国立天文台、東北大学、福井工業大学(福井工大)の3者は6月17日、南極に設置されたニュートリノ検出器「IceCube(アイスキューブ)」が検出した高エネルギーニュートリノ事象に対し、アルマ望遠鏡を含めた複数の望遠鏡による追跡観測を実施した結果、重力レンズ効果により極めて明るく輝く約110億年前の宇宙に存在する星形成銀河を発見し、「Shadow Blaster(シャドウ・ブラスター)」と愛称をつけたことを共同で発表した。

  • 今回の研究成果の概念図

    今回の研究成果の概念図。宇宙ニュートリノ事象「IC 210922A」の飛来方向に、爆発的な星形成銀河「Shadow Blaster」が発見された。中央の丸はその想像図で、右下の挿図が実際に捉えられた電波画像。ニュートリノの起源である初期宇宙に存在するShadow Blasterが、重力レンズ効果によって4つの明るくなった像として観測されている。(c)MITOS(出所:国立天文台Webサイト)

同成果は、MITOS Science CO., LTD./台湾・国立中央大学の浦田裕次主任研究員、台湾・中原大学のハング・クイユン副教授、東北大 学際科学フロンティア研究所の木村成生准教授、福井工大 工学部の宮本祐介教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文論文誌「Nature Astronomy」に掲載された。

ニュートリノは、現在確認されている中で最も物質に対する高い透過性を持つ素粒子だ。宇宙のさまざまな場所、たとえば太陽や超新星爆発などで生成されている。その誕生プロセスによってエネルギーが異なり、稀にだが極めて高いエネルギーのニュートリノが地球に届くことがある。たとえば、IceCubeが世界時2021年9月22日に観測した事象「IC 210922A」は、カミオカンデで検出された超新星1987Aからのニュートリノのエネルギーと比べると、数千万倍も高いエネルギーに相当する。

しかし、高エネルギーニュートリノの起源の特定は容易ではない。これまで、いくつかの活動銀河がニュートリノ放射源として特定されてはいるが、宇宙全体から届くニュートリノの総量を説明するには天体の数が完全に不足しており、未発見の主要な供給源がどこかに存在していると考えられている。

現在より約100億~110億年前の「宇宙の正午」と呼ばれる時代は、宇宙の歴史において銀河が最も激しく星を生み出していた。こうした銀河ではニュートリノの材料となる宇宙線が大量に生成されており、理論的には、これらの銀河が宇宙全体から届く高エネルギーニュートリノの主役である可能性が高いと予測されていた。

しかし、宇宙論的に極めて遠方に存在し、分厚い塵に隠された銀河において、個別のニュートリノ事象と結びつける観測的な証拠を得ることは、これまでは極めて困難なことだった。そこで研究チームは今回、複数の観測機器を用いて、IC 210922A事象の到来方向に存在する対応天体を探索したという。

今回の観測では、まずジェイムズ・クラーク・マクスウェル電波望遠鏡やサブミリ波干渉計を用いた追跡観測が実施された。その結果、対応するサブミリ波天体として「JCMT0402-0424」が発見された。さらに、米国航空宇宙局(NASA)の複数の波長を捉えられるガンマ線バースト観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト衛星」を用いた追跡観測も実施された。

同衛星に搭載されているX線望遠鏡と「バースト警戒望遠鏡」を用いて実施された追跡観測並びに長期モニタリングでは、IC 210922Aに付随する明確な対応天体は発見されなかったという。同衛星は、長年にわたりガンマ線バーストやジェットを伴う潮汐破壊などの高エネルギーの変動現象に関する成果を上げてきた宇宙望遠鏡だ。このことから、この“発見されなかった”という結果によって、IceCubeで絞り込まれた領域から高エネルギーの電磁波を放射する天体の存在を除外できたとする。

続いて、史上最高性能の電波望遠鏡であるアルマ望遠鏡を用いた追跡観測が実施された。その結果、手前にある楕円銀河が引き起こす「重力レンズ効果」により、弧状にゆがめられ、複数に分裂した天体JCMT0402-0424の姿が観測された。

JCMT0402-0424は、約110億年前の宇宙に位置する極めて明るい銀河だ。通常、これほど強力なエネルギー源としてまず考えられるのは、超大質量ブラックホールの活動や、潮汐破壊現象のような高エネルギー突発現象だ。実際、これまでにニュートリノ放射との関連が報告・議論されてきた天体には、活動銀河核を持つ銀河や潮汐破壊現象が含まれる。それに対して今回の天体では、ブラックホール活動や高エネルギー突発現象に特徴的な強いX線やガンマ線放射は見られず、深い塵に埋もれて可視光でもほとんど見えない点が特徴となっていた。そのため、「Shadow Blaster」と愛称がつけられた。

同銀河の姿は重力レンズによって拡大されたことで、明るく見えていることが大きな特徴だ。すばる望遠鏡やジェミニ望遠鏡による可視光・赤外線のデータに基づいて手前の銀河が及ぼす重力レンズ効果の影響をモデル化し、通常は見ることができない初期宇宙の塵に覆われた星形成銀河の内部構造が詳細に解析された。

アルマ望遠鏡により測定された一酸化炭素分子ガスのエネルギー分布を詳細に分析した結果、ブラックホールに加熱された兆候がないことも確認され、純粋に「猛烈な星形成活動」によってガスが温められている可能性が高いことが判明した。解析の結果、この銀河の中心部には、わずか約1500光年という非常に狭い領域に、太陽の数千億倍という膨大な質量のガスと塵が高密度に押し込まれた「コンパクトコア」が存在することが明らかにされた。

この極限的な高密度環境こそが、粒子が衝突を繰り返してニュートリノを生成する「天然の粒子加速器」として機能していると推測された。個々の銀河からのニュートリノは微弱でも、圧倒的な密度で星形成活動を行う銀河が数多く存在することで、宇宙を満たす高エネルギーニュートリノの総量の最大で約20%という無視できない割合を占める可能性が示されたという。

今回の研究では、これまで謎だったニュートリノの起源天体にマルチメッセンジャー天文学で迫り、「Shadow Blaster」が発見された。今回の成果は、初期宇宙の星形成銀河の集団が、ニュートリノ生成の重要な役割を担っている可能性を示す重要な観測的証拠であるとしている。