Snowflakeが大阪で開催したイベント「Snowflake Data & AI Insights in Osaka」で、阪急阪神不動産の近藤憲明氏が、「阪急阪神不動産のSnowflake活用実践 ~現場データ分析へのアプローチとSnowflake Intelligence活用~」と題して講演した。同社が進めるデータ基盤整備の取り組みや、Snowflake Intelligenceを活用したアンケート分析の事例について紹介した。
阪急阪神不動産は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて「未来のまちづくり」の実現を目指している。その一環として同社が進めているのが、データ基盤の整備とデータ活用文化の醸成だ。
従来は各部門が個別に管理するExcelファイルを集約しながらレポートを作成していたが、業務の属人化や集計作業の負荷が課題となっていた。こうした状況を改善するため、同社はデータ基盤を構築し、現場担当者が自らデータを活用できる環境づくりを進めている。
近藤氏は講演で、「データ基盤は既存事業を支えるだけでなく、新たな事業や変革の創出を目指すもの」と説明した。
DXで「未来のまちづくり」を実現する
阪急阪神不動産では、DXを単なる業務効率化の取り組みではなく、将来の事業変革につなげる重要な経営施策として位置付けている。
同社のDX戦略では、デジタル技術の活用によってリアルな不動産事業を進化させるとともに、バーチャル空間も含めた新たな価値創出を目指す。コミュニティ形成の支援やサービスのパーソナライズ、生活の利便性向上、さらには社会課題の解決に至るまで、幅広い領域でデータ活用を推進している。
こうした取り組みを支える基盤として整備を進めているのがデータ基盤プロジェクトだ。近藤氏は、データ活用をDX推進の重要な土台と位置付けていると説明した。
「神Excel」から脱却し、データを見に行く世界へ
データ基盤構築の背景には、データ活用業務の属人化という課題があった。
従来は物件担当者や本部統括、経営企画部門などが個別にExcelファイルを管理し、それらを集約してレポートを作成していた。業務が複雑化する中で、集計や加工の手順は特定の担当者に依存するようになり、いわゆる「神Excel」が数多く存在する状態になっていたという。
近藤氏は「担当者が休むと業務の流れが変わってしまうこともあった」と振り返る。
そこで同社が目指したのは、必要な人が必要なタイミングでデータ基盤を参照し、自ら分析できる環境の構築だった。「神Excelから脱却して、それぞれがデータ基盤を見に行く世界を開きたい」(同氏)
経営層から現場担当者までが共通のデータ基盤を参照し、それぞれの立場で必要な情報を取得する。そうした世界観の実現を目標に掲げ、データ基盤整備を進めている。
データ基盤の構築にあたり、同社はSnowflakeを採用した。近藤氏は選定理由として、直感的に操作できるUIや導入・運用コストのわかりやすさに加え、コミュニティ「Snow Village」を通じてノウハウを得られる点などを挙げた。
「着眼大局、着手小局」で進めるデータ基盤改革
データ基盤の構築に当たり、阪急阪神不動産が掲げた方針が「着眼大局、着手小局」だ。
全社レベルで業務効率化やデータ活用を実現するという大きな目標を持ちながらも、まずは現場で成果を実感できる小さなユースケースから始める。その積み重ねによって活用を広げていく考え方である。
近藤氏は「最終的にはデータドリブン経営の実現を目指しているが、まずは現場に使ってもらえることが重要だ」と述べた。
そのため同社では、現場の業務に近く、効果を実感しやすい点からアンケート分析を最初のユースケースに選定した。アンケートはQ&A形式であるため、構造化データだったことも影響している。
アンケート分析を起点にデータ活用を推進
アンケート分析にはいくつかの課題があった。
アンケートデータは担当者ごとに管理されており、データがサイロ化していた。また、集計や分析は手作業で行われることが多く、担当者の負荷が高いだけでなく、迅速な分析も難しかった。
さらに、レポートによる結果確認にとどまり、必要な切り口でのアドホック分析や過去調査との比較分析も容易ではなかったという。
そこで、同社はアンケートデータをデータ基盤へ集約し、集計・分析業務の効率化を図った。必要なときに必要な切り口で分析できる環境を整備することで、時系列比較や競合比較、背景分析なども容易になった。
この取り組みはDIVA(Data、Information、Value、Achievement)の考え方に当てはめながら進められているという。単にデータを蓄積するだけでなく、情報として活用し、価値を生み出し、成果につなげることを目指している。
AIを活用し、現場担当者が自ら分析できる環境を整備
アンケート分析エージェントを開発し、Excelファイルをアップロードすることでデータを取り込み、分析に利用できるようにしている。
データは基盤上でクレンジングや正規化を行い、分析に適した形へ加工される。さらに、AIがデータの意味を理解しやすいようセマンティック層を整備し、利用する項目を最適化することで、分析精度の向上とコスト削減の両立を図った。
分析結果はSnowflake Intelligence上で利用できる。利用者は会話形式で質問を入力するだけで、分析レポートの作成や複数回のアンケート結果の比較などを行える。
従来のようにIT部門へ依頼することなく、現場担当者がデータを更新し、そのまま分析まで実施できる点が特徴だ。
近藤氏は「分析のためにIT部門を介するのではなく、ビジネス部門が自らデータを活用できる環境を目指した」と説明した。
商談分析や産学連携へ、活用領域を拡大
阪急阪神不動産では、アンケート分析を皮切りに、データ活用のユースケース拡大を進めている。
現在検討しているテーマの一つが商談分析だ。Zoomなどで取得できる会話データを活用し、センチメント分析によって顧客の感情や反応を把握する取り組みを構想している。
近藤氏によれば、実証を進める中で商談データから有用な示唆を得られる可能性が見えてきており、今後は現場への展開も視野に入れている。
また、データ基盤を活用した産学連携にも取り組んでいる。滋賀大学データサイエンス学部と協力し、商業施設やオフィスビルの運営で蓄積されたデータを分析することで、新たな価値創出につなげることを目指している。
データを活用して施設運営を高度化し、施設の魅力を最大化する次世代型の施設経営を実現したいという。
データ活用文化の定着が次の課題
一方で、近藤氏は技術導入だけでデータ活用が進むわけではないと話した。
今後の技術的な課題として、データパイプラインの見直しやセマンティックレイヤーの整備、データカタログの充実などを挙げた。しかし、それ以上に組織全体でデータを活用する文化が重要だという。
現場担当者のデータリテラシー向上や成功事例の横展開を進めるとともに、各事業部門が自律的にデータ活用を進められる体制づくりが求められる。
同社は現在、ユースケース拡大から全社展開へと取り組みを進めている段階にある。
「現場に使ってもらって、価値を実感してもらうことがデータ活用推進のカギ。現場に響かないと活用は広がらない」と近藤氏は強調した。
同社は最終的にデータドリブン経営の実現を目指し、データに基づく意思決定が当たり前となる組織への変革を進めていく考えだ。



