東京大学(東大)とスーパーカミオカンデ国際共同研究グループの両者は6月23日、地下ニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」の純水運転期間(2008年~2020年のうち3349日)とガドリニウム導入期間(2020年~現在のうち1653日)を合わせた約5000日分の観測データの詳細解析により、宇宙の歴史上すべての重力崩壊型超新星爆発に由来するニュートリノの総和である「超新星背景ニュートリノ」の兆候(2.6σ、99.5%信頼水準)を世界で初めて捉えたと共同で発表した。

  • 「超新星背景ニュートリノ」

    宇宙全体では、宇宙の歴史を通じて毎秒数回の頻度で超新星爆発が起きていると見積もられており、宇宙が生まれてから現在まで、超新星爆発から放出されたニュートリノは宇宙に拡散され、蓄積されることになる。そのニュートリノを「超新星背景ニュートリノ」と呼ぶ。(出所:東大プレスリリースPDF)

同成果は、東大 宇宙線研究所の関谷洋之准教授が実験代表者を務め、日本、アメリカ、韓国、中国、ポーランド、スペイン、カナダ、イギリス、イタリア、フランス、ベトナムの約60の大学や研究機関から約250名が参加するスーパーカミオカンデ国際共同研究グループによるもの。詳細は、6月25日に米・カリフォルニア大学アーバイン校で開催された国際会議「NEUTRINO 2026」にて発表された。

歴史に刻まれた超新星爆発の“かすかなささやき”を検出

超新星爆発は、白色矮星の核融合暴走による「Ia型」と、太陽質量の約8倍以上の大質量星の中心核が重力崩壊することで生じる「重力崩壊型(Ib型、Ic型、II型)」の2種類に大別される。両者はエネルギーの放出方法が大きく異なり、Ia型が爆発エネルギーや電磁波などの多方面に分散するのに対し、重力崩壊型はその約99%がニュートリノとして放出される。このため、宇宙にはこれまでに発生したすべての重力崩壊型超新星爆発に由来する無数のニュートリノが蓄積されていることになり、これらは「超新星背景ニュートリノ」と定義されている。

しかし、ニュートリノは物質との相互作用が極めて微弱な「幽霊粒子」であり、その検出自体が容易ではない。しかも、超新星背景ニュートリノは遠方の超新星爆発から飛来する過程で拡散するため、その信号は地球に届くころにはさらに微弱なものとなる。

実際、約16万光年という地球近傍で発生した重力崩壊型超新星爆発「SN 1987A」ですら、前身のカミオカンデで検出できたのは11個にとどまった。さらに遠方の銀河で発生した超新星爆発ともなれば、スーパーカミオカンデでも検出は至難とされる。近年は、複数のスカイサーベイの稼働により、2026年だけでも6月時点で1000件を超える超新星が登録されているが、スーパーカミオカンデではそれらに由来するニュートリノを捉えた明確な証拠はなく、検出精度の向上が長年の課題とされてきた。

そこで2020年、中性子捕獲能力に極めて優れるガドリニウムを、タンク内の純水に導入する改良が行われた。スーパーカミオカンデは、ニュートリノが水と相互作用した際のチェレンコフ光を約1万3000本の光電子増倍管で捉える装置だが、ガドリニウムを導入することで反電子ニュートリノの信号同定精度が大幅に向上する。今回の研究では、ガドリニウム導入前の純水運転期間(3349日)と、導入後の1653日を合わせた約5000日のデータを用い、超新星背景ニュートリノの詳細な解析を進めたという。

  • ガドリニウムへの純水添加による効果

    純水にガドリニウムを添加することで、反電子ニュートリノからの信号を明確に区別しての検出が可能になる。(出所:東大プレスリリースPDF)

重力崩壊型超新星爆発では6種類のニュートリノ(電子型、ミュー型、タウ型、それぞれの反粒子)が生成されるが、そのうち反電子ニュートリノが水中の陽子と反応すると中性子と陽電子を生じる。その際、まずは陽電子によるチェレンコフ光が放出され、続いて中性子をガドリニウムが捕獲することでガンマ線が発生する。この連続した発光を捉える手法により、反電子ニュートリノの信号を他のノイズと明確に識別することが可能になる。

具体的には、ニュートリノエネルギー13.3~81.3MeVの領域において、大気ニュートリノ事象や宇宙線に起因する水中酸素原子核の破砕事象というバックグラウンドを精密に排除。その結果、統計的に有意な超過信号が検出された。

  • チェレンコフ角が42度近傍かつ中性子数1のイベントにおけるエネルギー分布

    超新星背景ニュートリノの候補となる、チェレンコフ角が42度近傍かつ中性子数1のイベントにおけるエネルギー分布。赤い領域が観測された超新星背景ニュートリノの成分を示す。(出所:東大プレスリリースPDF)

  • 観測結果の統計的解釈図

    観測結果の統計的解釈図。フラックスが存在しないという仮説は約99.5%の確率で否定され、フラックスが3.6cm^-2 s^-1であった場合に最もよく説明できるとした。(出所:東大プレスリリースPDF)

超過信号の有意性は2.6σ(偶然の揺らぎによって生じる確率は約0.5%という意味)であり、偶然の変動では説明できないものの、確定的検出の基準となる5σ以上(偶然の揺らぎで生じる確率が約0.000057%以下)には達していないため、現段階では「兆候」と位置づけられる。また、推定されるフラックスは約3.6(+1.6/-1.5)cm-2s-1であり、いくつかの理論モデルの予測範囲(Horiuchi+09の6MeVモデル:2.1~3.9cm-2s-1)と矛盾しないことが示された。

今回の兆候検出は、超新星背景ニュートリノの存在を実験的に示す初の成果となった。ただし、確定的な検出にはさらなるデータの蓄積と解析の改善が不可欠とされた。今後はスーパーカミオカンデでの観測を継続すると同時に、次世代の後継検出機「ハイパーカミオカンデ」(2028年の観測開始予定)との連携による、さらなる感度向上が期待されるとした。

また今回の成果は、宇宙の星形成率や元素合成モデルに強い制約を与えることが期待されるという。特に、中性子星やブラックホールの形成過程、あるいは宇宙の化学進化の理解への貢献が見込まれるとしている。