北海道大学(北大)は8月25日、米国航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「OSIRIS-REx(オサイリスレックス)」が、小惑星「ベンヌ」から採取したサンプルの詳細な分析を行った結果、多様な起源を持つ原材料物質が集まって形成されたことを発見したと発表した。
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(左)OSIRIS-RExによって撮影されたベンヌの全景。(右)ベンヌに含まれる、高温環境で生成された鉱物の電子顕微鏡像。鉱物は、北大にて研究されたもの。(c) NASA, Barnes, Nguyen et al. 2025(出所:北大Webサイト)
同成果は、北大大学院 理学研究院の川﨑教行准教授、同・馬上謙一助教、同・圦本尚義教授、北大 総合イノベーション創発機構の坂本直哉准教授ら国内外の90名近い研究者が参加する国際共同研究チームによるもの。北大の研究チームは、特に走査電子顕微鏡によるサンプルの微細構造観察と、同位体顕微鏡(二次イオン質量分析計)による原材料物質の起源の推定を担当した。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「NatureAstronomy」に掲載された。
OSIRIS-RExは、2023年に小惑星ベンヌから121.6gのサンプルを地球に持ち帰ることに成功した。ベンヌは、「はやぶさ2」がサンプルリターンを行った小惑星「リュウグウ」と同じく、炭素質の小惑星である。ただし、炭素質小惑星の中でも、リュウグウは太陽系の小惑星の75~80%を占めるとされる一般的なC型に分類されるのに対し、ベンヌはC型の中でもサブグループのB型に分類される。サブグループは可視光スペクトルの違いによって分類されており、C型の中にはB、C、Cb、Cg、Cgh、Chなどがある。
ベンヌから持ち帰られたサンプルの初期分析が、NASAや米・アリゾナ大学をはじめとする世界中の研究機関によって行われ、ベンヌがリュウグウや「イヴナ型炭素質隕石」に類似した物質であることは明らかにされていた。しかし、その起源やその原材料物質、そしてリュウグウとの関係には不明な点が多く、より詳細な分析が求められていたとする。そこで、国内外の多数の研究者が参加するベンヌの研究チームの1つである元素・同位体分析グループは今回、ベンヌのサンプルの化学・鉱物・同位体分析を実施したという。
分析の結果、ベンヌは、太陽の形成以前に寿命を終えた恒星を起源とする鉱物や、太陽近傍の1000℃以上の高温環境で生成された鉱物、さらに太陽系の遠方領域などの低温環境で生成された氷や有機物など、多様な原材料物質から形成されたことが判明した。これは、ベンヌの原材料物質の生成環境が広範囲にわたっていたことを示しており、初期太陽系において物質の大規模な移動と混合があったことが示唆されるとした。
これまでの研究で、リュウグウも同様に、太陽以外の恒星起源の鉱物や、高温環境起源の鉱物、低温環境起源の氷や有機物など、高温・低温の量極端な環境で生成された原材料物質から形成されていることが確認されていた。このように、ベンヌとリュウグウ、および同型のイヴナ型炭素質隕石とは非常に類似した物質であることが解明されたのである。このことから、ベンヌはリュウグウと同様に、太陽系の遠方領域で形成された可能性が示唆されるとする。
今回の研究により、ベンヌとリュウグウの共通性が見え始めてきた。今後、北大の研究チームでは、ベンヌを構成する物質の年代測定を実施し、原材料物質の形成年代とベンヌの母天体が形成された年代の解明を試みる計画とする。こうした詳細な分析によって、両小惑星の起源と進化過程の共通性が解明され、惑星形成理論のさらなる進展が期待されるとしている。