東京理科大学(理科大)と将来宇宙輸送システム(ISC)の両者は6月2日、大気圏再突入時の空力加熱からロケットを守るための「耐熱防護システム」(TPS)を必要としない、再使用型ロケットタンクの実現を目指すための熱マネジメント技術の開発研究が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が推進する「宇宙戦略基金」の「SX中核領域発展研究(SX-ARK)」における「運動と制御に関する課題解決に向けた革新的技術開発領域」(「運動と制御」領域)に採択されたと共同で発表した。

研究代表は、理科大 創域理工学部 機械航空宇宙工学科(兼)スペースシステム創造研究センターの小笠原宏教授/宇宙輸送ユニット長が務め、ISCは連携機関として参加する予定だ。

専用耐熱材の使用で革新的アプローチ推進へ

宇宙輸送コストの高さは宇宙開発における大きな課題であり、その要因の1つがロケットの使い捨て運用だ。ロケットの上段を含むすべての機体を再利用する「完全再使用型宇宙輸送機」を実現できれば、大幅なコスト低減に加え、大型スペースデブリの発生抑制も期待できる。

一方で、完全再使用化には機体の軽量化が不可欠であり、耐熱タイルなどのTPSが大きな課題となる。かつてのスペースシャトルではTPSが機体重量の約18%を占めたほか、運用の度に点検や交換に多大なコストを要した。そのため、TPSに依存せず大気圏再突入時の空力加熱へ対処する技術が求められている。

  • スペースシャトルの質量構成

    スペースシャトルの質量構成。TPSが機体全重量の約18%を占める。(出所:理科大Webサイト)

宇宙戦略基金は、日本の宇宙産業の競争力強化を目的とした国による資金を原資とするJAXAの研究開発支援制度で、SX-ARKはその一環として将来の宇宙開発を支える挑戦的・萌芽的な研究開発を支援するプログラムである。今回採択された「運動と制御」領域では、ロケットや衛星の推進・駆動・姿勢制御などに関する革新的技術の創出が目指されている。

研究チームが提案したテーマは、「帰還用耐熱材を不要とする再使用型ロケットタンクの地上実証」だ。TPSを用いない再使用型ロケットタンクの実現を目指し、熱マネジメント技術の開発と検証が行われる。同タンクの成立条件の解明や、従来方式に対する優位性・経済性の評価を研究目標に据えられている。

  • TPSを不要とする構造を適用した再使用ロケットの運用イメージ

    TPSを不要とする構造を適用した再使用ロケットの運用イメージ。(c)将来宇宙輸送システム(出所:理科大Webサイト)

支援予定期間は2026年3月13日から2029年3月31日までで、予定支援上限額は1億9994万1000円(間接経費を含む)とされた。ただし、今後のステージゲート評価などにより変動する可能性があるという。

理科大とISCは採択を受け、スケールモデルを用いた地上実証研究を開始した。同研究は、タンク内熱伝達特性モデル整備、空力加熱低減を狙ったタンク外表面形状設定の検討、ロケットシステム経済性評価、スケールモデルによる地上実証の4項目を柱として進められる。

具体的には、タンク内面の吸熱特性モデルの構築や吸熱促進形状の探索、空力加熱低減が期待される外表面形状の検討、高温時の光学特性データの整備が実施される。また、完全再使用ロケットへの適用を想定したシステム評価を行い、TPS搭載型との重量・経済性比較も進める方針だ。

さらに、長さ約3m、直径約1.5mのスケールモデル試験装置を用いた実証試験を実施し、熱解析モデルの検証や実機タンクの温度応答解析に必要なデータ取得を行う予定だ。

  • スケールモデル試験案

    スケールモデル試験案。(c)将来宇宙輸送システム(出所:理科大Webサイト)

体制としては、理科大の小笠原教授は研究代表者として全体を取りまとめつつ要素技術の開発を行い、個別テーマである空力加熱低減形状の探索にも従事する。同大学の上野一郎教授が熱流動・伝熱特性の探索を、同大学の荻原慎二教授がタンク表面の光学特性整備をそれぞれ担当。また、ISCはシステム設計・経済性評価および試験の実施を担い、東京都市大学 理工学部 機械システム工学科の白鳥英教授が研究協力者として参画する。

今回の実証研究は、要素技術の開発とシステム開発を一体的に進め、TPSなし再使用ロケットの飛行環境やタンク仕様、TPS有無による重量差、経済性評価などを明らかにすることで、宇宙輸送コストの抜本的な削減と完全再使用型宇宙輸送機の実現への貢献を目指すとしている。