東京大学は、はやぶさ2の解析チームがAI技術(深層学習)を活用し、“これまで研究者が一生をかけても識別できなかった”という膨大な数の岩石を、高速・高精度に自動識別するアルゴリズムを世界で初めて確立と4月8日に発表した。
この手法を用いて、小惑星リュウグウとベヌーの表面を覆う全岩石(のべ350万個)を識別し、2つの小惑星の決定的な違いをもたらした原因が、わずか数時間の自転周期の違いであったことを発見。研究グループは、今回確立したアルゴリズムは「惑星科学分野において多様な天体進化の過程を理解するうえで重要な一歩」と位置づけており、解析速度については「手作業で解析に2週間ほど要する画像を数秒で解析してしまう」と、その“凄まじさ”を表現している。
さまざまな産業界への応用も可能としており、たとえば「斜面の常時モニタリングによる防災・減災システムへの利用」、「鉱業・土木・建設現場でのドローンや定点カメラを活用した簡便で迅速な資材管理」、「都市インフラの点検や農業分野における土壌・地盤状況の解析」といった、多岐にわたる分野で有用性が期待されるとのこと。
岩石は、太陽系内のあらゆる岩石天体に普遍的に存在し、岩石の性質や分布を詳細に把握することは、自然環境や地質学的現象の解明に加え、鉱業や土木、防災・減災など幅広い分野で重要な要素となる。
ただし岩石の分布を把握するのは容易ではなく、大小さまざまな形状の土砂が膨大に含まれる集合体を対象とすると難易度が増し、時間的にも解析が難しい。正確かつ客観的で、再現性のある解析も手作業では困難だった。
今回、東京大学大学院工学系研究科の清水雄太特任研究員と宮本英昭教授らによる研究グループは、約7万個の岩石の輪郭データから、入力画像から階層的に抽出された特徴を基に、対象物の検出・分類を高精度に実現する「CNN」(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)によって、岩石を高速・高精度に自動識別する手法を確立。大量の岩石を同一の判断基準で画一的に、再現性を担保して解析できるようにした。
このアルゴリズムを用いて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」や、米国航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「OSIRIS-REx」ミッションで得られた、小惑星リュウグウとベヌー表面の高解像度画像約1万枚から、合計約350万個の岩石を識別。画像間の重複を取り除き、最終的に合計約20万個の岩石のサイズ・形状・位置の分布を解明した。これは、両小惑星上に存在する大きさ1m以上の岩石全てを記録・解析した革新的な成果だという。
今回の研究による解析で、両小惑星の岩石の動きについても解明。リュウグウは自転が遅いために表面の岩石が赤道から極へ流れ、逆にベヌーは自転が速いために極から赤道へと岩石が移動していることがわかったという。なおベヌーでは、極方向の移動の痕跡も認められたため、かつてはリュウグウ同様に自転が遅かったと推察している。
研究グループでは理論的計算から、こうした天体上での物質の移動方向は、ある自転周期を境に数時間異なるだけで逆転することも分かったと指摘。これは自転周期の変遷に伴い、天体の姿が大きく変容したことを意味し、わずか数時間の自転速度の差が、現在見られる小惑星の全体形状に影響を与えていたという重要な知見を得たとのこと。
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自転周期の違いが駆動する多様な小惑星の進化。ある自転周期を境に、自転周期が遅い場合表面の土砂は極へ、速い場合は赤道へ移動する。さらに速くなると土砂は宇宙空間に放出され月を形成し、二重小惑星となる。自転周期の違いが大きな鍵となり、統一的に多様な小惑星の描像を説明できるという