北海道大学(北大)は7月17日、南極の氷床から採取された6種類の炭素質隕石から、地球生命の設計図であるDNAおよびRNAを構成する全5種類の核酸塩基(シトシン、ウラシル、チミン、アデニン、グアニン)を検出することに成功したと発表した。

  • 南極産炭素質隕石から地球生命に必須の核酸塩基全5種類を抽出

    今回の分析により、南極産炭素質隕石から地球生命に必須の核酸塩基全5種類が抽出された。(出所:北大プレスリリースPDF)

同成果は、北大 低温科学研究所の大場康弘准教授、東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 地球惑星物質科学講座の古川善博教授、海洋研究開発機構 物質地球科学研究部門の高野淑識上席研究員/部門長らの共同研究チームによるもの。詳細は、隕石などの宇宙物質を含む地球化学および宇宙化学を扱う論文誌「Geochimica et Cosmochimica Acta」に掲載された。

南極で見つかった隕石からDNAやRNAの構成要素を発見

小惑星リュウグウやベンヌのサンプルリターン試料からは、地球生命に必須の全5種類の核酸塩基が検出されている。これらは地球への回収後も一切曝露しないよう厳重に管理されており、その状態で検出されたということは、核酸塩基が宇宙空間に豊富に存在することを示唆する結果となった。

炭素質小惑星からのサンプルリターンが実現する以前は、地上で入手可能な宇宙由来の物質は隕石に限られていた。炭素質隕石(炭素質小惑星の破片)に含まれる核酸塩基に関する研究は半世紀の歴史を持つが、5種類すべての核酸塩基が検出された例は極めて限定的だった。従来の分析精度が不十分だったことに加え、最大の問題は地球産の有機物による汚染の可能性を否定できない点にあった。汚染がないと証明できない限り、検出された有機物が隕石本来のものか断定できないためである。

  • DNAとRNAに使われる5種類の核酸塩基の構造式

    地球生命の設計図であるDNAとRNAに使われる5種類の核酸塩基の構造式。(出所:北大プレスリリースPDF)

研究チームはこれまでの研究で、リュウグウやベンヌの試料から全5種類の核酸塩基の検出に成功していた。そこで今回の研究では、その際に確立した最新の分析技術を駆使し、地球由来の有機物汚染の可能性が最も低いと考えられる地域の1つである南極で回収された炭素質隕石から、核酸塩基の検出を試みることにしたという。

日本の南極地域観測隊は、長年にわたり現地で隕石採取を行っており、国立極地研究所は1万7000点以上に及ぶ世界最大級の隕石コレクションを所有している。今回は、同研究所から分配された6種の南極産炭素質隕石(Yamato(Y)-791198、Y-793321、Y-002540、Asuka(A)-881828、A-12236、Belgica(B)-7904)の試料に対する分析が行われた。

粉末化した各試料を50~100mgを20%濃塩酸とともに110℃で12時間加熱し、抽出液を試料から分離した後、そこから金属イオンを除去し、溶存する核酸塩基類の分析が液体クロマトグラフ-超高分解能質量分析計を用いて行われた。

また、環境ブランク対照試料として、1989年に南極あすか基地近くのセールロンダーネ山地裸氷域(表面に積雪のない氷床)で採取され、現在まで北大 低温科学研究所で保管されてきた氷床コア試料224gを溶解・濃縮し、同様の操作で核酸塩基の有無が検証された。

  • 分析が行われた6種類の南極産炭素質隕石と対照試料の南極氷床試料

    今回分析が行われた6種類の南極産炭素質隕石と、対照試料の南極氷床試料。(出所:北大プレスリリースPDF)

分析の結果、6種の南極産炭素質隕石のうちY-791198、A-881828、A-12236から、5種すべての核酸塩基を含む最大で43種類の窒素複素環化合物が検出された。同様の化合物は、ベンヌの試料で38種類、リュウグウの試料で14種類が検出されている。

南極産隕石から全5種の核酸塩基が同定されたのは、今回が世界初の成果となる。一方、対照用の氷床試料からは核酸塩基などは検出されなかった。この事実は、隕石が落下して発見されるまでの期間(約10万年間と推定されている)、氷との接触で隕石中に地球起源の核酸塩基などの有機物が混入しなかったことを実証するものだ。他地域で回収された隕石では土壌からの汚染が危惧されていたが、南極氷床の隕石試料においてはその懸念が払拭された形だ。

検出された5種の核酸塩基の中で、シトシンの存在量が他の分子に比べて著しく少ないことも今回の研究では確認された。これは、リュウグウやベンヌの試料における存在比と大きく異なる。その理由として、隕石が南極に落下してからの二次的な化学反応(脱アミノ化)によって、シトシンがウラシルへと変化したことが挙げられた。これは、各隕石中でウラシルが極めて豊富である点と整合する。長期間の地球環境滞在に伴う組成変化の解明は、今後の隕石中核酸塩基分析結果の理解に大きく貢献できるとした。

サンプルリターンで回収できる試料は量が限られており、多様な分析を行うには十分とはいえない。一方、南極ではこれまでに日本だけでも約1万7400個もの隕石を回収しており、その中に今回用いられたような炭素質隕石も数%含まれる。これらの標本や将来発見される可能性がある炭素質隕石から地球外固有の有機物を分析することで、宇宙における太陽系初期の化学反応や、生命誕生以前の地球に供給された有機化合物の役割など、数々の謎が解明されていく可能性があるとする。

また今回の成果は、リュウグウやベンヌの試料の分析結果と共に、今後の宇宙航空研究開発機構(JAXA)主導による火星衛星探査計画「MMX」や月探査・アルテミス計画などを通して回収される地球外試料に含まれる核酸塩基群の化学指標性、氷(水)やレゴリスの初生的情報を解析する物質計測法として極めて重要としている。