BAEシステムズのスペース&ミッション・システムズ部門で、民間宇宙部門担当の副社長兼ゼネラル・マネージャーを務めるボニー・パターソン(Bonnie Patterson)氏が、都内で報道関係者向けの記者説明会を開催した。

BAEシステムズの宇宙部門、とりわけ民間向けを手掛けている部門はあまり知られていないと思われるので、この機会に紹介したい。

  • BAEシステムズは、イギリス、アメリカ、サウジアラビア、オーストラリア、その他の諸国を事業の五大拠点としている 出典:BAE Systems

    BAEシステムズは、イギリス、アメリカ、サウジアラビア、オーストラリア、その他の諸国を事業の五大拠点としている 出典:BAE Systems

ボール・エアロスペースからBAEシステムズへ

BAEシステムズというと、「イギリスの航空機メーカー」という先入観をお持ちの方が多そうだ。しかし実際には、イギリスだけでも、航空機以外に艦艇や装甲戦闘車両など、多様な製品を手掛けている。

また、アメリカにも拠点を置いており、防衛電子機器、火砲、装甲戦闘車両など、これまた多様な製品を手掛けている。イギリスの方はBAE Systems plc、アメリカの方はBAE Systems Inc.と社名が違うので、それぞれ「plc」「Inc」と呼んで区別することもある。

今回の本題であるスペース&ミッション・システムズ部門(以下、BAEシステムズSMS部門)は、アメリカの、いわゆる「Inc」の下にある部門。もともとボール・エアロスペース(Ball Aerospace)という会社だったが、それが2024年にBAEシステムズの傘下に入って現体制となった。

  • スペース&ミッション・システムズの事業分野について説明する図。このうち右側の3種類が宇宙領域となる 出典:BAE Systems

    スペース&ミッション・システムズの事業分野について説明する図。このうち右側の3種類が宇宙領域となる 出典:BAE Systems

  • 今回の本題である民間宇宙部門の、主要カスタマー、主な能力とミッションについて説明する図。計測・観測用のセンサー機材に強く、地球や宇宙の観測に関わる製品を多く手掛けてきた 出典:BAE Systems

    今回の本題である民間宇宙部門の、主要カスタマー、主な能力とミッションについて説明する図。計測・観測用のセンサー機材に強く、地球や宇宙の観測に関わる製品を多く手掛けてきた 出典:BAE Systems

BAEシステムズは、全体では防衛分野が占める売上の比率が高い会社だ。しかし、スペース&ミッション・システムズ部門は事情が異なり、民間向けの案件を多く手掛けている点に特徴がある。そして、人工衛星の「機体」にあたる「バス」と、そこに載せて機能を提供する「ペイロード」の双方を手掛けている。

宇宙では、広範囲の温度変化、直射日光、放射線や各種電磁波といった具合に環境条件を厳しくする要素が多い。しかも、いったん打ち上げた後で故障や破損が生じても、地上に呼び戻すわけにはいかない。だから、厳しい環境下で問題なく機能して、しかも信頼性の高い製品が求められる。

そして、「複数の領域にまたがって問題を解決する能力が売り」(パターソン氏)だという。では、これまでにどんな製品を手掛けてきたのだろうか。

  • 現在・過去・未来に関わっている製品いろいろ。アンバーっぽい色で描かれているのが、現時点で稼働している宇宙機 出典:BAE Systems

    現在・過去・未来に関わっている製品いろいろ。アンバーっぽい色で描かれているのが、現時点で稼働している宇宙機 出典:BAE Systems

ハッブルやJWSTに参画した宇宙望遠鏡事業

宇宙観測用の望遠鏡は、もちろん地上に設置してもよいのだが、そうすると大気の状態や気象条件による影響を受ける。そこに、宇宙機に望遠鏡を載せて打ち上げることの意味がある。

BAEシステムズSMS部門が主契約社を務めた案件の一つが、ケプラー宇宙望遠鏡。これは、太陽系の圏外に及ぶ広範囲を対象として、数十億の惑星を観測する宇宙望遠鏡だ。

過去には、1990年に米航空宇宙局(NASA : National Aeronautics and Space Administration)が打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡の開発・製作に関わった。担当したのは、光学系やスター・トラッカーなどだ。打ち上げ後に光学系の不具合が発生したが、修正を実施できたという。

  • ハッブル宇宙望遠鏡に関わったこともある。ペイロード機器の写真は右下に 出典:BAE Systems

    ハッブル宇宙望遠鏡に関わったこともある。ペイロード機器の写真は右下に 出典:BAE Systems

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST : James Webb Space Telescope)の開発にも参画しており、宇宙機の上面に展開する主鏡、副鏡などの光学系を担当した。単に高精度の鏡を製造するというだけの話ではなく、その鏡の位置を精確にコントロールする必要もある、難易度の高い仕事だ。

  • JWSTでは、高精度の反射鏡を手掛けたという 出典:BAE Systems

    JWSTでは、高精度の反射鏡を手掛けたという 出典:BAE Systems

NASAのNeo Surveyorは、地球に接近する小惑星や彗星を発見・追跡するための赤外線宇宙望遠鏡。その中核となる赤外線センサーの開発に、BAEシステムズSMS部門も関わっている。Neo Surveyorは天文学に関連する宇宙機ではなく、地球軌道に接近する小惑星・彗星を発見して軌道を決定、大きさや反射率を推定することで、衝突リスクの評価につなげるという目的を掲げている。2027年の打ち上げを予定している。

進行中の案件としては、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(Nancy Grace Roman Space Telescope)がある。これは、赤外線センサーを用いて人が住める天体を探すための宇宙機で、2026年秋の打ち上げを予定している。そこで担当しているのは、光学センサー・アセンブリ。これは12m×4mぐらいある大物で、背後に取り付けているラジエーターがキー・コンポーネントだという。熱的条件の厳しさがうかがわれる。

  • ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡。右上が全体像で、右下にセンサー機器とラジエーターについて描かれた図がある 出典:BAE Systems

    ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡。右上が全体像で、右下にセンサー機器とラジエーターについて描かれた図がある 出典:BAE Systems ,

地球環境観測を支える衛星ミッション

主なカスタマーとして、前述のNASAや米海洋大気庁(NOAA : National Oceanic and Atmospheric Administration)がある。そして宇宙観測だけでなく、地球環境や宇宙環境の観測に関わるペイロードも手掛けている。

NOAA向けに進行中の案件として、GeoXO(Geostationary Extended Observations)という大気観測用衛星がある。これに搭載する赤外線センサーを開発しており、予備設計審査(PDR : Preliminary Design Review)の段階まで作業が進んでいる。気象観測による予報精度の改善を企図しており、3基からなる衛星群を構成する計画。2032年の打ち上げを予定している。

  • GeoXOでは、赤外線センサーを担当。ペイロードは左下に写真がある 出典:BAE Systems

    GeoXOでは、赤外線センサーを担当。ペイロードは左下に写真がある 出典:BAE Systems

SOLAR-1(Space Weather Observations at L1 to Advance Readiness-1)もNOAAの案件で、太陽嵐の観測を目的とする。GPS(Global Positioning System)や電力網は太陽嵐によって悪影響を被ることがあり、それに対処するのが目的。この後はSOLAR-AとSOLAR-Bも続く予定だという。

  • 左下にある写真が、GeoXOの宇宙機 出典:BAE Systems

    左下にある写真が、GeoXOの宇宙機 出典:BAE Systems

NASAやNOAA以外の案件もある。

例えば、MethaneSATは環境NGO・EDF(Environmental Defense Fund)の案件で、メタンガスの放出を観測する衛星。これは2024年3月に打ち上げられた。地球温暖化との関わりが指摘されている、石油・ガス分野のメタン排出を追跡して、排出量を削減する意図があった。

  • 右側の写真に、MethaneSATのセンサー機器が映っている 出典:BAE Systems

    右側の写真に、MethaneSATのセンサー機器が映っている 出典:BAE Systems

2014年2月に種子島からH-IIAロケットで打ち上げた、GPM(Global Precipitation Measurement、全球降水観測)主衛星にも関わりがあった。これは宇宙航空研究開発機構(JAXA : Japan Aerospace Exploration Agency)とNASAの共同案件で、降水量の測定、気候のモデリングや気象予報の改善、降水システムなどに関する知識の向上といった目的を掲げた。

GPM主衛星には、Kuバンド(13.6GHz)とKaバンド(35.5GHz)の電波を使用する二周波降水レーダーに加えてマイクロ波イメージャ(GMI : Microwave Imager)を搭載したが、このうちマイクロ波イメージャを担当したのが、当時のボール・エアロスペースだった。このデバイスは、地球や大気から自然放射されるマイクロ波を受信して、降水量や、雲中の氷・雪の情報を推定するためのものだ。

GEMS(Geostationary Environment Monitoring Spectrometer)は、韓国やアジア太平洋地域で大気の質を観測する環境モニタリング案件で、韓国航空宇宙研究院と共同で手掛けた。そこに搭載するスペクトロメーターを、当時のボール・エアロスペースが担当、2020年に打ち上げを実施した。

  • GEMSは韓国との共同案件だった 出典:BAE Systems

    GEMSは韓国との共同案件だった 出典:BAE Systems

日本市場でパートナーを模索

そのBAEシステムズで民間宇宙部門を担当する幹部が来日したからには、相応の意図があるはずだ。そして、日本でパートナーを探すために「パートナー候補に関する見極めを実施しているところ」(パターソン氏)という。

日本では近年、宇宙関連のスタートアップ企業がいくつも出てきており、そうした状況は当然ながら承知している。ただし、まだどこかと具体的なパートナーシップを構成するには至っておらず、状況を注視しているところだという。

同社はこれまでNASAやNOAAを中心とした案件で実績を積んできた。一方で日本では宇宙関連スタートアップの活動が活発化しており、今後はそうした企業との連携可能性も視野に入れているようだ。

衛星データ処理と小型衛星への対応

陸上に設置しているセンサーであれば、データ量が多くなっても高い伝送能力を持つ通信手段を使えるので、問題はさほど深刻ではないと考えられる。

ところが宇宙機に搭載するセンサーは事情が異なる。地上にデータを送るための、ダウンリンクの能力が制約要因になり得るからだ。高い伝送能力を備えるデータ中継衛星を配備する手もあるが、それではシステムが大がかりになり、経費も開発時間も増えてしまう。

そこで、衛星にエッジ処理の機能を持たせて処理後のデータだけを送信する、自律的にセンサーを動作させる、といった仕組みの必要性を理解して取り組んでいる、というのがBAEシステムズの説明であった。

また、近年では大型で高価で高機能の衛星ではなく、小型・単機能の衛星を迅速に開発・製作する場面が増えていることから、そちらへの対応も進めているとの話であった。