理化学研究所(理研)は7月21日、2023年10月5日に米国パロマー山天文台群の1つ「ツビッキー突発天体観測施設」で可視光により観測したIbn型超新星「SN 2023uqf」が、前日に南極のニュートリノ観測装置「IceCube(アイスキューブ)」で同じしし座の方向から飛来したことが検出された高エネルギーニュートリノ事象「IC-231004A」の発生源となり得るのかを検証した結果、発生源と断定はできなかったものの、Ibn型超新星が天然の巨大粒子加速器「ペバトロン」候補となりえる可能性が示されたと発表した。

同成果は、理研 数理創造研究センター 数理基礎部門の澤田涼 基礎科学特別研究員、京都大学大学院 理学研究科の井上裕介大学院生、東北大学大学院理学研究科の芦田洋輔助教の共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

可視光とニュートリノで探られた“ペバトロン”候補

宇宙線の正体はその大半が陽子やアルファ粒子などの荷電粒子であり、宇宙空間の磁場でコースを曲げられてしまうため、発生源を突き止めることは極めて困難だ。その一方で、発生源からほぼ一直線に地球まで飛来する粒子も存在する。電荷を持たないことから磁場の影響を一切受けず、他の物質との相互作用も極めて稀にしか起こさず、極めて軽量な素粒子ニュートリノだ。光の速度に近い高エネルギーニュートリノこそが、宇宙線の発生源を探る有力な手掛かりになると考えられている。

近年では、超新星となった星が事前に周囲に放出したガスに対し、爆発時の衝撃波が衝突することで、粒子をペタ電子ボルトという極めて高エネルギーにまで加速する可能性があるとして、超新星がペバトロンの候補として注目されている。

そうした中で研究チームが注目したのが、2023年10月4日にIceCubeが検出したニュートリノ事象「IC-231004A」と、その翌日にツビッキー突発天体観測施設がしし座の方向の推定距離約24億光年の彼方で可視光観測したIbn型超新星「SN 2023uqf」だった。ニュートリノの飛来方向と超新星が同一方向であること、観測時刻も近いことから、同超新星が同ニュートリノ事象の発生源の可能性が考えられた。そこで今回の研究では、同超新星の光の変化から爆発環境を推定し、それが高エネルギーニュートリノを生成し得るのかどうかを検証したという。

超新星には複数のタイプが存在するが、太陽質量の8倍以上の大質量星による重力崩壊型の一種に、「水素の線が見られず、ヘリウムの線が強く検出される」というIb型が存在する。さらに、スペクトル中に狭い線幅のヘリウム放出線が観測されるサブタイプがIbn型だ。

まず、SN 2023uqfの可視光観測を再現するため、一次元放射流体シミュレーションが行われた。同シミュレーションは、爆発時の衝撃波の運動と、そこから放たれる光を同時に計算する手法だ。その結果、同超新星の明るく急速に変化する光度曲線は、爆発した星の周囲に高密度のヘリウムを多く含むガスが存在し、衝撃波がそれと衝突した場合に説明できることが示された。このモデルから、衝撃波の半径や速度、衝撃波が通過するガスの密度が時間ごとに求められた。

次に、得られた衝撃波の情報を用いて、粒子加速とニュートリノ生成が計算された。衝撃波がガス中を進んでいくと、ある時点から高エネルギー粒子を効率的に加速できる状態になる。計算の結果、SN 2023uqfでは爆発後の短期間に、ペタ電子ボルト級の粒子加速と効率的なニュートリノ生成が同時に起こり得ることが確認された。

さらに、理論モデルが予測したニュートリノ量に、IceCubeの検出効率を組み込み、実際に何件ほど検出されるのかが計算された。その結果、SN 2023uqfの距離では、同装置でニュートリノが検出されるのは多くても約1万回に1回であり、非常に稀であることが明らかにされた。そのため、今回の研究ではIC-231004Aと同超新星の関連を統計的に確立することはできなかったとした。

一方で、仮にSN 2023uqfから1件のニュートリノを検出できたと仮定した場合、その検出されやすい時期は、IC-231004Aの観測時刻と重なっていた。また、同ニュートリノ事象のエネルギーも、理論モデルが予測するエネルギー範囲と整合的だった。これにより、同超新星の可視光観測から推定される爆発環境が、同ニュートリノ事象の時刻とエネルギーを説明し得ることが示された。

今回の研究の重要な点は、単に超新星とニュートリノが天球面上の同一方向からほぼ同時期に観測されたという一致だけでなく、可視光観測から推定した衝撃波の物理状態を使って、高エネルギーニュートリノを生み出せるかが検証された点にあるという。これにより、超新星を高エネルギーニュートリノ源として調べるための、観測と理論をつなぐ方法が示されたとする。

今回はIbn型超新星がペバトロンの候補となり得る可能性について、個別の天体を用いて具体的に検証が行われた。今後、同様の超新星をより多く調べることで、どのような爆発環境が高エネルギーニュートリノを生成しやすいのかを統計的に解明できる可能性があるとした。特に、爆発直後の可視光観測に加え、X線、電波、ニュートリノを組み合わせたマルチメッセンジャー観測が重要だという。これにより、超新星の衝撃波がいつ粒子加速を始め、どの程度のエネルギーまで加速できるのかを、より厳密に調べられるとした。

将来的には、IceCubeに加え、地中海の深海に建設中の「KM3NeT」や、ロシアのバイカル湖深部に設置され拡張が進められている「Baikal-GVD」など、高エネルギーニュートリノ検出を目的とした大規模ニュートリノ観測装置、さらに超新星をはじめとする突発天体の大規模なサーベイ観測を組み合わせることで、超新星と高エネルギーニュートリノの関係をより体系的に検証できることが期待されるとしている。