テラスカイは10月2日、年次カンファレンス「TerraSky Day 2026」を開催した。基調講演では代表取締役 CEO 社長執行役員の佐藤秀哉氏が登壇し、「AIインテグレーター」への進化を掲げる同社の戦略と、量子技術への取り組みを紹介した。
AIと量子コンピューターを成長戦略の中核に
今年のカンファレンスは「さぁ、ともにAI・量子ワールドへ!」をサブテーマとし、昨年の「さぁ、AI・量子のフロンティアへ」から、一歩進んだ形だ。佐藤氏は「クラウド、DXを経て現在はAIと量子コンピューティングが重要なテーマになっている」と説明した。
AI分野では新たな技術やサービスが日々登場しており、その変化を追い続けることは専門家にとっても容易ではないと指摘。その中でもロボティクスなどに代表されるフィジカルAIの発展に期待を示すとともに、テラスカイとしては「AIとの共創」を重要テーマに据えて取り組みを進めていると述べた。
量子コンピューティングについては、2028年頃にエラー耐性を備えたFTQC(Fault-Tolerant Quantum Computing)が実現し、2030年頃には商用利用が本格化するとの見方を示す一方で、現時点では光方式や超伝導方式などさまざまな方式が並立しており、どの技術が主流になるかはまだ見通せないという。そのうえで同社は量子アルゴリズムの研究や社会課題解決に向けたソリューション開発に取り組んでいく考えだ。
また、同氏はテラスカイグループが約1800人規模へと成長し、グループ会社3社が上場していることを紹介。今年で創業20周年を迎えたことに触れながら、2027年2月期の売上高は前年度比22.4%増の343億円の達成を目指している。
AIインテグレーター戦略を支える“3+1”
佐藤氏は昨年からAI Readyを掲げ、AI活用に向けた取り組みを進めている。同氏は「AIインテグレーターになっていかなければならない」と強調し、その戦略として“3+1戦略”を推進している。
第1の柱として挙げたのが、AIを活用した業務変革のコンサルティング事業だ。佐藤氏は、単なる提案にとどまらず、構想策定からシステム実装、運用まで一貫して支援する伴走型サービスが強みだという。
AI導入においては、Human in the Loop(HITL)が重要だとの見方を示し「人がAIをどう使うかではなく、AIが仕事を行う前提で、人間がどこに介在するのかを定義する必要がある」と述べ、AI時代には業務プロセス全体の見直しが求められるとの認識を示した。
また、第2の柱としてデータ基盤整備を挙げた。同社ではこれをAI Readyと位置付けており、佐藤氏は「AIは正しいデータがなければ正しい結果を出せない」と説明。社内外に散在するデータを整理し、時系列を含めて適切に参照できる基盤を構築することで、AI活用の効果を最大化できるとした。現在、この分野への顧客ニーズは大きく高まっているという。
「mitoco Buddy」と「Headless ERP」で目指す未来の働き方
第3の柱として掲げるのが、自社プロダクト・アセットの提供だ。テラスカイではグループウェアやERP、会計システムなどを展開する「mitoco」シリーズを提供しており、そのAIエージェントとして「mitoco Buddy」を提供。将来的にはAIが業務システムを直接操作する「Headless ERP」の実現も見据えている。この取り組みについて、テラスカイ 取締役 専務執行役員 製品事業ユニット長の山田誠氏が説明した。
山田氏はまず、mitoco Buddyの概要を紹介した。同氏によると、開発の大きな契機となったのがAnthropicが提唱したMCP(Model Context Protocol)だという。ChatGPTやClaude、GeminiなどLLM(大規模言語モデル)の進化が加速する中、同氏は「どのモデルが最適かは日々変化している」と見解を示す。
特定のモデルに依存しないマルチLLM戦略を採用し、SalesforceやMicrosoft 365、Google Workspace、SAPなどさまざまな業務システムと連携できる環境を構築したと説明。mitoco Buddyは、単なるチャットボットではなく、企業内の業務システムやデータを横断的に活用するAIエージェントとして設計されている。
例えば、営業担当者が顧客名を入力すれば、Salesforceなどの情報をベースに売上状況や活動履歴、顧客との関係性などを即座に把握できるという。山田氏は「人を支援するAIから人の代わりに働くAI」への転換が進んでいると述べている。最近では見積書や契約書、請求処理などの定型業務をエージェントに任せるケースが増えており、今後は利用シーンがさらに広がるとのことだ。
そのうえで、同氏が強調したのがHeadless ERPという構想だ。従来のERPは人がログインし、画面を操作することが前提だった。一方、Headless ERPERPではAIが業務システムに直接アクセスし、人は自然言語で指示を出すだけになるという。
具体例として、複数人の会議日程調整を挙げた。AIが参加者の予定や前後のスケジュールを考慮しながら最適な会議時間を提示するほか、会計システムと連携して月次業績や財務情報を瞬時に可視化するといった利用を想定している。
さらに同社は、対面会議やオンライン会議でリアルタイム翻訳を実現する「Lingo」などを紹介。山田氏は「従来のERPは人間が使うものだった。しかしこれからはAIがERPを使う時代になる」と述べ、人とAIが協調して働く新たな業務環境の実現に意欲を示していた。
AI駆動開発基盤「BLADE」を正式リリースへ
3+1戦略の最後の「+1」として、ここで再び佐藤氏にスピーカーが移り、AI駆動開発基盤「BLADE(ブレード)」を紹介した。これまで説明してきた3つの柱が、AIを活用して顧客の業務変革を支援するものだったのに対し、BLADEはシステム開発そのものをAIで変革する取り組みだ。
同氏によると「2025年以降、生成AIによるコード生成の精度向上により、SI業界は大きな転換点を迎えている」と話す。一方で、Salesforce開発において単純なコード生成だけでは十分ではなく、プラットフォーム固有のデータ構造やガバナ制限(利用制限)、設計ルールなどを理解したうえで、AIを活用することが重要になると説明した。
こうした課題に対応するため、同社は6月にBLADEを発表。20年以上にわたって蓄積してきたSalesforce開発のノウハウを、プロンプトライブラリやRAG(検索拡張生成)ベースのナレッジとして組み込み、設計書やテスト計画書の作成、コード生成などを支援する仕組みを構築した。
また、ユーザー企業独自の開発ルールや業務知識を組み込むことで、それぞれの環境に最適化されたAI駆動開発基盤を構築できるとしている。BLADEでは、設計書やテスト計画書の作成など用途別のAIエージェント群「BLADE SAYA」も提供し、開発工程ごとの作業自動化を支援するという。
佐藤氏は「BLADEを活用した実証プロジェクトでは、開発期間の短縮や品質向上といった成果が得られている。さらに、システムとドキュメントを常に同期させられるため、内部監査やシステムガバナンス強化にも効果が期待できる」と力を込めていた。
同社は11月1日にBLADEを正式リリースする予定で、AI活用だけでなくAI駆動開発の領域でも顧客支援を強化していく考えだ。
量子コンピューター実用化を見据え産業活用を推進
量子分野については、テラスカイグループで量子アルゴリズムや量子ソフトウェアの開発を手がける、Quemix 取締役 COO 副社長執行役員の中土井利行氏が説明。同氏は、Quemixが2019年に設立された量子技術の専門企業であり「科学技術を通じて人類の未来と幸福に貢献する」ことを理念として事業を展開していると紹介した。
量子技術への注目が高まる背景については、量子コンピュータの実用化が現実味を帯びてきたことがあり、業界ではエラー訂正機能を備えたFTQCの実現に向けた開発が進んでおり、2030年前後には実用レベルの量子コンピュータが登場すると見込まれている。
そのうえで同氏は、量子コンピュータが期待される理由について「従来のコンピュータ(古典コンピュータ)では、扱う問題の規模が大きくなるほど計算時間も増加する。一方で量子コンピュータは量子力学の原理を利用した計算技術であり、問題によっては従来のコンピュータでは現実的な時間内に解けなかった計算を実行できる可能性がある」と説明した。
ただし、中土井氏は「量子コンピュータがあれば全ての計算が速くなるわけではない」とも強調。量子コンピュータには得意・不得意があり、現状で特に有望視されている用途として、シミュレーションや組み合わせ最適化を挙げている。
なかでも理論的な優位性が最も期待されているのがシミュレーション分野だという。例えば、半導体材料や電子材料の開発では、原子レベルでの振る舞いを把握する必要がある。また、創薬分野では、タンパク質と化合物の相互作用を解析する計算が求められる。さらに工場設備の設計や熱解析、気象予測などもシミュレーション技術が活用される代表的な領域だ。
同氏は、こうした産業分野において量子コンピュータが計算能力を大きく向上させる可能性があるという。Quemixでは、量子アルゴリズムや独自の特許技術を活用しながら、材料開発や製造業向け設計技術の高度化を目指している。企業が持つ製品やサービスの競争力向上に向けて、量子技術を活用した共同研究を進めている。
現在はホンダや三井金属、SCSKなどと連携して研究開発を進めているほか、金融機関との資本提携も実施しているという。
同氏は、量子技術は依然として中長期的な取り組みが必要な分野だとしながらも「実用化が目前に迫った量子コンピュータ時代に向けて、産業活用を見据えた研究開発を進めていく」と語っていた。









