Texas Instruments(TI)は「CES 2025」の開催に合わせ、車内用の60GHzレーダー「AWRL6844」と車載オーディオ向けプロセッサとして「AM275x-Q1 MCU」と「AM62D-Q1 MPU」、それに車載用Class Dアンプ「TAS6754-Q1」を発表した。この4製品に関する説明会がオンラインの形で1月16日に開催されたので、その内容をご紹介したい。

車内用60GHzレーダー「AWRL6844」

今回発表されたAWRL6844は、単一チップで4T4Rの60GHz帯レーダーとフロントエンド・バックエンド、さらに意思決定部までを実装した製品となっている(Photo01)。

  • I/FとしてはCAN-FD×2とGPIO/I2C/LIN/UARTなど

    Photo01:I/FとしてはCAN-FD×2とGPIO/I2C/LIN/UARTなど。さらにPWM/QSPI/SPIも搭載される

ポイントは全チップが一体型になっていることで、構成(Photo02)を見るとCortex-M3とC66x DSPとCortex-R5Fに加え、Radar Acceleratorまで搭載されているのが判る。

  • メモリはトータルで2.5MBだが、実際には色々分散する形で実装されている

    Photo02:メモリはトータルで2.5MBだが、実際には色々分散する形で実装されている

このAWRL6844の最大の目的は、シートベルト警告とか侵入者検知に加え、Euro NCAP 2025で新しく追加された子供置き去り検知の機能をなるべく安価かつスマートに実現する事である。これらの3つの機能、従来だとUWBレーダーとか超音波センサー、シートのセンサーなどを組み合わせて実現していたのでどうしても高コストにつくが、AWRL6844はこれを1チップで実装できるので、センサー個数と部品コストの両方で節約になる、とする(Photo04)。

  • 侵入者検知はこれまで振動だけで判断していた

    Photo03:侵入者検知はこれまで振動だけで判断していたので、誤検知(花火の音と振動でアラームが鳴りだす、なんて経験をした方も多いだろう)が多かったが、今回はそうした誤検知を大幅に減らせるとしている

  • 子供が床に這っている場合でも検出できる

    Photo04:子供置き去り検出に関しては、子供が床に這っている場合でも検出できるとの事

ちなみにAWRL6844は現在、Photo03に示す3つの機能に最適化した形のソフトウェアを提供しているので、他の機能には利用が出来ないが、ハードウェア的にはフルプログラマブルであり、ソフトウェアを書き換えることで例えばジェスチャー認識だったりバイタルサイン検出だったりといった用途にも利用可能だそうである。

このAWRL6844はすでにサンプル出荷を開始しており、価格は19.90ドル(1K Unit)。開発用ボードとして「AWRL6844EVM」(Photo05)も用意されている。

  • alt属性はこちら

    Photo05:なぜか現時点(2025年1月16日16時)ではTi.comでのオーダーは取り扱いなしとなっている。代理店などからそのうち入手可能になるのだろうか?

車内用オーディオソリューション

次がオーディオソリューション。まずオーディオプロセッサであるが、こちらはCortex-R5コアにC7x DSPを組み合わせ、10.75MBのオンチップRAMを搭載したAM275x-Q1 MCUと、Cortex-A53にC7x DSPを組み合わせ、LPDDR4 I/Fを搭載したAM62D-Q1 MPUの2種類がラインナップされる(Photo06)。

  • オーディオプロセッサ

    Photo06:オーディオプロセッサとして、用途に応じてMCUとMPUを使い分ける形となっている

オーディオ処理はC7x DSPとNPU Acceleratorの組み合わせ(Photo07)で実装される。C7x DSPは2020年1月に発表された「Jacinto 7シリーズ」の車載プロセッサで初めて搭載されたDSPコアであるが、今回は256bit幅のものである。

  • のC7xはC71のサブセットの模様

    Photo07:今回の説明では1GHz駆動で1コアあたり40GFlopsの性能とあったが、C71x DSPコアを積んだTDA4VM Processorsのマニュアルには1GHz動作で80GFlops/256GOPSという説明がある。C7x DSPは256bit Vectorだが、C71xは512bitであり、今回のC7xはC71のサブセットの模様

昨今はプレミアカーだけでなく普及帯の車でもオーディオシステムの充実(ノイズキャンセリングなど)が必須となっており、そうした背景もあり同じアーキテクチャでスケーラブルに対応できるMCUとMPUの組み合わせが提供された。

MCUであるAM275x-Q1はCortex-R5F×4にC7x DSP×2という、MCUとしては充実した組み合わせ。DSPの方にはコアあたり2.25MBのL2が実装され、さらにShared SRAMが6MBで合計10.5MBという構成になる(Photo08)。

  • DSPに加えてCortex-R5F×4でオーディオ処理をする構成

    Photo08:DSPに加えてCortex-R5F×4でオーディオ処理をする構成。Photo07に出て来たNPU Acceleratorは、DSPを利用する形(1コアあたり128GOPS)を想定している模様

逆にAM62D-Q1 MPUの方はDSPコアが1つに減り、またCortex-R5Fの代わりにCortex-A53×4という構成になった(Photo09)。

  • Memory I/F以外にも結構周辺i/Fが異なっており、これでPin Compatibleと言われても結構制限がありそうではある

    Photo09:しかしこうしてみてみると、Memory I/F以外にも結構周辺i/Fが異なっており、これでPin Compatibleと言われても結構制限がありそうではある

要するに10.5MBのメモリ容量で足りる範囲のオーディオ処理はAM275x-Q1で、より複雑な(メモリを大量に必要とする)処理はAM62D-Q1 MPUで、という事である。この2つの製品はPin Compatibleになっており、OEMメーカーは同一の基板設計で、用途に応じて使い分けが出来るとされる。

このほか、AM275x-Q1/AM62D-Q1と併せて発表したのが、1L変調テクノロジーを採用したClass DのオーディオアンプであるTAS6754-Q1である(Photo10)。

  • 現状はAM275x-Q1/AM62D-Q1が対象ということなのだろう

    Photo10:別にAM275x-Q1/AM62D-Q1とだけしか接続できない訳ではなさそうだが、デジタル入力構成なので、現状はAM275x-Q1/AM62D-Q1が対象ということなのだろう

この1L変調テクノロジーは要するにインダクタンスを1個で済ませられるというもので、20chの自動車用アンプが従来品より小型化できるとする(Photo11)。

  • インダクタンスの数を半減させられる

    Photo11:上が今回のTAS6754-Q1、下はTIが従来提供していたTAS6424E-Q1 Class Dアンプを使った例。インダクタンスの数を半減させられる(けどチップコンデンサの数はむしろ増えている気も)

TAS6754-Q1はI2SやTDM-4/8/16などのSerial Audioの入力からスピーカー出力が可能になっており(Photo12)、これを利用してより柔軟な構成が可能になるとしている。

  • 例えばロードノイズキャンセリングなどの処理などのために多チャンネルオーディオを構成する際の柔軟性やBOMコスト削減に貢献する

    Photo12:Photo10の右図にもあるが、例えばロードノイズキャンセリングなどの処理などのために多チャンネルオーディオを構成する際の柔軟性やBOMコスト削減に貢献する、という訳だ

AM275x-Q1は29.00ドル、AM62D-Q1は22.54ドル、TAS6754-Q1は4.20ドル(いずれも1K Unit)でそれぞれサンプル出荷中であり、また開発用の評価ボードも提供されている。