地震や台風、洪水、土砂災害、火山の噴火など、古来よりさまざまな災害に見舞われてきた日本。そうした災害時の明暗をわける要素のひとつに“情報”があります。被害の状況を確認したり、安全を確保したりするための情報は、命を守るために欠かせない大切なもの。いかに正確な情報を得て行動するかが、被害を最小限にとどめる鍵になります。
そんな災害・防災の情報発信に取り組んでいる企業のひとつが、コミュニケーションアプリ「LINE」や国内最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」など、私たちの暮らしに密着したサービスを提供しているLINEヤフー株式会社です。
今回は、同社で防災関連のサービスを担当する三宅真太郎さん、長妻淳一さん、田中真司さんの3名にオンラインインタビューを実施。災害・防災の情報発信にかける想いや、過去の経験を活かしながら進化し続ける同社の情報発信のあり方について話を伺いました。
三宅真太郎さん
2019年にヤフーに入社。災害関連の取り組みや編集に注力し、2020年に気象予報士の資格を取得。現在は「Yahoo!ニュース トピックス」を中心に、気象予報士の資格を活かしながら防災関連業務に携わっている。
長妻淳一さん
2016年にヤフーに入社。「Yahoo!検索」の編集、「Yahoo!ニュース トピックス」の編集を担当後、現在は「Yahoo! JAPANトップページ」編成に携わっている。
田中真司さん
民間気象会社、一般財団法人気象業務支援センターを経て2008年にヤフー入社。気象予報士。「Yahoo!天気・災害」の責任者を務めるほか、スマートフォンアプリ「Yahoo!防災速報」の立ち上げとその運用に携わっている。
東日本大震災の経験から災害・防災の情報発信に取り組む
――まずは、LINEヤフーが災害・防災の情報発信に取り組む理由を教えてください。
三宅:もともとLINEは、2011年3月11日の東日本大震災をきっかけに「緊急時のホットラインとして使えるサービスを作ろう」ということで誕生しました。「Yahoo! JAPAN」としても、あの震災以降「もっと何かできたのではないか」という想いはずっと根底にあって、それが災害・防災の情報発信に取り組む理由です。
現在も災害のたびに「今回の対応はどうだったか」と振り返り、改善につなげる努力をしています。ただ、Webメディアの特性上、ユーザーに情報が伝わっているのかが見えにくいというもどかしさはありますね。伝えたつもりでも、それがユーザーの行動につながらなければ伝わっていないのと同じでは、と常に自問自答しています。
田中:私が担当している「Yahoo!防災速報」というアプリも、東日本大震災をきっかけに生まれたサービスのひとつです。当時は地震や津波の情報だけでなく、計画停電や放射線に関する情報も求められていました。そういった情報をお届けし、災害を自分ごとと捉えて行動できるように、そして被害に遭う人をひとりでも少なくできるようにという想いがサービス立ち上げのきっかけになっています。
このほか、幣社では地震発生時にとるべき防災行動やスマートフォンによる情報収集の仕方を学べる「スマホ避難シミュレーション」や、災害ごとに役立つ知識をまとめた特設サイト「スマホ防災」など、さまざまなコンテンツを提供しています。
「災害マップ」で避難所や給水・救援物資の拠点を示す
――具体的に、災害時に「Yahoo! JAPAN」ではどのような情報を発信しているのでしょうか。
長妻:大規模な災害が起きた場合は、情報を体系的にまとめた特集ページを作成して、「Yahoo! JAPANトップページ」上にリンクを置き見られるようにしています。特集ページではおおよその状況が把握できるように、第一報を補完するニュース、SNSで発信された情報、自治体による公式情報、天気予報などを発信しています。
災害時はとくに、ユーザーの行動につながる情報を提供することが大切です。そのため、過去の知見に基づいて災害ごとにシナリオを作成して、普段からどう対応したらいいのかシミュレーションのようなものを行っています。
田中:特集ページとは別に、普段から気象情報や自然災害に関する防災情報を中心に提供している「Yahoo!天気・災害」ページもあります。このページでは天気予報や気象庁が発表する地震情報、台風情報、土砂災害情報などのほか、自治体が発表する避難情報などを自動配信しています。
三宅:「Yahoo!ニュース トピックス」では大きく分けて2種類の情報を発信しています。ひとつは被災者に向けた情報で、もうひとつが広く世の中に伝えるニュースです。どちらもメディアとしては大切な役割だと考えています。
――2024年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」では、どのような情報を発信しましたか?
三宅:あのときは大津波警報が発表されたので、「Yahoo!ニュース トピックス」で避難の呼びかけをいち早く届けることに力を入れました。そして、さまざまなメディアのニュースだけでなく、公的機関から発表される交通・インフラ情報なども集約して提供しました。さらにSNSのトレンドを検索できる「Yahoo!リアルタイム検索」の仕組みを利用して現地ユーザーのSNS情報を発信し、被災地の様子が少しでも伝わるようにしました。
長妻:「令和6年能登半島地震」でも特集ページを作成しました。特集ページはユーザーの属性に応じて情報を最適化して提供できる仕組みになっているので、自分がいる場所で停電や断水があるのか、このあと天候はどうなるかなどのローカルな情報を的確に届けられるように準備して発信しました。
田中:「Yahoo!天気・災害」と「Yahoo!防災速報」アプリにはユーザーが被害状況などを投稿して情報を共有できる「災害マップ」という機能があり、マップ上で避難所や給水・救援物資の拠点などの情報を掲載して提供しました。
「災害マップ」上に支援に関する情報を掲載するというこの取り組みは初めてでしたが、防災関連業務のメンバー同士で「こうしたら災害のとき、ユーザーはどう思うだろう?」とか「被災者はいま、何が知りたいだろう?」と意見を出し合って、メンバー総出で自治体の公式情報などを集めて発信していったんです。
――元旦でしたが、「Yahoo! JAPANにもう情報が載っている!?」と驚いた記憶があります。
田中:災害にかかわるサービスに携わっていることもあり、普段から震度5弱以上の地震が起きたときはメンバー全員が対応できるような体制は整えています。実際には震度5弱くらいだと大きな被害につながることは少ないのですが、状況によっては被災する方々もいる可能性があるため、大丈夫だろうと思っても、メンバーで確認すべきことはしっかり確認するようにしています。
三宅:技術だけでは対応しきれない部分は必ずあって、こうしたサービスでは人の知見や経験も生かした地道な事前準備や検討が必要になると思っています。私たちのチームでも、2019年に運用が開始された「南海トラフ地震臨時情報」の発表に備えた体制構築に時間をかけていて、その結果2024年8月の「南海トラフ地震臨時情報」発表時にすぐ対応することができました。
過去の経験をもとに能登半島地震で新機能を提供
――東日本大震災以降もさまざまな災害が起きていますが、過去の知見が活かされた事例はありますか?
田中:これまで災害情報を発信してきて、大きな災害のときは当事者も支援する側も「どこで何が起きているのか」を把握することが難しいということを実感しました。避難情報が出ても自分ごととして捉えられず、避難に結びつきにくい。それを解決するために、ユーザー同士で被害状況を共有できる機能として「災害マップ」を提供しました。
「令和6年能登半島地震」の際にはその「災害マップ」の機能を利用して支援に関する情報を届けることを実現しました。実は似たような機能は「平成28年熊本地震」でも試みていて、その経験があったので「令和6年能登半島地震」が起こった際に迅速に対応することができました。
田中:加えて、「令和6年能登半島地震」では道路に亀裂が入ったり土砂崩れなどが起きたりして多くの場所で通行止めが起こったので、通行止めに関する情報を「災害マップ」で提供しました。
これまで災害時の通行止めや通行規制などに対しては特別な準備をしてこなかったのですが、やはり必要だということがわかったので、今後は情報提供元と協力して自動掲載できるようにしたいと考えています。このように、災害を経験するたびに“できなかったこと”を反省して情報発信の体制もアップデートし、次に備えています。
長妻:「令和6年能登半島地震」のときは、これまでの知見をもとに、地震の規模から復旧までに長期化することが予測できたので、地震がある程度落ち着いた段階で、災害情報をまとめたページとは別に「能登半島地震 生活再建・支援に関する情報」ページを作りました。そこでは、罹災証明書の取り方など被災者の方が戸惑われることが多い情報を、わかりやすく視覚化したグラフィックで説明するよう工夫しました。
三宅:ある日突然、誰もが災害の当事者になるわけで、そういう大変なときに難しいことを言われても、困ってしまいますよね。そこで、幣社では情報の量・質だけでなく、パッと見てすぐ理解してもらうための「わかりやすさ」も重視しています。そのひとつの取り組みとして、この2、3年力を入れてきたのがインフォグラフィックで、気象庁や国土交通省の監修を受け、私たちのコンテンツ制作に関する知見も共有しながら、連携して制作しています。
田中:平時からの備えという意味では、災害発生時に起こりやすい急激なトラフィックへの対策も重要視しています。たとえば津波の情報が発表されると、何百万人ものユーザーが同時に「Yahoo! JAPAN」などのサービスにアクセスします。
そんな状況でもシステムがダウンしないように日頃から備えていますが、災害時は何が起こるかわかりません。そのため、災害関連業務のシステムやサービスメンバーは全国に分散し、どこかが被災しても情報を提供し続けられるような体制としています。実際にこれまでの災害でもその体制が活きています。
テクノロジーを活用して、パーソナライズした情報発信
――今後、取り組んでいきたいことを教えてください。
三宅:最近だと生成AIが話題になるなど、私たちの情報環境は大きく進化してきています。災害情報では、正確であることが何よりも大事であることは言うまでもありません。ただし、よりユーザーのニーズに合った情報を届けるには、一律な届け方では不十分だと考えています。そうしたテクノロジーを活用しながら、必要に応じてパーソナライズされた情報を届けたいです。
田中:技術の発展やコンピューターの処理能力の向上で、災害が起きた場所や、河川が氾濫しそうな場所などを瞬時に判断できるようになれば、今は全域でしか提供できていない情報も、より範囲を絞ってきめ細かい情報をお届けできるのかなと思います。一方で、災害に関する情報は間違いがあってはならないので、現在の生成AIはまだまだ時期尚早だとは感じています。そういったところを見極めながら新しい技術は取り入れていきたいですね。
長妻:過去の知見や新しいテクノロジーなどで、LINEヤフーのサービスは常にアップデートされてもいます。「Yahoo! JAPANトップページ」や「Yahoo! JAPAN」アプリが、そうしたサービスのあらゆる情報を組み合わせてユーザーに適切に届けられるような“ハブ”になってくれるといいなと思いますし、今後の課題として取り組んでいきたいです。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
長妻:災害が起きたら、まず「Yahoo! JAPANトップページ」や「Yahoo! JAPAN」アプリを開いてもらえるように、情報提供に磨きをかけていきたいですね。担当するサービスがさまざまな人の命を守る行動につながっていけるといいなと考えています。
田中:災害情報を自分ごととして捉えていただきたいという想いがあるので、今後もユーザーの皆さんにとって、よりパーソナライズされた身近な情報を発信できるよう、本当に頼りになるサービス作りをこれからもしていきたいです。
三宅:避難情報から復旧・復興の情報まで一連の情報を届けられるのが私たちの強みです。現在、LINEヤフーにはさまざまなサービスがありますが、災害が起きてから使い始めるのではなく、ぜひ普段から使い倒していただけたら嬉しいですね 。