中国軍は7月6日正午、原子力潜水艦から模擬弾頭を搭載した戦略ミサイル1発を太平洋に向けて発射する実験を行った。中国軍が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を公表するのは異例だ。
中国国防省から事前通知を受けた日本政府は深刻な懸念を伝達し、安全確保に向けた再考を強く求めたが、これには地域の軍事バランスや地政学的な対立構造が深く関わっている。
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ミサイル発射のねらいを整理する
中国側の第一の狙いは、米国に対する軍事的な牽制だ。
SLBMは、地上配備型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に比べて隠密性が極めて高く、万が一自国が先制核攻撃を受けた場合でも、報復攻撃を行う能力を担保する要となる兵器である。今回の太平洋への実験により、中国海軍の戦略原潜が米本土やその同盟国を確実に射程に収め、なおかつ実戦に耐えうる運用能力を保持していることを対外的に明示した。これは、米国が主導する対中包囲網や、日米同盟を基軸とした抑止力構築の動きに対抗し、戦略的な対等性を確保するための明確なシグナルである。
第二の狙いは、第一列島線を越えた公海域、すなわち第二列島線や太平洋における接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略の進展を誇示することにある。
従来の中国軍の主たる活動領域は東シナ海や南シナ海といった近海が中心であったが、近年は西太平洋への進出を常態化させている。今回の発射は、有事の際、米軍の増援部隊などの介入を拒絶する能力が太平洋の深部まで及んでいることを知らしめる地政学的メッセージである。
さらに、中国側が関係国に事前通報を行い「国際法と国際慣例に合致している」と強調した点からは、自らの軍事行動を大国としての正当な権利として既成事実化し、地域における新たな安全保障のルール形成を主導しようとする意図も透けて見える。これは、既存の国際秩序に対する現状変更への意志を示すものとも捉えられる。
第三の狙いとして、米国やその同盟国が構築しているミサイル防衛(MD)網に対する突破能力の誇示が挙げられる。
中国は、米国がアジア太平洋地域で展開する早期警戒システムや迎撃ミサイル網を無力化できる技術的成熟度を証明することで、自国の核戦力の有効性を担保しようとしている。これにより、米国の核の傘に対する信頼性に揺さぶりをかけ、日米韓などの緊密な安全保障協力をけん制する狙いがある。
最後に、日本国内の防衛政策に対する強力なけん制と、国内向けの政治的演出という意味合いも含まれる。
日本政府が進める防衛力の抜本的強化や、日米豪印(クアッド)といった多国間連携の枠組みに対し、中国は強い警戒感を示してきた。今回の実験をあえて事前通知し、その後の日本の出方や連携の密度を見極めることで、日本に対して軍事的圧力と心理的揺さぶりを同時にかける狙いがあったと考えられる。
また、国内に向けては、習近平指導部が掲げる「強軍の夢」の実現に向けた成果としてアピールし、政権の求心力を高める内政上の効果も内包している。ロシア海軍との合同演習の開始と時期を同じくしている点も、ユーラシア東部における独自の安全保障拠点を誇示する多角的な演出の一環と言える。