北海道大学(北大)、京都大学、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の3者は7月23日、米国航空宇宙局(NASA)の探査機「OSIRIS-REx」(現・OSIRIS-APEX)が小惑星「ベヌー」から採取した試料の中から、太陽系最初期に形成された岩石状物質「難揮発性包有物」を複数発見したと共同で発表した。
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ベヌー試料から発見された難揮発性包有物の例。(左)のものは、太陽系誕生直後の約45億6730万年前の形成と判明した。画像は、マグネシウム(赤)-カルシウム(緑)-アルミニウム(青)の合成X線元素マップ。スケールバーは0.01mm。(c) Kawasaki et al. 2026(出所:北大プレスリリースPDF)
同成果は、北大大学院 理学研究院の川﨑教行准教授、同・大学 総合イノベーション創発機構の坂本直哉准教授、京大 白眉センターの松本徹特定助教、JAMSTEC 数理科学・先端技術研究開発センターの荒川創太研究員らを中心とする国際共同研究チームによるもの。詳細は、英総合学術誌「Nature」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Nature Communications」に掲載された。
リュウグウ試料との天体材料の共通性も示唆
小惑星ベヌーとリュウグウは、水を含む鉱物や有機物に富む炭素質(C型)小惑星の仲間である(リュウグウがC型、ベヌーはその派生型のB型)。両小惑星は、太陽系初期の姿を留めていると考えられており、水や有機物の起源、さらには惑星形成過程を理解する上で重要な天体だ。地球へ持ち帰られた両小惑星の試料の比較研究から、両者の現在の主要な構成物質は、母天体内部で氷が溶けて生じた水溶液との反応で形成された鉱物であることが判明してきている。
一方、両小惑星を形成した最初期の固体物質、つまり水溶液との反応を受ける前の原材料物質については不明な点が多い。これまでの研究から、両小惑星は共に太陽系外縁(木星や土星よりもさらに外側の領域)のより冷たい領域で形成されたことが示唆されているものの、その形成材料が太陽系のどこで集積したのかは未解明だった。
研究チームはこれまでの研究で、リュウグウ試料から発見された難揮発性包有物の年代測定を実施し、同小惑星に太陽系誕生直後の原材料物質が含まれることを確認していた。同包有物には、カルシウムやアルミニウムに富むCAIや、高温で形成されたかんらん石などからなるAOA(アメーバ状かんらん石集合体)などがある。これらは、初期太陽系の高温領域で生じた岩石状物質であり、太陽系最古の固体物質の1つだ。そのため、これを調べることは、小惑星の原材料物質の形成時期や輸送経路、集積領域などを知る重要な手がかりになる。
しかし、ベヌー試料に含まれる難揮発性包有物の特徴や、リュウグウとの共通性などは不明だった。そこで今回の研究では、ベヌー試料中の同包有物を探索し、その特徴と形成年代を調べることで、両小惑星における原材料物質の共通性および集積領域の解明を目指したという。
両小惑星は太陽系外縁で形成されたとされるが、難揮発性包有物はそれとは矛盾し、太陽に近い初期太陽系の高温領域で形成された岩石状物質である。これは、材料の一部が太陽近傍で形成された後、太陽系円盤内を移動して太陽系外縁まで輸送されたことを意味する。
今回の研究では、まず電子顕微鏡などを用いてベヌー試料中の鉱物の形態や化学組成が詳細に調べられ、難揮発性包有物の探索が行われた。その結果、9個の同包有物が発見され、続いて北大の同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)を用いた酸素同位体組成の分析が実施された。同位体顕微鏡は、微小鉱物の同位体組成を高い空間分解能で調べられる装置であり、微小領域の分析や年代測定を可能にする。
さらに、そのうちの1個については、アルミニウム-マグネシウム放射年代測定法を用いて形成年代が調べられた。同手法は、アルミニウムの放射性同位体「26Al」が、半減期約70万年でマグネシウムの安定同位体「26Mg」に壊変することを利用した測定法だ。約46億年前の太陽系最初期に形成された物質であっても、その年代を精密に決定できる手法である。
分析の結果、9個の難揮発性包有物は太陽系最初期に形成された物質に特有の性質を持つことが確認された。また、年代測定により、太陽系誕生直後の約45億6730万年前(±10万年)に形成されたことが突き止められた。つまり、ベヌーにも太陽系最初期の原材料物質が含まれていることが示されたのである。
今回発見されたベヌーの難揮発性包有物はいずれも小さく、サイズは0.1mm以下だった。この特徴は、リュウグウ試料や同型の「イヴナ型炭素質隕石」から見つかっている同包有物と極めて類似しているという。イヴナ型炭素質隕石は、水や有機物に富み、化学組成が太陽と近いことから、太陽系を構成した平均的な材料を保持する代表的な隕石とされる。
一方、他の多くの炭素質隕石では、より大型(約0.1~10mm、またはそれ以上)の難揮発性包有物が発見されている。したがって、ベヌーとリュウグウは、大型の同包有物に乏しく、小型のものを主体とする共通の特徴を持つことが明らかにされた。
こうしたサイズの違いは、初期太陽系における固体物質の輸送や選別過程を反映していることが考えられるという。大型の難揮発性包有物は、初期太陽系のガス円盤内を移動する過程で、原始木星付近に形成された、局所的なガスの高圧領域「圧力バンプ」にせき止められた可能性がある。それに対し、小型の同包有物は円盤全体に拡散し、その一部が両小惑星それぞれの母天体に取り込まれたと推測される。今回の結果は、両小惑星が太陽系外縁で共通の材料から形成されたことを示唆するものとした。
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ベヌーとリュウグウそれぞれの母天体の集積領域を示す模式図。大型の難揮発性包有物は、ガス円盤内を移動中に原始木星付近の圧力バンプにせき止められた可能性がある。一方で、小型の同包有物は円盤全体に拡散し、その一部が両小惑星の各母天体に取り込まれたと考えられる。これは、両小惑星が太陽系外縁部で共通材料から形成されたことを示唆する。CCは炭素質コンドライト(炭素質隕石)、OCは普通コンドライト、イヴナ型はイヴナ型炭素質隕石を示す。(出所:北大プレスリリースPDF)
今後は、原材料物質にとどまらず、ベヌーとリュウグウそれぞれの母天体自体の形成時期を解明し、両者の形成史を比較することが重要になるという。これにより、水や有機物に富む小惑星の起源と進化の包括的な理解が進むことが期待されるとしている。