宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月13日、種子島宇宙センターにおいて、火星衛星探査計画(MMX)の機体を公開した。開発が完了したMMX探査機が報道向けに公開されるのは、これが初めて。打ち上げ時期はまだ発表されていないものの、火星に行くのに都合の良いウィンドウは10月〜11月ころで、このタイミングでの打ち上げになる見込みだ。

  • JAXA種子島宇宙センター・第3衛星フェアリング組立棟(SFA3)内で公開された火星衛星探査計画(MMX)探査機。左が往路モジュール、右が探査/復路モジュール

    JAXA種子島宇宙センター・第3衛星フェアリング組立棟(SFA3)内で公開された火星衛星探査計画(MMX)探査機。左が往路モジュール、右が探査/復路モジュール

MMXはどんなミッション?

MMXは、小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」に続く、サンプルリターンのプロジェクト。まだ本格的な探査がされておらず、「太陽系で最も重要な未踏峰」とも呼ばれる火星の衛星フォボス(直径約20〜30km)に着陸し、採取したサンプルを地球に持ち帰ろうという野心的な計画で、成功すれば、世界初の火星衛星サンプルリターンとなる。

日本にとって、火星圏に向かうのは、1998年に打ち上げられた火星探査機「のぞみ」以来。のぞみは飛行中、様々なトラブルに見舞われ、火星周回軌道への投入を断念しており、MMXでは日本初の火星圏到達も狙う。2026年度にH3ロケットの24L形態で打ち上げ、2031年度に地球へ帰還。オーストラリアでカプセルを回収する予定だ。

  • MMXのミッション期間は約5年。そのうち3年ほど火星圏に滞在する (C)JAXA

    MMXのミッション期間は約5年。そのうち3年ほど火星圏に滞在する (C)JAXA

MMXがめざすのは、火星衛星の起源を明らかにすること。火星衛星の大きなナゾは、それが火星への天体衝突で生まれたのか(巨大衝突説)、それとも太陽系外縁から飛来した小惑星が重力で捕獲されたのか(捕獲説)、ということだ。衛星表面から直接サンプルを採取し、持ち帰って調べることで、この論争に決着を付ける。

  • MMXのミッション。理学・工学それぞれに目的がある (C)JAXA

    MMXのミッション。理学・工学それぞれに目的がある (C)JAXA

また、MMXは火星衛星からのサンプルリターンであるが、火星由来の物質も入手できる可能性がある。隕石の衝突で火星表面から吹き飛ばされた物質が、フォボス表面には降り積もっていると考えられている。MMXは10g以上のサンプルを持ち帰る予定で、火星由来の物質は、その中に0.1%くらい入っていると見られているそうだ。

MMXは打ち上げ時重量4,480kgの大型探査機で、開発は三菱電機が担当した。大きな特徴は、往路/探査/復路という3モジュールで構成されることだ。打ち上げ時は3モジュールが結合されているが、火星到着後に往路モジュールを分離。出発前に探査モジュールを分離し、復路モジュールのみで帰還する。

  • MMX探査機の概要 (C)JAXA

    MMX探査機の概要 (C)JAXA

  • 往路モジュールだけ分離した状態だった。ロケットに搭載する直前に結合される予定だ

    往路モジュールだけ分離した状態だった。ロケットに搭載する直前に結合される予定だ

  • 450Nのメインエンジンを4基搭載。IHIエアロスペース製で、静止衛星などで豊富な実績がある

    450Nのメインエンジンを4基搭載。IHIエアロスペース製で、静止衛星などで豊富な実績がある

  • 左に飛び出た長い円筒形状の部分は酸化剤タンク。右の短い円筒は押しガスのヘリウムタンク

    左に飛び出た長い円筒形状の部分は酸化剤タンク。右の短い円筒は押しガスのヘリウムタンク

  • 着陸脚の部分が探査モジュール。その右側の復路モジュールと結合されている

    着陸脚の部分が探査モジュール。その右側の復路モジュールと結合されている

MMXは、システムがとにかく複雑である。3モジュール構成になっていて途中で分離していくという運用方法もそうだし、探査機自体の形状も非常に複雑だ。同じサンプルリターン探査機でも、はやぶさシリーズが箱形のシンプルな形だったのに比べると、対照的な設計思想に見える。

三菱電機の上原晃斉MMXプロジェクト統括部長は、「3つのモジュールの開発を同時に進めるのが大変だった」と述べる。往路モジュールにも復路モジュールにも、推進系が搭載されている。1機の探査機ではあるが、3つのモジュールを搭載するせいで、「衛星2.5機分くらいの機器があった」と、苦労を語った。

  • 三菱電機の上原晃斉MMXプロジェクト統括部長。左はMMX探査機の1/20スケール模型

    三菱電機の上原晃斉MMXプロジェクト統括部長。左はMMX探査機の1/20スケール模型

新たなサンプル採取方法

また、特に複雑なのが、サンプルの採取方法である。はやぶさシリーズは、小惑星表面に弾丸を撃ち込み、飛び散った物質が探査機内部に集まる、というシンプルな手法を採用していた。一方MMXは、5軸のロボットアームを搭載。手先のコアラーをフォボス表面に突き刺し、サンプルが入った内筒だけを取り出して、帰還カプセルの入り口に運ぶ。

  • 中央がロボットアーム。根元のヨー軸で、左右にも回転する。川崎重工業が開発した

    中央がロボットアーム。根元のヨー軸で、左右にも回転する。川崎重工業が開発した

  • 先端に付いている銀色の円筒部がコアラー機構。内部のコアラーをフォボス表面に突き刺す仕組みだ

    先端に付いている銀色の円筒部がコアラー機構。内部のコアラーをフォボス表面に突き刺す仕組みだ

  • 帰還カプセル。はやぶさシリーズの設計を踏襲するが、サイズが1.5倍ほど大きい

    帰還カプセル。はやぶさシリーズの設計を踏襲するが、サイズが1.5倍ほど大きい

  • 帰還カプセルの土台部。フタ(黒い部分)が開くようになっていて、その中にコアラーの内筒を入れる

    帰還カプセルの土台部。フタ(黒い部分)が開くようになっていて、その中にコアラーの内筒を入れる

MMXは着陸時、フォボス表面に2〜3時間滞在し、ほぼ自動でサンプル採取を行う。JAXAの川勝康弘MMXプロジェクトマネージャは、「ロボットアームが目立つが、コアラーは精緻なメカ。着陸時に地形を認識するカメラも搭載されている。サンプラー(サンプル採取装置)とはいえ、1つの小型衛星並みの複雑なシステムだった」と述べる。

  • JAXAの川勝康弘MMXプロジェクトマネージャ(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授)

    JAXAの川勝康弘MMXプロジェクトマネージャ(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授)

このサンプル採取装置(C-SMP)はJAXAが開発したが、MMXにはもう1つ、ニューマティック採取機構(P-SMP)という、NASAが開発した採取装置も搭載する。こちらは、フォボス表面にガスを吹き付け、巻き上げられた物質を回収するという仕組み。方式の異なる2種類の採取装置を搭載することで、より確実なサンプル採取が期待できるだろう。

  • ニューマティック採取機構(P-SMP)は、着陸脚の1本に搭載されている

    ニューマティック採取機構(P-SMP)は、着陸脚の1本に搭載されている

  • この穴のところでガスを噴射。右側のパーツは、吹き出した表面物質から探査機を守るカバー

    この穴のところでガスを噴射。右側のパーツは、吹き出した表面物質から探査機を守るカバー

  • 表面物質は配管を通って、着陸脚の根元にある装置で回収される

    表面物質は配管を通って、着陸脚の根元にある装置で回収される

ただ、気になる点は、どちらの採取装置も、帰還カプセルへの搬送にロボットアームを使うということだ。万が一、ロボットアームに不具合が発生すれば、どちらの装置でも採取できなくなる、ということになりかねない。もちろん、信頼性はしっかり確保しているだろうが、ミッション成功のキーデバイスといえるかもしれない。

そして注目したいのは、4本の着陸脚だ。上原統括部長は、「着陸脚の開発が一番大変だった」と述べる。特に注意したのは、フォボスは月や地球より重力が圧倒的に弱いため、着陸時にバウンドしないようにすること。そのため、衝撃を吸収する機構を開発し、独自に着陸の試験を実施しながら開発したそうだ。

  • 着陸脚の中間付近。この蛇腹状の部分が緩衝材になっていて、衝撃を吸収する。複数回着陸させるため、伸ばして元に戻す機能も搭載

    着陸脚の中間付近。この蛇腹状の部分が緩衝材になっていて、衝撃を吸収する。複数回着陸させるため、伸ばして元に戻す機能も搭載

打ち上げを間近に控え、川勝プロマネは「MMX探査機の開発は簡単な道ではなかったが、ついに開発完了という節目を迎え、感動している」とコメント。「いよいよこの探査機が宇宙に飛び立ち、活躍するスタートラインに立った。打ち上げを楽しみにしている」と、期待を寄せた。

  • パラボラアンテナが並ぶ。左の大きい方がHGA(高利得アンテナ)、右がMGA(中利得アンテナ)。黒いのは熱設計の結果だ

    パラボラアンテナが並ぶ。左の大きい方がHGA(高利得アンテナ)、右がMGA(中利得アンテナ)。黒いのは熱設計の結果だ

  • フォボス表面を走行するローバー。フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が開発した

    フォボス表面を走行するローバー。フランス国立宇宙研究センター(CNES)とドイツ航空宇宙センター(DLR)が開発した

  • 太陽電池パドルは畳まれている。軌道上で両翼を展開すると、探査機の幅は約9mにもなる

    太陽電池パドルは畳まれている。軌道上で両翼を展開すると、探査機の幅は約9mにもなる

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