日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は、2024年5月22日から24日にかけて神奈川県横浜市のパシフィコ横浜にて開催されている「人とくるまのテクノロジー展 2024」において、半導体メーカーとしてこれからのゾーンアーキテクチャに必要となる半導体とはどのようなものであるのか、デモを交えた展示を行っている。

現在市販されている自動車の大半E/Eアーキテクチャは、大きく「分散型」もしくは「ドメイン型」が採用されており、今後「ゾーン型」へと進んでいくことが見込まれている。

分散型やドメイン型では、車両のあちこちに配置された機能ごとにECUが搭載され、それぞれがワイヤで接続されることとなるため、今後のさらなる安心・安全機能の拡充であったり、自動運転機能などを搭載していこうとすると、ECUやワイヤの量がこれまで以上に増加し、重量の増加、システム構成の複雑化、開発工数の増加などの問題が生じることとなる。そうした機能をまとめて1つにして、車両の各所に配置するのがドメイン型であるが、ゾーン型はさらに、そうした機能の大半を1つの高性能コンピューティングを提供するセントラルECUにまとめることで、そこで出された各種の動作命令を各所に配置されたゾーンコントローラとやり取りする形にすることで、ECUの削減ならびにドメイン間の通信量並びにワイヤの削減などを図ろうという考え。PCやスマートフォンのようなハードウェアが何であっても、その差異をOS層が吸収し、その上で動作するアプリケーションはハードウェアの種類を気にせずに動作させることを可能とする「ソフトウェア・デファインド」の自動車版(ソフトウェア・デファインド・ビークル、SDV)を実現するうえで最適なアーキテクチャとして考えられている。

  • ゾーンアーキテクチャのイメージ

    ゾーンアーキテクチャのイメージと、それぞれの機能に対応する現在の同社製品の説明ボード

逆に言えば、SDVの実現には、これまでのその機能を実現するのに最適な性能とコストを実現した半導体を提供するのではなく、将来ソフト的に実現したい機能まで見据えた高い処理能力を提供する必要がある。実際に、そうしたSoCをどのような形態で提供するのか、といったところからの議論が現在、各所で進められているが、日本TIとしてはすでにセントラルECU向けSoCであったり、各種のゾーンコントローラや外部との通信を担うテレマティクス制御ユニット、そしてセントラルECUなどの間でデータのやり取りを担う「集中型ゲートウェイ」向けSoCなど、AIアクセラレータなどの最新技術まで含めた高性能ロジック半導体をすでに提供可能であるとする。

また、そうしたローエンドからハイエンドまでのロジック半導体をシステム上で動作させるための開発環境も提供しており、さまざまな性能要件に応じた開発を容易に行うことも可能としているという。

加えて同社はロジック半導体以上にアナログ半導体ならびにパワー半導体における強力な製品ラインナップを有しており、SDV時代にはそうしたアナログ/パワー半導体の活用も期待されている。というのもこれまで自動車の電力系統のショートなどのトラブルによる事故を防ぐためにはフューズが活用されてきた。しかし、ゾーンアーキテクチャとなると、必ずしも人が交換しやすい場所に溶断型ヒューズが設置されるとは限らず、ゾーンコントローラの近くなどに置く必要がでてくる場合が想定される。そうなると、交換の手間などが生じる。そこで同社が提案しているのが電流量をモニタリングし、設定以上の大電流が流れそうな場合などに、自動的に電力供給を停止させることが可能なeFuse(スマートフューズ)だ。レジスタで挙動を管理できるため、どのような症状が発生した際に、どのように保護するかといった柔軟な設定ができ、自動車メーカー側の思想に沿った開発も可能だとする。

同社のブースではワイパーを用いたデモとして、過電流が生じる可能性が計測上で見えたタイミングで動作を停止するといった様子を見ることができた。

  • ワイパーを用いたスマートフューズのデモ
  • ワイパーを用いたスマートフューズのデモ
  • ワイパーを用いたスマートフューズのデモ。電流値を計測し、設定したしきい値を超えることが予測されたタイミングで動作を止めることができる

レーダーSoCで新たな用途開拓を推進

また同社ブースではセンサ関連への取り組みとして、レーダーSoCの活用についての紹介も行われている。中でも76Hz~81GHz帯のミリ波レーダーセンサSoC「AWRL1432」は、トランシーバあたり11dBmの出力電力(標準値)、14.5dBのノイズ指数(標準値)、1MHzで-89dBc/Hzの位相ノイズ(標準値)といった特長を有しており、例えばキックジェスチャによるトランクの開閉といった場合、ジェスチャ精度は95%超であり、意図的なキック動作とランダムな動作を識別するための誤トリガを最小化できるとしている。

このほか、ミリ波センサ「AWRL6432」を用いた車室内の人物検出/侵入検出の紹介なども行われており、幅広いレーダー活用に向けた提案が行われていた。

  • ブースでは同社の200mmおよび300mmウェハも展示されていた

    アナログ/パワー半導体の300mm化の先陣を切ったのがTIであり、ブースでは同社の200mmおよび300mmウェハも展示されていた