8月11日早朝に打ち上げられたH3ロケット9号機は正常に飛行し、準天頂衛星システム「みちびき7号機」は所定の軌道に投入された。8号機の打ち上げ失敗以来、H3ロケットの打ち上げ成功は2機連続。成功率はこれで約77.8%に向上した。本記事では、11日7時半より開催された記者会見の内容などについてお伝えしたい。
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H3ロケットは前回の6号機で飛行再開を果たしたとはいえ、8号機の失敗の後、主衛星として実用衛星を搭載するのは、今回が初。しかも、6号機は30形態だったので、22形態としてのフライトは、失敗した8号機以来だった。そういう意味で、飛行再開フライト(RTF)並みの重みがあった、といえるかもしれない。
記者会見において、JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャが「打ち上げ前にこんなに胃が痛いのは初めてだった。それくらい緊張していて、衛星分離後、握手のために立ち上がろうとしたが、脚に力が入らなかった」と述べたのは、印象的だった。
今回の打ち上げでは、奇しくも、失敗した8号機と同じみちびきシリーズの衛星を搭載していた。今度はしっかり宇宙に届けられたということで、有田プロマネは「実運用再開の狼煙を上げることができた。多くの顧客を待たせてしまっていたが、これで安心してH3ロケットに乗ってもらえる」と胸を張った。
今回、打ち上げの約29分4秒後に衛星を分離しているのだが、それまでの各シーケンスの計画値からの誤差は、最大でもわずか3秒。衛星の軌道への投入精度も、非常に良かったという。
H3ロケットは、衛星搭載アダプタ(PSS)の問題により、8号機の打ち上げに失敗。6号機では従来のものを補修して使っており、今回から、ファスナ結合方式による新型PSSを採用していた。歪みデータの分析などはまだこれからということだが、有田プロマネは「まずは合格点」と評価した。
ファスナ結合方式は、H-IIAロケットでも採用していた実績のある手法だったが、低コスト化・軽量化のために、H3ではスプライス接着方式という、新しい手法を初めてロケットに導入していた。今後、当面はファスナ結合方式を採用することが決まっているが、最終的にどうするかは未定だ。
有田プロマネは、「スプライス接着方式にはコスト・軽さでメリットがあり、ファスナ結合方式には品質の安定性に強みがある」とした上で、今後については、「このどちらかを選ぶのか、あるいはさらに良いものをめざすことができるのかを検討していきたい」とし、第三の選択肢もあることを示唆した。
たくさん穴を開ける必要があるファスナ結合方式に比べ、スプライス接着方式はシンプルな手法であるが、「いろいろ気を遣わないといけないところがあり、思ったより工数がかかっていた」という。そのため、必ずしもスプライス接着方式が優位とも言えず、新たな工法を探す可能性も十分あるだろう。
なお、記者会見後の囲み取材では、LE-9エンジンの開発状況についての言及もあった。LE-9は液体水素ターボポンプ(FTP)の振動の問題が完全に解決できておらず、これまでは暫定型であるタイプ1Aを使ってきたが、完成型といえるタイプ2の燃焼試験が3月から行われており、7月末、最後の8回目が無事に完了したという。
エンジンにとっては厳しい作動点での燃焼も行われたが、ほぼ無傷で完遂。懸念だった振動現象は全く発生せず、性能(比推力)も目標を上回る形で確定できそうとのことだ。これでタイプ2は設計が確定する見込みで、実際にH3のフライトで使う時期については、「なるべく早く。来年度(2027年度)あたりをめざしたい」とした。
みちびき7機体制はいつ実現? 再配置で1機足りない影響をカバー
今回、みちびき7号機の打ち上げに成功したことで、軌道上のみちびき衛星は、これで6機となった。当初の計画だと、みちびき単独での測位が可能になる7機体制がこれで完成するはずだったが、H3ロケット8号機の打ち上げ失敗により、みちびき5号機が喪失。当面は、6機体制での運用が続くことになる。
この1機足りない状況によって大きな影響を受けるのは、みちびきのみで測位する場合の精度だ。7機体制では、日本の全域が高精度の青色の領域でカバーされているが(下図左)、現状の6機体制だと、それが九州南側まで南下し、北海道などは精度が悪いオレンジ色になってしまっていることが分かる(下図中央)。
ただ、実際にはみちびきのみを利用するケースはあまりないと思われるので、これがすぐ大きな問題になるということはないものの、この精度を改善させるため、衛星の再配置が検討中。現在、準天頂軌道の衛星は3機で、8の字の位置がギュッと近いが、初号機後継機を西側に、2号機を東側に移動させるという(上図右)。
移動は、初号機後継機が2027年1月下旬、2号機が2026年10月下旬より開始する予定。静止衛星と同様に考えてもらえると分かりやすいが、軌道の高度を少し下げると、衛星は地球の自転より少し速く回転するようになるので、徐々に東側に移動する。止めたいところで軌道を上げて元の高度に戻せば、8の字の移動はそこで止まる。
軌道面を変えるわけではないので、推進剤はそれほど消費しない。スラスタを噴射するのは、軌道高度を上げ下げするときだけだ。この衛星の再配置によって、衛星の寿命が短くなるようなことはないとのこと。なお移動は半年ほどかけて行う予定だが、その間もサービスは継続することが可能だ。
しかし気になるのは、7機体制の実現がいつになるのか、ということだろう。みちびきはすでに、次の11機体制をめざし、3号機後継機と8号機の開発に着手していた。失われた5号機の代替機をこれから開発するのは時間がかかるため、同じ準天頂軌道の衛星である8号機を5号機の位置に入れることが検討されているという。
2025年末に改訂された宇宙基本計画工程表では、2031年度にこの2機の打ち上げを計画。そのときは、3号機後継機を先に打ち上げる予定だったが、順番を入れ替え、8号機を先にすることを検討しているそうだ。ただ開発を前倒しすることは難しく、7機体制が実現されるのは、この2031年度となる見込みだ。
5号機の喪失で痛感することになったのは、バックアップの重要性だ。7機体制は必要最低限の機数であり、故障等で1機でも失われると、今回のように、みちびき単独での測位はできなくなる。そこで、次のフェーズとして考えられているのが、東西に準天頂衛星を4機追加する11機体制の構築だ。
前述の8号機は、この追加分の1機となる計画だった。11機体制の完成がいつになるかはまだ決まっていないものの、記者会見に出席した内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の岸本統久企画官によれば、「できれば今後10年くらいでできるよう調整を進めている」とのことだ。








