宇宙航空研究開発機構(JAXA)は6月5日、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用いて「原始惑星系円盤」を観測し、2020年1月に運用を終了した米国航空宇宙局(NASA)の赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」(SST)による過去の観測結果と比較した結果、地球のような岩石惑星の基本材料の1つである「シリケイト(ケイ酸塩)鉱物」の中間赤外線スペクトルに有意な変化が確認され、数年スケールという短期間で円盤構造が変化している可能性が示唆されたと発表した。
同成果は、東京大学 大学院理学系研究科 天文学専攻/JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 宇宙物理学研究系の鮫島直人大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立天文学会が刊行する旗艦論文誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」に掲載された。
近年の赤外線観測や電波による観測から、若い星の周囲には惑星の誕生現場であるガスと塵(ダスト)の円盤構造「原始惑星系円盤」が多数確認されている。地球の主要な構成成分の1つであり、岩石や砂の主成分でもあるシリケイトは、ケイ素と酸素からなる鉱物だ。円盤内で、ダストがどのような鉱物で構成され、いかに進化していくのかを解明することは、地球型岩石惑星の形成過程を理解する上で重要な手がかりになると考えられている。
そこで研究チームは今回、JWSTを用いて、おおかみ座の星形成領域に位置する若い星「Sz 96」と、おうし座の星形成領域にある若い星「IP Tau」の原始惑星系円盤を中間赤外線で観測。過去のSSTによる観測データとの比較検証を行ったという。
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JWSTとSSTによる「Sz 96」(左)および「IP Tau」(右)の観測データ。横軸は光の波長、縦軸は光の波長ごとの強度とJWST/SSTの強度比を示す。Sz 96では非晶質シリケイトのフィーチャーが卓越する10μm付近が、SSTからJWSTの観測にかけて減光しているが、結晶質フィーチャーが見られる20μm付近では顕著な変化は確認されなかった。IP Tauでは中間赤外線スペクトル全体が明るくなり、特に10μm付近の非晶質フィーチャーで強い増光が見られる。出典:Sameshima et al.(2026)をもとに作成(出所:ISAS Webサイト)
今回の観測では、シリケイト鉱物が特定の赤外線波長を吸収・放射する際に生じる、放射の「ピーク」(波形の頂点)や「ディップ」(波形の谷底)が捉えられた。双方のデータを比較した結果、SSTとJWSTで観測された中間赤外線スペクトル(シリケイト放射のプロット)が全体的に変化していることが確認されたとした。
次に、このスペクトル変化におけるシリケイト鉱物の放射成分に着目して詳細な解析が実施された。その結果、円盤表層に存在する鉱物の温度や存在量、結晶化度などが変化した可能性が浮上したという。これは、天文学的な時間スケールでは極めて短時間である、わずか数年という期間で円盤構造が変動している可能性を示唆するものとする。
また、両天体共に結晶質シリケイトが、非晶質シリケイトよりも低温であることが判明。従来の理論では、結晶質シリケイトは主星に近い円盤内縁の高温環境で加熱されて形成されると考えられている。このため、高温の内側で生成された結晶質ダストが、円盤外層のより低温な領域へと外向輸送された可能性が推測された。つまり、円盤内では物質の活発に移動や再配置が起きている可能性があることが、今回明らかにされた形だ。
このような動的輸送の描像は、過去のSSTによる観測からも推測されていたという。しかし、極めて高い波長分解能を有するJWSTの投入により、結晶質シリケイトに特有のスペクトルフィーチャーをこれまで以上に明瞭に識別することが可能となった。これにより、結晶質ダストの存在やその温度が非晶質ダストと異なっている実体が、より高精度に捉えられるに至ったとする。
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原始惑星系円盤のイメージ。中心星の周囲に広がるダスト主体の原始惑星系円盤において、外側の低温領域に結晶質シリケイトが多く存在する様子が描かれている。出典:ChatGPTを用いて作成(出所:ISAS Webサイト)
今回の成果は、原始惑星系円盤内でダストが単に停滞しているだけでなく、内側で生成されて外側へ運ばれ、周囲の環境に応じて変化を遂げている可能性を示す重要な知見となった。惑星の材料となるダストの進化プロセスを解明する上で、極めて意義深い結果としている。今後は、より多数の原始惑星系円盤を対象に中間赤外線観測によるシリケイト鉱物の特性調査を進めることで、その空間分布などの統計的な理解が進むことが期待されるとした。
さらに将来的には、日本も参画を検討しているNASAの次世代遠赤外線観測ミッション「PRIMA計画」が実現すれば、より低温の円盤領域に存在する結晶化シリケイトの特徴を多数の原始惑星系円盤で検出できる可能性が高まる。これにより、今回の研究で浮き彫りとなったシリケイト鉱物の時間変化や空間分布の変化について、より統計的な理解が進むことが期待されるとしている。