近年、皮膚などの生体組織に密着させて生体信号を計測するウェアラブルデバイスの研究が進展している。しかし、生体への装着負荷を減らし、日常的かつ高精度にモニタリングするためには、個々の電子素子の極薄化・柔軟化に加え、それらを破損させることなく高密度に配線・集積する実装技術が欠かせない。
そうした中で理化学研究所(理研)は、熱や圧力を加えることなく接合でき、500%以上の伸縮性と高い通気性を併せ持つナノスケールの「異方性導電フィルム」(ACF)の開発に成功したことを、9月19日に発表した。
同成果は、理研 創発物性科学研究センター(CEMS) 創発ソフトシステム研究チームのイ・ソンフン研究員(理研 開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 研究員/東京大学大学院 工学系研究科 特定客員准教授兼任)、同・染谷隆夫チームディレクター(理研 開拓研究所 染谷薄膜素子研究室 主任研究員/東大大学院 工学系研究科 教授兼任)、同・片山俊平大学院生リサーチ・アソシエイト(早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻大学院生兼任)、同・茂原知輝研修生(早大大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻大学院生兼任)、CEMS 物質評価支援チームの橋爪大輔チームディレクター、同・井ノ上大嗣専門技術員、早大大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻の梅津信二郎教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米総合学術誌「Science」系の旗艦オープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
ウェアラブル機器向け異方性導電フィルムが抱えるさまざまな課題
ウェアラブルデバイスにおいて、電子素子同士を接続するのに、樹脂中に導電性粒子を分散させたACFを用いる手法が広く普及している。また、近年はエラストマー素材などを用いて伸縮性を付与したACFの開発も進められている。しかし、従来のACFは数μm以上の厚みを持つものが多く、接合部の剛性増加によってデバイス本来の柔軟性が損なわれる点が課題となっていた。
加えて、接合時に熱や圧力、紫外線の照射を要するため、刺激に弱い生体組織や超薄型デバイスへ損傷を与えるリスクもあった。さらに、厚みのあるフィルムは通気性が低く、皮膚貼付時に汗が蒸れてかぶれの原因となるなど、生体適合性の観点でも課題を抱えていた。
そこで研究チームは今回、これらの課題を一挙に解決する新たなACFの開発を試みることにした。
今回の研究成果
今回開発された伸縮/通気性に富むACF(伸縮/通気ACF)の作製は、まず金属ナノワイヤの一種である「銀ナノワイヤ」をスプレー塗布し、規則的な円盤状パターンを形成することから始まる。その上からエラストマーである「スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体」(SEBS)を含浸・成膜することで、膜厚約300nmという極薄のACFが作製された。
SEBSの塗布濃度を最適化することで、銀ナノワイヤの一部がフィルム表面に適度に露出し、厚み方向のみに導通しつつ面内方向の絶縁性を保つ異方導電構造が実現された。さらに、銀ナノワイヤの円盤構造がフィルムの伸びに追従して変形するため、500%を超える引張ひずみを加えても破損しないことが確認された。
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伸縮/通気ACFの作製プロセスと引張時の構造変化。(a)伸縮/通気ACFの作製プロセス。金属ナノワイヤの円盤中にエラストマーを含浸させて作製された。(b)伸縮/通気ACFの引張時の様子。500%引張時にも、複合構造がフィルムの変形に追従する (出所:理研Webサイト)
また、エタノールの揮発を利用した大気中・常温・無加圧で接合できる技術を適用することで、電極フィルム同士を隙間なく接合させることにも成功。接合後も高い柔軟性が維持されるため、曲率半径500μmの波状曲面やヒトの皮膚のような微細な凹凸面にも密着することが確かめられた。さらに、通気性の指標である水蒸気透過率は、一般的な皮膚貼付用医療フィルムを上回る1,200g/m2/dayが達成された。
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接合プロセスと高い生体適合性。伸縮/通気ACFは接合対象の柔軟性や通気性を損なわない。(a)エタノールの揮発を利用した接合技術のプロセス(左)。接合した電極フィルムの断面走査電子顕微鏡像(右)。(b)接合した電極フィルムを500μmの曲率半径を持つ表面に載せ、高い密着性を示した様子。なお、パリレンは高分子材料の一種で、化学気相堆積法によって良質で均一な薄膜が形成可能。生体適合性に優れるため、多様な生体・医療用途に応用されている。(c)伸縮/通気ACFの水蒸気透過性グラフ。医療用フィルムより高い透過率を示している (出所:理研Webサイト)
電気的特性の評価では、500%以上の引張ひずみを加えた状態や1,000回の繰り返し伸縮後においても、厚み方向の電気抵抗の変化はわずかであり、高い導通安定性が確認された。合わせて、200μm間隔の電極間における絶縁性も維持されることが明らかにされた。
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伸縮に強い電気的特性。伸縮/通気ACFは、伸縮によっても導電特性を損なわず200μmの配線間隔においても絶縁性を維持する。(a)引張時の厚み方向の電気抵抗グラフ(左)。1000回の伸縮サイクル後の厚み方向の電気抵抗グラフ(右)。(b)200μmの配線間隔を設けて配線フィルムを接合した様子(左)。配線フィルム間に電圧を印加した際の電流特性グラフ(右) (出所:理研Webサイト)
最後に、伸縮/通気ACFの有用性実証が行われた。配線ピッチ500μmの伸縮配線基板上に発光素子を実装したところ、基板全体を500%引き伸ばした状態でも断線や短絡を起こさず、安定した発光が維持されたという。また、伸縮/通気ACFを用いて伸縮配線同士を手首の皮膚上で実装した際も、手首の運動下で正常に動作することが確かめられた。
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伸縮環境での低負荷接合実証。伸縮/通気ACFは伸縮環境での接合時にも安定した導電性と絶縁性を維持し、手首皮膚上での接合が実現された。(a)伸縮/通気ACFにより、伸縮配線フィルム上に発光素子を接合した模式図と実際のサンプル(左)。接合サンプルを伸縮させた様子(右)。(b)手首の皮膚上で伸縮配線フィルム同士を接合した様子(左)。接合したサンプルを手首の皮膚上で伸縮させた様子。引張時にも発光が維持されている(右) (出所:理研Webサイト)
今回の実装技術により、皮膚などの複雑かつ繊細な生体表面に対し、超薄型センサなどの電子部品を直接集積・配線することが可能になるという。従来の剛直で通気性のない接合部による負荷やかぶれを解消し、日常生活下で違和感なく生体データを連続取得できる次世代のウェアラブルデバイスや、大きなひずみ下でも破損しないソフトロボットの回路実装に寄与する成果だという。
研究チームは今後、金属ナノワイヤの自己組織化技術の導入などによる配線パターンの高密度化・微細化を進めるとともに、導電材料やエラストマーの改良を通じて生体親和性および耐環境性のさらなる向上を図る考えだ。医療・ヘルスケア分野における長期モニタリングシステムをはじめ、人工皮膚や生体埋め込み型医療デバイスなど、柔軟な生体とエレクトロニクスがシームレスに融合した先進デバイスへの幅広い応用展開が期待されるとしている。
