近年、食品分野において3Dプリント技術を応用し、食品素材をペースト状にして任意の立体構造に造形する技術「フードプリンティング」が進展している。複数の食品素材を組み合わせられる点に加え、形状や内部構造を細かく設計できることなどから、新しい食品製造技術として注目を集めている。

そうした中、大阪大学(阪大)と月桂冠は、米粉ペーストに麹菌(Aspergillus oryzae)を混合した「バイオインク」を3Dプリンタで造形し、構造の違いによって麹菌の代謝活性を調節できることを解明。あわせて、「3Dプリント麹」を用いた小規模な清酒醸造でアルコール分13%台まで発酵生産が進むことを確認したと、9月29日に共同発表した。

  • (左から順に)3Dプリント麹(発酵前)、3Dプリント麹(発酵後)、清酒もろみ、完成した清酒 (出所:阪大Webサイト)

    (左から順に)3Dプリント麹(発酵前)、3Dプリント麹(発酵後)、清酒もろみ、完成した清酒 (出所:阪大Webサイト)

同成果は、阪大大学院 基礎工学研究科の野口まや大学院生、同・境慎司教授、阪大大学院 工学研究科の酒井香奈江寄附講座准教授、月桂冠 総合研究所の共同研究チームによるもの。詳細は、9月15〜17日に北海道大学 札幌キャンパスで開催された「第78回日本生物工学会大会」にて発表された。

麹菌の新たな培養方法開発へ、3Dプリント技術活用

麹菌は、清酒や、日本の伝統的な発酵食品である味噌やしょうゆなどの製造に欠かせない微生物だ。麹菌は穀物原料を培地として生育する過程でアミラーゼやプロテアーゼなどの酵素を生産し、デンプンやタンパク質を糖やアミノ酸へと分解する。

麹菌はそのまま使われるのではなく、穀物などに生育させた「麹」として利用される。清酒造りで用いられるのは、蒸した米粒の表面や内部で麹菌を生育させた「米麹」だ。米麹に含まれる酵素が米のデンプンを糖に分解し、その糖を酵母が発酵させてアルコールへと変える仕組みである。

しかし、米粒を利用するため、従来の米麹は形状や内部構造を自由に設計することが困難だった。そこで研究チームは今回、フードプリンティング技術を利用して麹の造形構造を設計し、麹菌の生育や代謝を制御する新しい培養方法の開発を目指すことにした。

今回の研究成果

今回の研究では、まず阪大にて、米粉、水および麹菌を混合したペーストをバイオインクとして用い、押出式3Dプリンタによって網目状の構造体を造形し、それを培養することで「3Dプリント麹」が作製された。培養後の構造体では麹菌が良好に生育しており、3Dプリンタによる造形工程を経ても、麹菌の生育能力が維持されることが確認された。

また、造形する構造を変更することで、麹菌が生成するグルコースやグルタミン酸の量が変化することが示された。これは、造形構造の違いによって麹菌が生育できる表面積や通気性、熱の放散、水分の蒸発などの培養環境が変化したためと考えられるとしている。

次に、月桂冠にて、得られた3Dプリント麹を用いた小規模な清酒醸造試験が行われた。その結果、アルコール分13%台まで発酵生産が進むことが確認されたほか、香気成分には通常の清酒との違いも見られたという。

これらの実験結果から、3Dプリントによって麹の構造を制御することで、通常の米麹とは異なる代謝が麹菌に誘導されている可能性が見出された。今後、麹の形状や空隙といった構造パラメータと、麹菌が生産する酵素・代謝物との関係性を詳細に分析することで、麹菌の機能を目的に応じてデザイン・制御できる可能性が示唆された。これにより、実際の清酒生産への応用も期待されるという。

また、清酒の糖やアミノ酸の組成を自由に調節するだけでなく、麹菌による新たな物質変換や、従来とは異なる香味成分・機能性成分の生産も見込まれている。今回の技術を発展させることで、これまでにない酒質を持つ清酒の開発や、新たな発酵食品・食品素材の創出につながることが期待されるとしている。