国立天文台(NAOJ)は6月15日、小マゼラン雲に存在するX線連星「SMC X-1」を構成する中性子星はこれまで、質量が理論予想の下限に迫る太陽の約1.1倍と推定されていたが、それが誤っている可能性があったことから、複数の観測データを組み合わせて詳細に解析した結果、実際には一般的な中性子星と同程度の質量だったことを明らかにしたと発表した。
同成果は、NAOJ 科学研究部の庭野聖史研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する英文論文誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
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SMC X-1の可視光変動メカニズムの模式図。伴星が中性子星の重力によって涙滴型に変形したまま公転することで、1周期ごとに2つの山を持つ光度曲線が生じる。加えて、歳差運動する降着円盤が伴星表面へのX線照射パターンを変えることで、X線の長周期変動と連動して光度曲線の形状が変化することが示された。(出所:NAOJ 科学研究部Webサイト)
太陽の約8倍以上の質量を持つ大質量星では、核融合によって最終的に中心に鉄のコアが形成される。その質量が太陽の約1.4倍に相当する「チャンドラ・セカール限界」を超えると、コアは自らの重力によって急激に崩壊する。崩壊したコアは原子核並みの高密度に至り、「中性子縮退圧」などによってそれ以上の圧縮が抑制される。この際に生じる衝撃波とニュートリノの作用によって超新星爆発が起こり、その後には中性子星が残る仕組みだ。
中性子星は太陽の1~2倍程度の質量を持ちながら、直径は20km前後しかない超高密度のコンパクト天体であり、ブラックホールに次ぐ強大な重力を持つ。中性子星同士が合体して限界質量を超えるとブラックホールへと崩壊することは知られているが、逆にどこまで軽い中性子星が存在し得るのかはまだ解明されていない。しかし、下限質量を特定することは、超新星爆発の仕組みや中性子星の形成過程を理解する上で重要な手掛かりとなる。
質量が確認されている中性子星のうち、理論的に予想される質量の下限に迫る天体として注目されているのが、小マゼラン雲に存在するX線連星「SMC X-1」を構成する中性子星だ。これまでその質量は、太陽の約1.1倍と推定されていた。中性子星の質量は、連星をなす伴星が重力によってどのように運動しているかを調べることで推定することが可能だ。しかしSMC X-1では、中性子星から放射される非常に強いX線が伴星を照らしている影響により、質量推定に偏りが生じている可能性があった。
そこで研究チームは今回、米国航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」による高精度の可視光観測と、理化学研究所や宇宙航空研究開発機構(JAXA)がISSの「きぼう」日本実験棟で運用するX線観測装置「MAXI」の観測データを組み合わせ、SMC X-1の詳細な解析を行ったという。
解析の結果、SMC X-1の可視光における明るさの変化が、同X線連星の約40~60日周期で繰り返されるX線変動と密接に関係していることが突き止められた。この現象を説明するため、研究チームは、歳差運動する降着円盤が伴星へのX線照射パターンを変化させるモデルを構築。同モデルは、観測された可視光とX線の変動を同時に再現することに成功し、SMC X-1の長周期変動が降着円盤の歳差運動によって生じていることを支持する結果が得られたとした。
さらなる解析の結果、強いX線照射によって伴星の明るさ分布が大きく偏り、その影響で伴星の運動速度が実際よりも約20%小さく測定されている可能性が示された。この効果を補正すると、中性子星の質量は従来の太陽質量の約1.1倍ではなく約1.35倍となり、一般的な中性子星と同程度になることが明らかにされた。
今回の成果は、SMC X-1が「極端に軽い中性子星」であるという従来の見方を見直す可能性を示すと同時に、X線連星における質量測定の精度向上に新たな道筋を与えるものだという。また、中性子星形成の起源や超新星爆発の理解にも重要な手掛かりを提供することが期待されるとしている。