松本零士氏の『銀河鉄道999』には列車が天の川銀河を離れ、アンドロメダへ向かう印象的な場面がある。同じ画面の左右に2つの銀河が居並ぶという、未来永劫人類が目にすることのない壮大なシーンである。そこでは天の川銀河とアンドロメダ銀河が、いずれも似たようなきれいな渦巻銀河として描かれていた。連載「最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線」の過去回はこちらを参照。

そう。私が子供のころは、人類が住む天の川銀河は純粋な渦巻銀河という認識だった。今ではそれは、中心部に棒状の構造を伴う棒渦巻銀河であることが分かっている。私たちは天の川銀河の内側にいるため、鉄郎やメーテルのように外から全体像を見ることはできない。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第3回

    棒渦巻銀河(著者作成)

棒構造という詳細が分かるようになったのも、主に赤外線観測によって銀河中心部の星の分布が詳しく調べられるようになってからだ。同じように赤外線の力で、はるか遠方の銀河に隠された棒構造が見えてきた(“A stellar bar hidden in an extreme gas-rich disk galaxy at z = 4.055”)。

対象は赤方偏移4.055、宇宙誕生から約15億年後に存在した巨大なガスリッチ(ガスが豊富な)銀河GN20である。研究チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測により、この銀河の内部に恒星でできた棒構造が存在する可能性を示した。これは初期宇宙の銀河が、従来考えられていたよりも早く複雑な内部構造を発達させていた可能性を示す発見である。

天の川銀河にもある「棒構造」とは?

棒状に分布した恒星は、銀河内のガスに重力的なトルクを及ぼす。その結果ガスは円盤内をただ回転し続けるだけでなく、銀河中心部へと流れ込みやすくなる。

中心部に集まったガスは、新しい星を大量に生み出す材料となり、バルジと呼ばれる中心の膨らんだ構造の形成にも関わる。また、銀河中心にある超大質量ブラックホールへ物質を供給し、その成長を促す可能性もある。

この意味で、棒構造は銀河の内部進化を駆動する「エンジン」のような存在である。天の川銀河にある棒構造も、銀河中心領域で過去にどのような星形成が起き、中心ブラックホール周辺へどのように物質が運ばれてきたのかを考えるうえで、重要な手がかりとなる。

JWSTが見つけた初期宇宙の棒構造

今回の研究対象となったのは、GN20と呼ばれる遠方銀河である。GN20は赤方偏移 z = 4.055に位置しており、これは宇宙誕生から約15億年後にあたる。現在の宇宙年齢が約138億年であることを考えると、かなり初期の宇宙に存在していた銀河である。

GN20は非常に多くのガスを含み、激しい星形成を行っている巨大な銀河。現在の近傍宇宙にある、比較的落ち着いた円盤銀河とは異なり、初期宇宙らしい活発な環境にある天体といえる。

そのような銀河で棒構造が見つかった。これは画期的なことだ。棒構造は、一般にはある程度、成熟した円盤銀河で発達する構造と考えられてきた。ところがGN20では、宇宙がまだ若くしかもガスに富む段階で、すでに棒状の恒星構造が存在していた可能性が示されたのである。

この発見の鍵となったのが、JWSTによる赤外線観測である。研究チームは、JWSTに搭載された中赤外線観測装置(MIRI=Mid-Infrared Instrument)のデータを用いて、GN20の恒星成分の分布を調べた。

GN20のような遠方銀河では、内部で活発な星形成が起きているだけでなく、塵も多い。可視光では塵に隠され、銀河の本来の構造を見通しにくい。そこで重要になるのが、塵の影響を受けにくい赤外線である。赤外線観測により、研究チームはGN20中心部の細長い恒星構造を見いだした。

研究チームは、MIRIの5.6µm帯で得られた、静止系1.1µmに相当する恒星光の表面輝度分布を解析した。その結果、中心部では等輝度線の楕円率が約0.4まで高まり、位置角の変化が約5度にとどまる一方、外側の円盤領域では楕円率が低下し、位置角も変化することが分かった。

  • 最新研究から読み解く 天文学・宇宙物理学の最前線 第3回

    赤方偏移 z=4.055 の遠方銀河GN20。JWSTの赤外線観測で棒構造(stellar bar)が捉えられている。8kpc(キロパーセク)=約2万6000光年

これらは、文献で用いられる恒星棒の同定基準を満たす特徴だとされている。研究チームはこの構造を、GN20に存在する恒星棒と解釈している。棒の長さは約7kpc規模と見積もられており、現在の銀河に見られる棒構造と比べても大きな構造である。また、この棒状構造は、塵やガスの分布とも対応している。これは、棒構造がGN20のガスを中心部へ運び、激しい星形成を支える役割を果たしている可能性を示している。

なぜガスリッチ銀河の恒星棒が銀河形成論を揺さぶるのか

恒星棒は、恒星円盤の中で生じる力学的不安定性が成長して形成されると考えられてきた。円盤内の恒星の運動がそろい、銀河全体として細長い非対称構造が発達していくことで、棒構造が現れるという描像である。近傍宇宙では、こうした過程は多数回の恒星軌道にわたって進む、比較的ゆっくりした進化だと理解されてきた。

一方、多量のガスは、棒構造の形成や成長にとって不利に働くとされてきた。ガスは恒星と違い、衝突や冷却を通じてエネルギーを失いやすい。そのため、棒ができかけると、ガスは銀河中心部へ流れ込みやすくなる。中心部に質量が集まると、棒を支える恒星の軌道が乱され、棒の成長が遅れたり、すでに形成された棒が弱まったりする可能性がある。

このため高赤方偏移、つまり遠方の若い宇宙で棒構造を持つ銀河が見つかった場合、それは「すでにガスを多く消費し、比較的成熟した円盤銀河なのではないか」と解釈されることがあった。しかしGN20は極端にガスに富む銀河である。にもかかわらず、その内部に恒星棒が存在する可能性が示されたのだ。

JWSTの登場以降、初期宇宙には、従来の予想よりも明るく、大質量で、構造の整った銀河が存在していた可能性が相次いで示されている。GN20に見つかった棒構造も、その流れに位置づけられるGN20の観測結果は、ガスに富む初期宇宙の円盤銀河でも、条件によっては棒構造が急速に形成されうることを示唆している。

今後、JWSTやアルマ望遠鏡などによって、高赤方偏移銀河の棒構造がさらに見つかれば、初期宇宙の銀河がどれほど早く円盤を整え、中心部へガスを運び、バルジや中心ブラックホールを成長させたのかを知る手掛かり付なるであろう。GN20の発見は、その第一歩といえる。