国立天文台は4月7日、アルマ望遠鏡を用いた観測により、地球から約1300光年の距離にある星形成領域「オリオン座B分子雲」の深くに埋もれた若い原始星「HOPS 358」から噴き出す風が、原始星を取り巻く「原始星円盤」で発生した磁気的な力によって駆動されている証拠を発見したと発表した。

同成果は、ソウル国立大学のChul-Hwan Kim大学院生、同・Jeong-Eun Lee教授らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

星は、星間ガスや星間塵からなる分子雲が重力で濃縮した「分子雲コア」の中で誕生する。生まれたての星の周囲には、外層から降り積もる物質を受け止める「原始星円盤」が存在しており、円盤内の物質が降着することで星はさらに成長していく仕組みだ。

しかし、物質の降着が進むためには、円盤は角運動量を捨てる必要があるが、その具体的なメカニズムは星形成研究における長年の大きな謎であり、研究者の間でも意見が分かれていた。そこで研究チームは今回、アルマ望遠鏡の超高解像度観測を用いて、エンベローブ(外層)の奥深くに位置する非常に若い原始星「HOPS 358」を詳しく分析したという。

HOPS 358が属するオリオン座B分子雲は、有名な「馬頭星雲」などを含む星形成領域である。同星は、ガスの奥深くに埋もれた「クラス0」と呼ばれる極めて若い天体であり、巨大なエンベローブから円盤へ、そして円盤から星へと、盛んに物質が降着している最中にある。惑星が誕生する「原始惑星系円盤」は、原始星がクラス2に成長した段階、星の質量成長がほぼ終わり、エンベローブが晴れた段階で星の周囲に存在する円盤である。

今回の研究ではまず、HOPS 358近傍のガスを追跡するため、複数の分子種でガスの動きが観測された。その結果、流出するガス流「アウトフロー」が、円盤の回転と同じ方向に回転しているという重要な兆候が示されたとした。もしアウトフローが、衝撃波やジェットとの相互作用によるものであれば、円盤の回転方向は反映されない。つまり今回発見された運動は、回転円盤から直接放出されたガスが「円盤風」となって流れ出していることが示唆された格好だ。

さらに、アウトフローが多層構造を持つことも明らかにされた。一酸化硫黄はアウトフローの中心軸付近に集中し、メタノールは中間層、ホルムアルデヒドは外側に広がった層を捉えており、これらは幅広い円盤半径から円盤風が吹き上がっているとする理論モデルとよく一致するとした。

  • HOPS 358周囲のガス分布

    HOPS 358周囲のガス分布。一酸化炭素(13CO)は回転円盤を、メタノール(CH3OH)、一酸化硫黄(SO)、ホルムアルデヒド(H2CO)は円盤風として放出されたアウトフローの異なる層を捉えている。オレンジ色の実線はアウトフローの中心軸、灰色の等高線は星周円盤の塵を示す。青は地球に近づく場合、赤は遠ざかる場合の速度構造を表しており、アウトフローと円盤が同じ方向に回転している様子がわかる。(c)Kim et al.,ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

最近では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡も、若い恒星からの層状のアウトフローを捉えているが、アウトフローが回転しているのか、円盤本体と連動しているのかを特定するには至っていなかった。精密に運動を測定できるアルマ望遠鏡の高い周波数分解能があってこそ、物理的発生源を特定する力学的証拠を得ることができたとしている。

次に、アウトフローの性質を詳細に調べるため、「磁気レバーアームパラメータ」という指標の分析が行われた。回転する円盤に固定された磁力線は、回転レバーのように作用して、ガスを加速させて外側に弾き飛ばす。このパラメータは、磁場が円盤の角運動量を抜き出す効率を定量的に表すものであり、アウトフローの駆動主因が磁場である場合、その値は1を超えると予想された。

分析の結果、HOPS 358における同パラメータは約2.3と算出され、磁場がガスを放出する場合のしきい値を十分超えていた。これにより、アウトフローが磁気的に駆動された円盤風によって駆動されていることの強い証拠が得られたとした。

  • HOPS 385周囲の構造の模式図

    HOPS 385周囲の構造の模式図。異なる分子の観測により、星周円盤と円盤から噴き出したガス風の層構造が表されている。分子ごとに異なる空間分布が観測されたことで、円盤風の構造と物理状態を調べる重要な手掛かりが得られたとした。(c)Kim et al.,ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)

また、将来的に惑星が形成される領域に当たる、円盤半径10~18天文単位の領域からも円盤風が噴き出していることが示された。ここは、後に原始惑星系円盤へと進化する領域の一部である。つまり、この領域からの円盤風の存在は、惑星形成の場となる環境を形作る最初期の段階より、円盤風が極めて重要な役割を果たしていることを示唆するものとした。

今回の成果は、原始星周囲の円盤から角運動量を抜き取り、物質の降着を可能にしているのが、磁気駆動の円盤風であることを明らかにした。この円盤風が星の成長や惑星形成の初期条件を決定づけるなど、円盤進化に多大な影響を及ぼしていることも示唆されたとしている。