東北大学とメニコンの両者は6月10日、現在主流のソフトコンタクトレンズ材料である「シリコーンハイドロゲル」を対象に、材料内部の三次元ナノ構造と物質輸送機能の関係を、新たなシミュレーションシステムを開発して解明したと共同で発表した。

  • シリコーンハイドロゲルの三次元共連続構造

    シリコーンハイドロゲルの三次元共連続構造(出所:東北大プレスリリースPDF)

同成果は、メニコン×東北大 みる未来のための共創研究所の伊藤恵利特任教授、東北大 グリーン未来創造機構 グリーンクロステック研究センターの川越吉晃准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する、ソフトマターを扱う論文誌「Soft Matter」に掲載された。

「NanoTerasu」を活用した解析で新システム開発

ソフトコンタクトレンズ材料には、装用時の快適性に関わる親水性や含水性に加え、角膜へ十分な酸素を供給するための高い酸素透過性が求められる。現在主流となっているシリコーンハイドロゲルは、酸素を通しやすい疎水性シリコーン成分と、水やイオンとの親和性を担う親水性成分を組み合わせた材料である。

ただし、材料内部では両成分がナノメートルスケールで相分離し、複雑な三次元構造を形成するため、その内部構造が酸素やイオンの輸送機能に及ぼす影響の解明が課題となっていた。

このような背景から、メニコンは2024年4月、理想のコンタクトレンズの設計と、環境配慮型コンタクトレンズ流通の構築実現を目的として、東北大 グリーン未来創造機構に「メニコン×東北大学みる未来のための共創研究所」を開設。

同研究所では、東北大が運用する3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」を中心とする量子ビーム施設や電子顕微鏡を横断的に活用した構造解析と、デジタルトランスフォーメーションを活用した計算科学の融合により、コンタクトレンズおよびその資材に関するデジタルツインの構築が進められてきたとする。

今回の研究では、透過型電子顕微鏡観察および三次元再構成により、親水性領域と疎水性シリコーン領域がナノメートルスケールで連続的に入り組んだ「相分離構造」の形成が確認された。相分離構造とは、複数の成分からなる材料中で、成分同士がナノメートルサイズの領域に分かれて存在する構造を指す。各領域のつながり方が、透過性などの機能に影響を及ぼす。

続いて、酸素透過性とナトリウムイオン透過性の評価が行われた。すると、酸素は主にシリコーンに富む領域を、ナトリウムイオンは主に親水性領域を経由して輸送されることが示されたとした。

加えて、分子間の相互作用や材料中での分子の振る舞いを分析する「全原子分子動力学計算」と、粗視化シミュレーションを組み合わせたマルチスケールシミュレーションを用いて、重合に伴う相分離構造の形成も再現された。その結果、物質の通りやすさは各相の分率だけでなく、輸送経路の連続性や分子構造に応じた曲がりくねりの度合いにも大きく左右されることが突き止められた。

現在は、NanoTerasuの活用を中心とした、コンタクトレンズ素材の使用環境である水中における構造解明、特にレンズ表面における水との相互作用を中心とした計算科学の研究が、グリーンクロステック研究センターとの連携によって進められているという。

なおメニコンでは、今回の研究成果から生まれたコンタクトレンズ材料に関する構造機能シミュレーションシステムを「SilicoSim(シリコシム)」と命名。製品開発に活用すると同時に、従来の製品性能の検証にも活用していく方針とした。また、同共創研究所とNanoTerasuをハブとする産学連携による研究活動を推進し、理想のコンタクトレンズの設計を実現することで、東北大学と同時に、同社が目指す「新しい"みる"」を創出するとしている。