Spotifyは9月23日、米国のPremiumユーザーを対象に「Taste Profile(リスニング趣向)」のベータ提供を開始しました。3月のSXSWで発表され、ニュージーランドで先行テストされていた機能です。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。

Spotifyがユーザーの好みをどう解釈しているのか、概要を表示し、それに対してユーザーは自然言語でレコメンドを調整できます。たとえば「90年代のオルタナティブ・ロックをもっと増やして」「朝は気分が上がる音楽を聴きたい」「このジャンルにはもう飽きた」と伝えると、その内容がおすすめに反映されます。

一見すると、ユーザーがレコメンドを修正するための機能、勘ぐった見方をすると、Spotifyのアルゴリズムに不満を持つユーザーへの対策にも見えます。

しかし、実際に使ってみた印象は違いました。これはレコメンドを否定するものではなく、むしろSpotifyの最大の強みをさらに伸ばしてくれます。同時に、近年のメディア消費の中心となった機械学習によるレコメンドが、生成AIによってもう一段進化する可能性を感じました。

  • テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏 第74回

    「Taste Profile」はモバイルアプリで、プロフィールからアクセスします

「探す」負担を肩代わりしたSpotify

では、Spotifyの強みとは何でしょうか。

音楽は長い間、レコードやCDを買って所有するものでした。iPodとiTunes Storeで流通がオンラインに移っても、「選んで買う」という消費行動は変わりませんでした。

2006年にはMicrosoftが携帯音楽プレーヤー「Zune」と数百万曲を聴き放題のサブスクサービス「Zune Pass」で音楽市場の再定義に挑みましたが、iPodの牙城は崩せませんでした。聴き放題のサブスクには一定の魅力はあったものの、当時「所有する」習慣は変えるには不十分でした。

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    Microsoftが2006~2011年に北米で販売していた携帯音楽プレーヤー「Zune」

奇しくも同じ2006年に、ストックホルムでSpotifyが設立されました。同社の大きな転機となったのが、2014年のThe Echo Nest買収です。MITメディアラボ出身の研究者が立ち上げた音楽インテリジェンス企業で、楽曲そのものの特徴やWeb上の音楽情報などを分析し、音楽サービス向けに推薦技術を提供していました。

Spotifyは、その技術を再生履歴データと組み合わせ、2015年に毎週30曲のパーソナライズしたプレイリストを届ける「Discover Weekly」を開始しました。これが大ヒットし、成長に一気に弾みがつきました。

背景にあったのは、カタログの巨大化が招いた「選択のパラドックス」です。AppleがiPodとiTunes Storeでオンライン配信を普及させ、私たちはCDショップの棚とは比較にならないほど多くの音楽にアクセスできるようになりました。

それ自体は素晴らしいことですが、選択肢が増えれば、「その中から何を聴けばよいのか」という新たな負担が生まれました。音楽誌やチャートを丹念にチェックして新しいアーティストを発掘することを楽しむ人がいる一方で、そこに時間や労力を使いたくない人も少なくありません。

Spotifyは、この「探す」という作業のかなりの部分を引き受けました。履歴や時間帯、ワークアウトや仕事といった生活のコンテクストに合わせて、聴きたいであろう音楽を先回りして並べておく。アプリを立ち上げるだけで好みの音がすぐそこにある仕組みを整えたのです。

この受け身のリスニングを魅力的な体験に変えたことこそが、Spotifyが広く受け入れられた最大の理由でした。そしてこの波によって、音楽は「買って所有する」時代から「サブスクで楽しむ」時代へと本格的に移行していきました。

行動履歴を分析するアルゴリズムには分からない「なぜ」

そう考えると、「Taste Profile」には一見、矛盾があります。

音楽を探したり選んだりする負担を減らしたことがSpotifyの強みなら、なぜ今になってユーザー自身におすすめを調整させるのでしょうか。

実際に使ってみて分かったのは、Taste Profileが音楽探しの負担をユーザーに戻すものではなく、これまでのレコメンドが苦手としていた部分を補う仕組みだということです。

従来のレコメンドは、ユーザーの行動を観察して好みを推測してきました。ある曲を最後まで聴いた。何度も再生した。プレイリストに保存した。逆に、すぐスキップした。そうした無数のシグナルを蓄積し、「この人はこういう音楽が好きなのだろう」と判断します。

しかし、行動データから理由までは正確に突き止められません。

子供のために何度もかけたアニメの曲を、本人が好きだとは限りません。寝るときに流していた睡眠用のサウンドも、音楽の好みを表しているわけではありません。以前は好きだった音楽に飽きることもあれば、聴いたことのないジャンルに突然興味を持つこともあります。

アルゴリズムは「これまで何をしてきたか」を見るのは得意です。しかし、「なぜそうしたのか」「これから何をしたいのか」までは、行動履歴だけでは完全には分かりません。

「Taste Profile」は、そこを言葉で補います。

これまでも「ロック」「1990年代」といった条件で絞り込むことはできました。しかし、人間の意図はいつもそのように整理されているわけではありません。「仕事に集中したいけれど、静かすぎない音楽」「昔好きだった音楽も聴きたいが、同じアーティストばかりは避けたい」といった曖昧な要望を、従来のフィルターで設定するのは困難です。

対話型AIの普及で、この部分の体験の改善が可能になりました。ユーザーは普段使っている言葉のまま、要望を伝えたり、自分の好みを説明したりできます。アルゴリズムがユーザーの意図を推測するだけでなく、ユーザーからもアルゴリズムに働きかけられるようになったのです。

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    「Taste Profile」で、Spotifyがユーザーの好みをどのように解釈しているか確認。さらに自然な言葉で要望を伝えることでレコメンドを調整できます。カスタマイズはメモとして残され、いつでも修正・削除できます

アルゴリズムとユーザーの新しい関係

興味深いのは、同じタイミングでYouTubeにも似た動きが出てきていることです。

YouTubeは2026年の「Made on YouTube」で、新しい「Custom Feeds」を発表しました。ホーム画面から自然言語で希望を入力すると、その内容に合った専用のフィードを作れる機能で、米国でUS英語設定のユーザーから提供を開始します。

たとえば「仕事の後にリラックスできる10分以内のガイド付き瞑想」と入力すれば、それに合わせた動画が並びます。プロンプトを書き換えれば、表示内容も調整できます。

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    YouTubeの「Custom Feeds」

SpotifyのTaste Profileがホーム全体のレコメンドを微調整する機能であるのに対し、YouTubeのCustom Feedsはメインのアルゴリズムには手を加えず、特定の要望に沿った別のフィードを生成します。

アプローチは異なりますが、ユーザーがコンテンツを一つひとつ選ぶのではなく、「どういうものを選んでほしいか」を言葉で伝える点は共通しています。

これまでもレコメンドを変えることはできました。ただしそのためには、違うコンテンツを検索し、再生やスキップを繰り返して新しい行動履歴を積み上げ、アルゴリズムの理解が変わるのを待つ必要がありました。ユーザーは行動によって、アルゴリズムを育てなければならなかったのです。

これからは、その一部を言葉で修正できます。

SpotifyやYouTubeが始めているのは、ユーザーが「すべて自分で選ぶ」時代に戻す試みではありません。何を選ぶかは引き続きアルゴリズムに任せる。ただし、「どう選んでほしいか」については、必要なときに人間が意図を言葉で手渡せるようにする。ユーザーの側からアルゴリズムに働きかけやすくすることで、コンテンツ消費の体験を向上させる試みです。

「選ぶ」から「選んでもらう」へと進んだデジタルコンテンツの消費は、生成AIによって、人間が「ディレクションする」という新しい段階に入り始めています。Taste Profileを触って見えてきたのは、単なる機能の便利さではなく、アルゴリズムとの主導権のバランスの変化でした。