、質量は3倍以上ある。この物理量の差が表面磁場強度の圧倒的な差を生み、結果として衛星系の構成を分けたことが解明された。
続いて、惑星表面の磁場とガス円盤の構造、さらに衛星の形成と軌道移動を組み合わせた包括的なシミュレーションが実施された。ガス円盤の一部が電離してプラズマ化すると、ガスは惑星の磁場線に沿って流れるようになる。この「磁気圏降着」が起きるかどうかは、円盤ガスの流入する勢いと磁場強度のバランスによって決定される。
十分な磁力を持つ木星の場合、強力な磁場がガスの勢いを上回り、磁気圏降着が起こり、木星近傍にガスが入り込まない空隙が形成される。離れた位置で形成された衛星は、ガスとの相互作用で木星に向かって内側へと移動するが、この空隙の縁(円盤の内縁)で移動が堰き止められる。その結果、内縁部に到達した複数の衛星が重力的に安定した軌道に収まり、現在のガリレオ衛星のような構成が形作られた。実際、ガリレオ衛星の内側3つは周期1:2:4の共鳴軌道にある。
一方、磁場の弱い土星では、磁場がガスの流入する勢いに抗えず、磁気圏降着が起こらない。そのため、土星近傍まで移動してきた衛星は留まるための「堰」がなく、最終的に土星本体に飲み込まれてしまう。結果として、土星の近傍で形成された衛星は消滅し、少し離れた位置を回っていたタイタンだけが生き残れるというシナリオが導き出された。
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両惑星における衛星形成プロセスの比較概念図。「磁気圏降着」の有無が、衛星が惑星近傍に留まれるか、あるいは飲み込まれるかの分かれ目となった。(c)堀安範(岡山大)(出所:NAOJ CfCA Webサイト)
このように、形成期の両惑星における表面磁場強度の違いが、巨大衛星系のアーキテクチャを決定づけた可能性が浮上した。また、土星の環は土星に接近しすぎた衛星が潮汐力で破壊されて誕生したとする説があるが、今回の結果は、土星に環の材料となる衛星が次々と供給される状況とも整合的であるという。
今回の結果から、系外惑星の衛星探査においても重要な示唆を与える。木星クラスやそれ以上の巨大ガス惑星の近傍には複数の衛星が、土星クラスの惑星の周囲には、少し離れた位置に1~2個の衛星が発見される可能性が高いと予想されるとする。
今回の論文筆頭著者である京大の藤井助教は、「木星と土星の質量の違いが惑星表面での磁場強度の違いを生み、それによって巨大衛星系の違いを説明できることを初めて示しました。太陽系の外にはまだ衛星は発見されていませんが、将来の発見に向けた探査計画で探るべきパラメータの選定に役立つことを期待します」と、今回の研究の意義と今後の展望をコメントしている。