米TIMEはこの夏、Webページに生成AIやAIエージェントが読み取りやすいマークダウン(Markdown)版を用意し始めました。通常のWeb記事からデザインや画像などを取り除き、記事内容をテキスト中心の構造に整えた、いわば「AI向けのTIME」です。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。

興味深いのは、TIMEがこのAI向けページを新たな広告媒体に転用し始めた点です。広告テクノロジー企業のMobianと組み、AIエージェントに読ませる「Agent Ads」も開始しました。広告はFAQ形式で構成され、広告主がAIに伝えたいブランド情報やメッセージを記載し、「Sponsored Content」と明示した上でMarkdownページに組み込みます。

  • テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏 第69回

    TIMEの同じ記事の人間向けページ(左)と、AIクローラーやAIエージェント向けマークダウン版ページ

つまり、人間ではなくAIに読ませることを前提とした広告です。ChatGPTやPerplexityなどにつながるクローラーやエージェントにスポンサー情報を取得させ、それが将来、AIによる検索回答や商品の比較、推薦などに反映されることを狙っています。

Googleの「GEOはSEOの延長」という立場

TIMEの動きは、Googleが5月に公開した生成AI時代の検索最適化に関する公式ガイドと、一見すると逆方向に見えます。

Googleによれば、Google検索のAI Overviews(AIによる概要)やAIモードは、既存の検索インデックスとランキング、品質評価システムを基盤にしています。そのため、生成AIによる検索回答に対しても従来のSEO(検索エンジン最適化)が引き続き有効としています。

さらに同社は、llms.txtなどのAI専用ファイルや特別なマークアップ、マークダウンを用意する必要はないと明記しています。AI向けに文章を書き換える必要もありません。

Googleの立場を一言で表すなら、「GEO(生成エンジン最適化)もGoogle検索ではSEOの延長」ということです。

それでもTIMEは、AIを意識した別のレイヤーをWeb上に作り、その上に広告市場まで作ろうとしています。

記事は読まれる、でも読者は来ない

背景にあるのは、技術的な必然性というより、パブリッシャーが置かれた苦しい状況です。

Googleが検索にAI OverviewsやAIモードを導入したことで、検索結果ページ上で疑問が解決し、サイトを訪れる必要のない「ゼロクリック」の増加が加速しました。Similarwebの2026年のデータでは、Google検索の68%がWebサイトへのクリックなしで終了しています。

パブリッシャーへの影響をより直接的に示すのがChartbeatのデータです。過去2年間で従来型検索からの流入は、小規模パブリッシャーで60%、中規模で47%、大規模でも22%減少しました。

一方、2024年12月から2025年12月にかけてChatGPTからの流入は200%以上増えましたが、AIチャットボット全体からの送客は、依然としてパブリッシャーへの参照PVの1%未満です。

従来のWeb検索では、検索サービスとパブリッシャーの間に、「記事をクロールさせる代わりに、検索サービスが読者を送り込む」という暗黙の交条件がありました。パブリッシャーは訪れた読者に広告を表示したり、有料会員に勧誘したりすることで、記事を収益に変えられました。

ところがAI検索では、記事を利用されても、それに見合うだけの読者を得られません。マネタイズにつながりにくいという問題が生じています。

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    記事の消費が読者につながらない非対称性は、Cloudflareが観測した「クロール対送客」の比率にも表れています。2025年に同社が観測した主要AIクローラーでは、1件の送客に対して118回のクロールから、約5万回に達するケースまでありました

AIボットを「広告在庫」に変える

TIMEの取り組みは、こうした状況を打破するための実験的な試みです。同社COO(最高執行責任者)のマーク・ハワード氏は、ボットからのアクセスを「成長するトラフィック源」であると同時に、新たな「広告在庫」になり得ると述べています。

TIMEでは、多くの日でボットによるアクセスが人間を上回るといいます。従来なら収益につながりにくかったAIクローラーを、広告情報を届ける新しい接点に変える--それがAgent Adsの発想です。

TIMEがAI向けページで作ろうとしているのは、Google検索とは別に、OpenAI(ChatGPT)やPerplexityといった他のAI事業者と直接つながる経路でもあります。一方で、GEOに対するGoogleの見解を否定するものではありません。Google検索に対しては従来のWebページが存在し、引き続きSEOに基づいた最適化を行います。

検索においてこれまでのようなGoogle一強が今後も続くかは不透明です。TIMEの動きは「Google離れ」というより、Googleに頼り切っていた従来の事業モデルに対する危機感の表れと呼べるものといえます。

Agent Adsは本当に広告として成立するのか

もちろん、現時点ではAgent Adsが広告としてどれほど有効なのかは実証されていません。AI向けのマークダウン形式の記事に広告を組み込めば、対応するAIクローラーが広告を取得します。現時点で確かなのはここまでです。

それによってブランドがAIの回答に登場しやすくなるのか、商品比較で選ばれやすくなるのか、まして消費者の購買行動を変えられるのかは分かっていません。

さらに、広告を受け取るAI側が今後どのようなルールを設けるかも未知数です。

Googleは、検索順位を操作してユーザーを欺く意図で、検索エンジンと人間に異なるコンテンツを提示する行為を「クローキング」として禁止しています。OpenAIもChatGPT内で提供する広告について「回答の独立性」を明記しています。

現時点で、Agent AdsがGoogleのクローキング規定に違反すると判断できる根拠はありません。他のAI事業者についても、「Sponsored Content」と記されたFAQを有用なブランド情報として参照するのか、それともプロモーション情報としてフラグを立てるのか、今後の対応がどうなるかはわかりません。

いずれにせよ、検索サービス側の側のポリシーや情報評価の仕組みが変われば、Agent Adsの価値も大きく変わります。ハワード氏自身も、この取り組みについて「新しすぎて、まだ分からない」という趣旨の発言をしています。

Googleへの技術的反論ではなく、ビジネスからのカウンター

TIMEの動きを「GEO不要論」との技術的な対立で捉えると、本質を見誤ります。

TIMEが問いかけているのは「人間がサイトに来なくても、読まれたコンテンツをどう収益につなげるか」というビジネスモデルの問題です。Agent Adsは、「それなら記事を取りに来るAIそのものを広告の受け手にしてしまえばいい」という逆転の発想の試みです。

しかし、Agent Adsを成功させること自体が最終目的ではありません。AIクローラーを「新しい読者」に変えるというのは、AIに広告を見せてクリックしてもらうという意味ではありません。AIを人間への情報伝達を仲介する「新しい広告接点」として位置づけるということです。マークダウン記事に広告を埋め込む仕組みは、その最初の実験にすぎません。

これまで人は、気になった記事を読んだり、目的に合った記事を検索して情報を集めたりしてきました。しかし今では、AIに問いかけ、複数の情報を集約した回答だけで情報収集を済ませる場面が増えています。

人間がWebサイトへ直接アクセスする前にAIが情報を探し、選び、要約するのであれば、広告もまた、その「間」に入り込もうとするでしょう。なぜなら、コンテンツの需要はあり、その需要に対して供給を継続していくには、そこから収益を上げていく方法をパブリッシャーは見出さなければならないからです。

TIMEの試みが新しい広告の標準になるのか、一時的な実験で終わるのかはまだ分かりません。それでも、AIによって揺らぎ始めた「コンテンツとマネタイズの循環」を、パブリッシャー自身が作り直そうと行動を起こしています。

AI時代のコンテンツ消費は本当に持続可能なものになるのでしょうか? - TIMEの試みが興味深いのは、まさにその点にあります。