東京都市大学(都市大)と国立天文台(NAOJ)の両者は6月9日、有人月周回ミッション「アルテミスII」の月フライバイ時に撮影された皆既日食画像を解析した結果、太陽の周囲を覆うコロナの1成分である「Fコロナ」(太陽系内の微細な「惑星間塵」による散乱光)の広がりと構造を明らかにすることに成功したと共同で発表した。

  • アルテミスIIのクルーがオリオン宇宙船から撮影した皆既日食の画像

    アルテミスIIのクルーが、月フライバイ中にオリオン宇宙船から撮影した皆既日食の画像。今回の研究では、この広報用に撮影された画像を解析することで、画像で隠されている太陽の近傍に広がるFコロナ(月の周囲に淡く広がる白い光)の詳細な構造が明らかにされた。(c)NASA(出所:NAOJ 石垣島天文台Webサイト)

同成果は、都市大 理工学部 自然科学科の津村耕司准教授とNAOJ 石垣島天文台の有松亘講師/天文台室長の共同研究チームによるもの。詳細は、米国天文学会が刊行する、天体物理学の論文誌の速報版「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。

宇宙飛行士による写真が新たな科学的研究成果に

皆既日食の際に月に隠された太陽の周囲に広がる淡い光が、太陽の大気である「コロナ」だ。このコロナは主に、高温のイオンが放つ輝線による「Eコロナ」(Emission corona)と、自由電子による太陽光散乱で生じる「Kコロナ」(Kontinuierlich corona)の2種類に分類される。

これらに加え、惑星間塵が散乱した太陽光による「Fコロナ」(Fraunhofer corona)が存在する。実際には太陽の大気ではないものの、コロナのように見えることから、慣習的にそう呼ばれている。Fコロナは厳密にはコロナの範疇には含まれないが、太陽近傍の惑星間塵の分布を知る手がかりとなるため、その観測は天文学的に重要な意味を持つ。しかし、Fコロナは太陽本体に比べて極めて暗いため、皆既日食時や、特殊な装置を使わないと観測することが困難な点が課題だった。

そうした中、2026年4月1日にアポロ計画以来となる有人月周回ミッション「アルテミスII」が実施された。新型ロケット「SLS」によって打ち上げられた宇宙船「オリオン」には4名の宇宙飛行士が搭乗しており、月を周回して4月11日に地球に帰還した。その飛行中の4月6日、同宇宙船が月の裏側において月の影の中を航行した際、月が太陽を完全に隠す宇宙空間での皆既日食の画像が撮影された。米国航空宇宙局(NASA)はこのJPEG画像を広報目的で即時公開した。

この画像には、地上からは観測が難しいFコロナが広い範囲にわたって撮影されており、通常の地上観測では得られない貴重なものだった。そこで研究チームは今回、この画像を解析したという。

この画像の最大の特徴は、一般的なJPEG画像だった点だ。同方式は圧縮や画像処理が施されているため、通常は精密な科学解析には適さない。しかし今回の研究では、画像内に写り込んだ恒星を利用した感度校正手法を用いることで、この制約を克服。圧縮されたJPEG画像からでも信頼できる輝度分布が復元された。

画像に写っていたFコロナは、黄道面(地球の公転面)に沿って扁平な構造を持ち、東西方向の分布は従来の観測と概ね一致する一方で、南北方向には惑星間塵の分布モデルからの予想よりも広がりを持つ構造が確認された。これは、太陽近傍における惑星間塵の分布をより詳細に制約するものであり、太陽系内物質の起源や進化を理解する上で重要な手がかりになるとした。

  • Fコロナの広がりの図

    (左)アルテミスIIのクルーが撮影した皆既日食の画像から得られた、Fコロナの広がり。(右)従来の惑星間塵の分布モデルから予想されるFコロナの広がり。観測されたFコロナが、モデル予想よりも南北方向(画像内での左下-右上方向)に広がっていることがわかった。Tsumura & Arimatsu, 2026より改変されたもの(出所:都市大Webサイト)

今回の研究は、宇宙で撮影された1枚の画像から宇宙の構造が解明されたという点で、科学と人類活動の新しい接点を示す成果とする。今後、アルテミス計画が進展することで、宇宙探査の現場で得られる1つ1つのデータが、天文学の発展に重要な役割を果たす可能性を強く示しているとした。

また、今回の画像は宇宙探査活動中に得られた「一般公開用の画像」からでも科学的成果を導けることを実証した点でも特筆すべき成果とする。これにより、将来の有人宇宙探査や観測ミッションにおいて、科学目的以外で取得されたデータの活用可能性が広がることが期待されるという。さらに、将来ミッションへの示唆として、月周回軌道からの継続的なコロナ観測ミッションの意義を裏付ける実例になったとしている。